こんにちは、テキサス・レンジャーズの建山義紀です。
と、言いたいところやけど、この記事が出る頃にはまだFAのままやろうから、どこのっていうのはわかりません。決まったら必ず報告するので、もうちょっと待っててね。
それにしても今年は苦労したシーズンやったな。アメリカにわたって1年目はとにかくがむしゃらに投げまくった。2年目はぼくのことが相手にも知られて研究もされてきますから、がむしゃらさだけではどうにもならないところが出てくる。そういう苦労は、2年目を迎える選手はだいたい経験していくことでしょうが、苦労したぶん実りもあったんです。まずは、そのあたりからお話ししましょうか。ココだけの話やで!
アメリカ野球を深く知ること
まずアメリカでの2年目の印象。これは 「アメリカの野球を深く知ることができた」 という一言につきますね。
今年2012年のシーズンは昨年以上に、意識的に、相手が何を考えているのかを知ろうとしながらプレーしてきたんです。わかりやすく言うと、バッターと対戦するときに、「この相手は今この状況をどうとらえているか?」 「いま、ぼくが考えていることをどう読もうとしているか?」 「どんなバッティングをしたがっているか?」 ということを、対戦を通じて読み、見抜こうとしてきた。
もちろん相手ピッチャーについても同じで、「こいつは今どんなことを考えて投げているんだろうな?」 と観察していく。対戦チームの選手だけじゃなく、自分のチームの選手たちに対しても、「今、こいつは何をしたがっている?」 と常に考えを読もうとして接してきたので、アメリカの野球シーンを取り巻く選手たちの考え方がどんどんぼくの中に入ってきた。それは経験値という点で、とても大きな財産になりましたね。
壮絶な心理戦の果てに
当たり前のことですが、ピッチャーは単にボールをベース板に向けて投げていたらバッターを抑えられるというものではありません。バッターはバッターで、ぼくたち投手陣が投げたボールを必死で打とうとしてきます。一打席一打席に生活がかかっていますからね、死にもの狂いで攻略してこようとしてくるから、その迫力はすごいですよ。もちろんぼくだって簡単に打たれたら 「ヨシは役に立たない」 なんて言われかねませんから、負けるわけにはいかない。
相手は 「タテヤマは次にどんな球を投げてきやがるんだ?」 と予想をめぐらしますし、ぼくは 「こいつは次にどんなボールが来ると予想してるだろう?」 と考える。壮絶な心の読みあい、心理戦が繰り広げられる。その結果、相手が考えていないことをして、相手の思考の上をいったほうが勝つ。それは日本でもアメリカでも、プロどうしの戦いにおいては変わらない真理でしょうね。
先手必勝、常に先駆け
だからこそ、相手が考えていることをよく知るという研究スタンスが、自身の成績に大きく影響してくるんですよ。
ピッチャーでもバッターでも、研究熱心な人は、ただ 「打った」 「投げた」 だけでなく、やはりしっかり勉強しているからこそ、それなりの成績を残していると思います。ピッチャーならば、その日に対戦するバッターがどんなところを見ているのか、どんな罠にかかりやすいのか、一打席ごとにビデオルームでチェックする選手もいますから。実際に一流と呼ばれるバッターと対峙するときは、そういう細かい研究と心理戦で上をいかないと、あっという間に打ち崩されてしまいます。
相手に読まれない。常に相手の上を行く発想で勝負に挑む。そのためには、相手が思いもよらないようなことを先駆けてやっていく必要がある。それはピッチャーがマウンドに立ったとき、バッターがバッターボックスに立ったときに初めて考え始めるのでは遅いんです。先駆けてできることはどんどん挑戦していく。ぼくらがいる世界は、普通にやっても通用しませんから、それくらいやらないと。ビジネスの世界にも、入社2年目になって見えてくることとか、共通する部分はあると思います。
だからこそぼくの場合は、そのような発想や技術を支える体づくりは、オフシーズンには欠かせないものなんですよね。
話題の体幹トレーニングに挑む
ということでご多分に漏れず、ぼくもいま、札幌の北海道日本ハムファイターズの施設を借りてトレーニング漬けですわ。
駆け引きとか心理戦とかもさることながら、この年齢になってくると (気づくとぼくももう37歳やないか・・・)、技術的なことよりも体力の低下を防ぐことが重要になってくる。今年の体力を維持するというよりは、「もっと体力がつくはずや!」 と思うぐらいじゃないと、現状維持をすることすら難しいんです。
今のぼくの日課は、毎日午前中に3~4時間くらいの体力づくり、筋力づくりですね。単にウエイトトレーニングと言っても、皆さんがジムでやるものとは少し違う。身体の表層の筋肉だけでなく、今話題の体幹をしっかり磨き上げようと独自のトレーニング手法を取り入れているんです。
年内に土台を作る
来シーズンに向けて、オフはとにかく体づくり!
たとえば天井からロープを2本吊り下げて、吊り輪をしている体操選手が最初にとるようなポーズで静止してみたり。見ると 「ああ、なるほどね」 と思っていただけると思うんやけど、書くとどう伝えたらいいか難しいもんやな(笑)。このポーズは、何というか、内側からしぼり出されてくるような力がないと維持できないんですよね。
こうした地道なトレーニングを、専門のトレーナーとともに考えて、相談をしながらこなしていくんです。で、年内のうちに筋力アップをはかり、年明けからは身についたパワーを投球にどうつなげていくのか、調整をしていくことになるんです。一口に体力アップといっても、ピッチングに役立たないと意味がありませんから、そのへんのバランスを常に考えている状態ですね。遊んでいる暇なんてなさそうやろ?(笑)
来シーズンのチームがまだ決まっていないだけに、具体的な目標とかは言いにくいんですけど、アメリカの野球を深く知り得た今、来年はもっと違う活躍ができるんじゃないか、もっと違う存在感を放てるんじゃないか。そう考えてワクワクしながらトレーニングをしていますよ。
皆さんも、年の瀬の慌ただしさに負けず、自主トレでもして体力付けて、よい年をお迎えくださいね!
ではまた来年!
執筆者プロフィール
建山義紀 Yoshinori Tateyama
メジャーリーガー
経 歴
1975年、大阪府出身。中学時代からボーイズリーグにて野球を始め、現在のピッチングを支えるサイドスローを確立。東海大仰星高校ではエースとして君臨。1998年にドラフト2位で北海道日本ハムファイターズに入団すると、ルーキーイヤーの1999年にいきなり先発ローテーションへ定着。2002年から2004年にかけてセットアッパーとしての才覚を表すと、リーグ最多の13ホールドを記録し、最優秀中継ぎ投手を獲得。その後、先発・リリーフともに計算できる投手としてチームに貢献した。2010年に海外FA権を行使してのメジャー挑戦を表明、テキサス・レンジャーズとの契約を勝ち取った(2012年12月現在FA中)。サイドスローから繰り出す角度のある速球と、ダルビッシュ有選手をして 「球界最上」 と言わしめたスライダーが武器。
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