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繁盛請負人・佐藤勝人の時事国々リポート vol.94 寅さんのおもしろさと凄みが今になってわかった

ビジネス 繁盛請負人・佐藤勝人の時事国々リポート vol.94 寅さんのおもしろさと凄みが今になってわかった 繁盛請負人・佐藤勝人の時事国々リポート 商業経営コンサルタント/サトーカメラ代表取締役副社長

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こんにちは、佐藤勝人です。もうオリンピックは終わりましたが、私はライブではほとんど見てなかったんだよな~。朝のワイドショーで感動シーンを観られたからそれだけで十分でね。自分の体調管理もあるので夜遅くテレビにかじり付くことはしなかった。ただ、日本人選手の活躍と共に、不思議とそのタイミングで、日本映画の世界に没入していった。
 
 

無意識に受け取っていた価値観や規範が
「なぜそうなのか」という背景と一緒に理解できた

 
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第1作から第4作まで撮影に使われた「とらや」
その日本映画とは他でもない、『男はつらいよ』だ。監督・脚本:山田洋次、主演:渥美清。1969年の第1作から2019年の第50作まで堂々50年も続いた、日本人なら誰もが知っている、まさに“国民的映画作品”だ。
 
1作目の次は2作目、その次は3作目というふうに順を追って、途中を飛ばさず、第44作まで観ているところだが。いくつか一緒に見た娘は、「展開が毎回同じでつまんない。何がおもしろいの?」みたいなことを言ってたけど、若いうちは『寅さん』――通りがいいから作品のことも時々こう呼ばせてもらおう。登場人物としての寅さんを意味する箇所ではカッコなしにして区別しよう――の良さがわからないのは仕方ない。私も若い頃は娘と同じ感想だったからね(笑)。
 
でも、59歳になって初めて、第1作から鑑賞することにしてみた。そうしたら、ものすごく勉強になるんだよ。
 
寅さんは昭和の日本人の象徴であり代表だ。今の40代50代の人たち、つまり私と同世代の人たちは、考え方や価値観、行動指針といったものに関し、深いところで大なり小なり、あの作品の影響を受けている。だって、作品がつくられた頃に大人だった世代、つまり『寅さん』に登場してくる人物は、私たちの親の世代だから。私たちが子どもの頃に親や先生たちから言い聞かされたこと、教えられたこと、リアルにいたあの時代の大人たちの言動や行動、その背景にある、ものの捉え方や倫理観――そういったものがすべて、『男はつらいよ』の中には描かれている。
 
そのつもりで見てご覧よ。めちゃ勉強になるから。「あのとき親父が俺にあんなことを言ったのは、そうか、こういうことだったのか」とか、「だから先生はあのとき俺たちを叱ったんだな」とか、当時はただ無意識に受け取るしかなかった事柄が、「なぜそうなのか」「なぜそれが規範とされるのか」という説得力を伴って自分の中で再定義されてくる。こんなおもしろいタイムスリップ感覚はない。
 
 

寅さんの成長の鍵は
自己受容にある

 
傍から見たら映画鑑賞なんだけど、映画を見ているだけじゃないんだよね。勉強しているんだよ。その勉強は自己理解を深めるためであり、自分たちを育ててくれた恩師や先生世代、親世代がどう生きていたかを知りたくなっての勉強なんだけど。昨年10月に親父を亡くしたせいか、そういうことが気になってね。
 
第44作まで見たと述べたけど、44作の封切りは平成3年、西暦で言うと1991年だ。作中では妹のさくらの息子で甥っ子の満男くんという男の子がいるんだけど、私と同世代でね、自身の思春期の頃の目線で見ても当時の雰囲気がちゃんと伝わり、あの頃にはわからなかった、日本経済とその中を体験してきた自分が、現在の思考で捉えるとよーく理解できるんだ。今だからわかるのがまたいい。
 
また寅さんの成長も、いいんだよな~。最初はまぁ、無学の“自由人”というだけだったのが、段々言うことが哲学的になってくるんだ。思春期の満男くんが尋ねる質問も人生の本質を突くような質問でね、それに対して寅さんが、ズバッと答えるんだけど。それが誰に対しても無学であることを隠さず全面に出して、自分の体験から発する言葉だから、説得力を感じるわけさ。1作から見ているから私も寅さんの過去を知っているので、その体験から発する言葉が腹に落ちるんだよね。
 
