佐々木朗希投手のメジャー行きの決断に対し
プロ野球ファンが感じる胸のしこりとは
それに比べて・・・と比較するものではないかもしれないが、佐々木朗希投手はなぁ・・・。すごい選手なのがわかっているだけに、美しくない形で千葉ロッテマリーンズを辞めてMLB(メジャーリーグベースボール)に行く決断をしたのは残念だったなぁ。
知らない人のためにポイントだけ説明すると、メジャーリーグでは25歳未満の選手は、いかに日本で実績があろうとも、マイナーリーグの選手として契約することになる。俗に「25歳ルール」と言われている規定で、アメリカ側の青田買いを防ぐ日本との紳士協定だ。
だから、佐々木投手はあと2年日本で活躍して普通に交渉していれば、ドジャースに行った山本由伸投手みたいに400億円クラスの大型契約になっていたはずだが、マイナー扱いだから下手したら40分の1以下の契約をすることになる。報道によれば契約金は最大でも750万ドル(約11億4000万円)止まりらしい。ロッテ球団に支払われる譲渡金は規定でその25%の187万5000ドル。約2億9000万円だ。
山本投手は複数年契約だからドジャースからの支払いはまだ残っているけど、彼がオリックス球団に“還元”してくれた譲渡金は、全部で約72億円にも上る。その佐々木投手の才能は山本投手以上と評価されているのに、片やオリックス球団は72億円を得たいっぽうで、ロッテ球団は多くても3億円しか得られない。これじゃさすがに、日本プロ野球ファン――特に千葉ロッテマリーンズファンの皆さん――が「朗希の恩知らずー!」と嘆きたくなるのも、無理はないと思う。
だって、ロッテだってタダで佐々木投手を獲ったわけじゃないから。5年前に高卒ルーキーで迎え入れた際の契約金は最上限の1億円+出来高払い5000万。しかも、球団は彼を即戦力で稼働させることはせず、ダルビッシュ有投手や大谷翔平投手も育てた名ピッチングコーチである吉井理人・現監督のもと、体づくり優先の起用法を続けてきた。本来なら投げてもらわなきゃ困る場面でも、本人の体への負担を慮って投げさせなかった。それで取り逃した勝ち星もゼロじゃなかったはずだ。
その意味では、球団は佐々木投手に“貸し”がある。貸し借りの話にするのが不適切なら、「佐々木投手は球団に特別枠で大切に育ててもらった恩義がある」と言い換えてもいい。そしてこの“恩”とか“義理”とかの感覚が、まさに今、私たち日本のプロ野球ファンが佐々木くんに対して感じている、胸のしこりなんだよね。
「25歳ルール」をめぐる
大谷翔平選手と佐々木選手の差
だけど、大谷くんの場合、日本ハムファイターズで年間通してローテーションの柱になり、入団2年目からはエース格。4年目の2016年にはチームの日本一の立役者にもなった。打者としても年間20本塁打以上打ち、これ以上ないほどチームに貢献した。納得できる実績を残したうえでの移籍だったんだ。まだ年間通して投げたこともない佐々木投手とはそこが違う。
・・・だけど、どうしても今行きたい佐々木くんの気持ちもわかる。若いうちは焦っちゃうんだよなぁ。またメジャーはトレーニング理論も施設も科学的ですごいから、日本にいる時間がもったいなさ過ぎて、たったの2年が待てないんだろうね。
私たち一般人の感覚からは、才能だけでは通用しない世界なのだから、あと2年は日本で年間通して動ける体力と技術とメンタルと万全な下地をつくってからのほうが、球団にも桁違いの恩返しができるし、自身も短命で終わるリスクが減るし、ファンや球団との将来的関係も良好に保たれるしで、いいことづくめなように思うんだけどなぁ。
どのチームに入るのが一番良さそうか
マーケティング戦略からの私の見解
一部報道ではダルビッシュ投手がいるサンディエゴ・パドレスも可能性があるという話だけど、どちらにしても応援する私たちからしたら楽しみしかない。
ドジャースの場合、佐々木くんを獲得することが球団のアジア戦略にも合致している。今年のドジャースがチーム開幕戦を韓国のソウルで開催し、2試合目に山本投手を先発させたのも、アジア戦略の一環だ。
どういうことかというと、MLBの中でもアジアの玄関口となる西海岸に本拠地を構えるロサンゼルス・ドジャースは、今、アジアの野球関連のマーケットを本気で狙っている。そのために、同じアジア人がメジャーで無双している――大谷翔平選手のことだ――の人気を、アジアンマーケット進出における橋頭堡にしたい。そこに次のスター候補の佐々木くんも加えたいと考えるのは自然な流れだし、すごい熱意で交渉に臨むはずだ。
私がこのような見解を話したら、サッカー好きの編集部の担当者さんがこんな話をしてくれた。――FIFA(国際サッカー連盟)が今、アジアのサッカー市場を狙っており、そのために次回2026年のワールドカップのアジアからの本選出場枠をこれまでの4.5から8.5まで大幅拡大した。それにより、まずは中国を本選に出場しやすくした。もはや商業主義を隠そうともしないFIFAにとり、人口14億人を抱える中国は喉から手が出るほど欲しいマーケット。FIFAは、中国の次はインド、インドネシア、ベトナムと狙っている。
担当者さんに言わせれば、「ですから、正直、MLBを始めドジャースがアジアのスポーツ市場に食い込むのは難しいと思います。野球より先にサッカーがもう入ってるから」ということだけど、そんなことは織り込み済みだ。
ワールドスポーツのサッカーと比べれば野球はローカルなスポーツだ。アジアで日本以外に盛んなのは韓国と台湾ぐらい。これから中国やインドに広めるとしても、サッカーの市場規模と比べたら野球の市場規模なんて、その1割にも満たないだろう。
けど、マーケティング戦略で考えたら、アジアの人口は今や世界人口の半分近くまで押し上げている。40億人超えも秒読みだ。人口すなわち市場規模だけが唯一じゃないが、アジア人初のMLBスーパースターが誕生している今、ここは一気にアジア市場に打って出るチャンスだ。その意味でも、ドジャースのアジア戦略は理に適っている。
ま、本来ならばNPB(日本野球機構)がアジア戦略を実践するチャンスなんだけどね。
いずれにしても、メジャーで無理させられて肩を壊して短命で終わる・・・みたいなことだけにはならないよう祈るばかりだ。私たち日本のプロ野球ファンはそれだけなんです。
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vol.97 野球の佐々木朗希選手のメジャー移籍をどうとらえるか
(2024.11.27)
著者プロフィール
佐藤 勝人 Katsuhito Sato
サトーカメラ代表取締役副社長/日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント/想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント/作新学院大学客員教授/宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師/商業経営者育成「勝人塾」塾長
経 歴
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に「地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法」(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。
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