こんにちは、テキサス・レンジャーズの建山義紀です。
今年始まって最初のコラムになり、少しお待たせしてしまいました。報道でもご存じのとおり、今年もレンジャーズでお世話になることになりました。ひとまず、お待たせしたファンの皆さま、ありがとうございました。
さて、気が付くとだんだん日が長くなってきている3月。あと一ヶ月もしたら桜も咲くでしょうし、いよいよ春ですね。野球界の春といえば、やはりキャンプ。アメリカでのシーズンも3年目を迎えるから、今シーズンこそ自分の真価が問われることになるやろうな。アメリカ野球の酸いも甘いもわかって挑むシーズンだから、言い訳など誰も聞いてくれません。プレッシャーもありますが、自分との真剣勝負が楽しみな1年ですよ。
シーズンが終わってから
そんな大勝負の1年を迎える前に、やはり大事にしなくてはいけないのが体づくり。キャンプでいい状態に持っていくためには、シーズンが終わる冬場の10月から11月にしっかりと体を作りこまないといけません。もっとも、そのチームのシーズンがいつ終わるかにもよるので、毎年オフシーズンの時期は様々。昨年はあまり純粋なオフをとらずに自主トレに入ったかなあ。
今年もトレーニングでは体をイジメました。どうイジメたかって? しゃあない、皆さんには教えたろか。ココだけの話やで(笑)。
断食で体を整える
体操種目の吊り輪みたいなトレーニング。これ、めっちゃキツイねん!
まず、トレーニングをする前に、シーズンを通して酷使した体をメンテナンスしていかないといけません。そのケアにはいろんな方法がありますが、ぼくが取り入れているのは断食。いろいろと調べていくうちに、体の炎症を鎮め、内臓を休めることができる3日間の断食が自分の体のリセットにはいいとわかってきました。
飲み物や食べ物の中には体によくないものもたくさんあって、それが膝や肘など、選手が酷使する場所の炎症を促進してしまうことがあるんです。そういうものを鎮めて、トレーニングの負荷をかける前に体を本調子にすることが断食の目的。もちろん皆さんが実践する場合は、専門家にきちんと指導してもらいながらなさってくださいね。ちなみに、食べないわけですから、食べ物のありがたみがほんまよくわかるのも、断食ならではちゃうんかな(笑)。
毎年基本になるトレーニングはあるんですけど、必ずしも同じメニューというわけではありません。前年の調子や、その時々の疲れも考慮しないといけませんからね。ですから、毎年、その時々の自分に合った新しいメニューを探して取り入れたりしますね。今回の自主トレは、前回12月にも話したとおり、主にバランス系のトレーニングと体幹強化に時間をかけました。やはりピッチャーはバランス感覚が非常に重要だし、体幹の強さはそれを支えるもんやからね。
自主トレで困ること
でもね、日本で自主トレするのはいいんですけど、ひとつ困ることがあるんですよ。それは練習相手の確保。練習場所もしっかり探しておく必要がありますが、そもそもキャッチボールができる相手がいないと野球になりませんからね。ぼくの場合は幸いなことに、練習場所は古巣の日本ハムが協力してくれて貸してくれますからありがたい。持つべきものは愛する古巣です(笑)。
練習相手も、もちろんさすがに現役選手にお願いするわけにいきませんが、球場に手伝いに来てくれる人なんかは古くからの顔見知りだったりするから、快く引き受けてくれます。一緒に汗水流した仲間ですから、すごく大事に思ってくれて、応援してくれてるのがよくわかりますよ。
もうひとつ日本ハムの練習場にいると、選手として刺激を受けることが多くある。稲葉さんほか、ぼくより年上で現役を張っている人たちもたくさんいますから。ぼくの年齢になってくると、体への不安がやはり少なくないのですが、「いたわっていけば、まだまだ大丈夫だ」 と励まされたりもしますからね。エエ先輩方やな。もちろん後輩だっていますから、ぼくもチームへの恩返しではないですが、指導をしたりもしていますよ。そういう関係って、なんだかいいですよね。
挑む後輩へエールを
特に今年は、日本ハムから田中賢介くんがフリーエージェント宣言をして、メジャーへ挑戦しますよね。聞くと、大幅に年棒が下がっても挑戦したいと話していたので、ぼくも先輩として何かできないかと思いました。それで、年末に田中くんを自宅に招待して、一緒にワインを飲みながら話をしたんです。「ええか、ココだけの話やで」 って(笑)。 そのときは彼はまだ所属先が決まっていなかったから、アメリカでの生活そのものについてや、1年間のシーズンの流れなど、じっくりいろんな話をしましたよ。田中くんも、アメリカでのことを文字通り根掘り葉掘り聞いてくる。ぼくもそうでしたが、やっぱり不安はどうしてもありますからね。特に彼は通訳なしで挑むようなので、コミュニケーションギャップをどう解消するかについては余すところなく伝えました。
キャリアで見るのがアメリカ流
実際に彼が所属することが決まったサンフランシスコ・ジャイアンツにはマルコ・スクータロやホアキン・アリアスといった実力者がいて、競争も過酷なものになるはず。だからこそ、コミュニケーションの段階で躓くようなことがあってはならない。「とにかく積極的にいく。それが肝心やからな」 って話しましたね。
えっ、積極的にいくってどういうことかって? なあに、堂々としてりゃいいんです(笑)。 メジャーは自分がそのチームに居た年数よりも、野球人としてのキャリアで物事を見るし、見られます。メジャーで長く活躍している選手は新入団の選手であっても堂々としてますし、そもそも先輩後輩という境がなく、みんないきなり仲良くなっていくのがアメリカ流。自分がやるべきことをやって、堂々と語りかけていけば大丈夫なんです。
こんなふうに偉そうに話した以上、田中くんみたいにアメリカを夢見る後輩たちに、カッコ悪いところは見せられへんな(笑)。 まずは今自分がすべきことをやり、開幕メジャーの位置を確保し、メジャーでずっとやっていくこと。それが目標です。これから選手どうしのサバイバルでもあるキャンプに突入。よっしゃ、燃えていくで!
執筆者プロフィール
建山義紀 Yoshinori Tateyama
メジャーリーガー
経 歴
1975年、大阪府出身。中学時代からボーイズリーグにて野球を始め、現在のピッチングを支えるサイドスローを確立。東海大仰星高校ではエースとして君臨。1998年にドラフト2位で北海道日本ハムファイターズに入団すると、ルーキーイヤーの1999年にいきなり先発ローテーションへ定着。2002年から2004年にかけてセットアッパーとしての才覚を表すと、リーグ最多の13ホールドを記録し、最優秀中継ぎ投手を獲得。その後、先発・リリーフともに計算できる投手としてチームに貢献した。2010年に海外FA権を行使してのメジャー挑戦を表明、テキサス・レンジャーズとの契約を勝ち取った(2012年12月現在FA中)。サイドスローから繰り出す角度のある速球と、ダルビッシュ有選手をして 「球界最上」 と言わしめたスライダーが武器。
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