そして、ここがまた泣かせるんだけど、寅さんが満男くんに言うことの中には、「自分はそうできなかったけどお前はこうするんだぞ」という、相手を思いやる言葉があって。それに対し満男くんが反抗して言うわけよ。「そんなこと言ったって、伯父さんだってできてないじゃないか」って。
 
確かに私も若い頃は親父とか大人たちに同じことを言ってたなあ~。「そんな偉そうなこと言ったって、親父だってできてねーじゃん」って。それは目の前に見える現象しか見ていない、それ以外は嘘だと思ってたんだ。今思うと表面しか見えていないってことだ。
 
寅さんは自分ができなかったことは経験済みで知っている。だからこそ、「お前は俺のようになるなよ」と満男くんに諭すことができる。それは自分のことを棚に上げて言っているのではなく、それを恥ずかしくもなく曝け出せる、できなかった自分を受け容れていることがすごい。
 
普通はこれができない。自分の過去と、その結果である現在の自分を受容できない。――でもさ、誰だってその時その時でベストの選択をしてきたはずでね。問題は「そこから何を学ぶか」なんだ。私は最近、船井幸雄の言葉で「過去オール善」ということをよく使うけど、それも、寅さんにとっては当たり前の思考だったのだ。
 
またおもしろいのが、満男くんと私が同世代だから、満男くんの視点を通して、思春期や子どもの頃の自分の思考を思い出しては共感できるんだよね。小学生の頃は学校の友だちも寅さんのことを馬鹿にするし、周りの大人が「寅みたいになっちゃダメよ!」みたいなことを言うから、ちゃんとしよう・・・と思っているんだけど、大学生になると、自由に生きる寅さんに憧れる気持ちが湧いてくる。「寅さんは単に好き勝手に生きているダメな大人ではなく、寅さんは僕たち自身じゃないか? 寅さんの行動を笑うのは自分を笑うのと同じだ」なんて言うわけよ。
 
そこでふと気付かされてね。作中の寅さん自身が段々と現在の私の年齢に近づいてくることで、寅さんの気持ちというか、日本人なら誰でも持っている「寅さんの部分」が痛いほどよくわかるようになって。終いには「俺が寅さんになっていた」という不思議な追体験をしている。
 
 

読者の皆さんにもお勧め
自らの思想的ルーツの勉強のために

 
作中の寅さんは44作目では50代の設定で、甥っ子の満男くんは学生だ。この連載を読んでくれているB-plus読者の皆さんもかなり共感すると思います。
 
しつこいようだけど、コメディ映画を装ったヒューマン映画だから、1作目から見ないと駄目だよ。年代を追って見ることで、日本の高度成長やオイルショックにプラザ合意などの社会の変化が自分の中で再現されるし、寅さんの成長は自分の青年時代から再現(追体験)できるし、満男くんの成長は自分の子ども時代を再現(追体験)できる。だから、しっかりと2人に自己投影しながら見ること。
 
私だって、若い頃はテレビの金曜ロードショーとかでしか観たことがなかったから、作品の良さがまったくわからなかった。しかし、今回通しで見てあらためて、この映画は全50作で一つの長編作品なんだなと思った。
 
夏休みはもう終わるけど9月になればシルバーウィークもあります。自分たちがどんな思想的ルーツのうえに生きているか、秋の夜長に『男はつらいよ』で人生を振り返ってみてはいかがでしょうか。
 
 
 
■8月21日・22日 富山勝人塾
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繁盛請負人佐藤勝人の時事国々リポート
vol.94 寅さんのおもしろさと凄みが今になってわかった
(2024.8.21)

 著者プロフィール  

佐藤 勝人 Katsuhito Sato

サトーカメラ代表取締役副社長/日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント/想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント/作新学院大学客員教授/宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師/商業経営者育成「勝人塾」塾長

 経 歴  

栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に「地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法」(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。

 オフィシャルサイト 

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 オフィシャルフェイスブック 

https://www.facebook.com/katsuhito.sato.3?fref=ts

 サトーカメラオフィシャルサイト 

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