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オタクのためにユニークな商品やサービスを生み出しているオタク会社を紹介する連載。第6回に登場するのは、株式会社SO-ZO(ソウゾウ)です。二次元の作品とコラボしたインテリア商品を企画開発、販売し、一室をまるごと作品モチーフの空間に仕立てる「痛部屋」を手がける同社は、2014年、代表取締役を務める王冉(おう ぜん)氏によって設立されました。当時、王社長が早稲田大学在学中だったことから、“中国人留学生が立ち上げた会社”として一躍話題に。それから8年、同社は今も変わらず「痛部屋」という唯一無二の事業を展開しています。王社長が、異国の地でビジネスを続けてこられた原動力とは?
 
 

オタク文化への憧れを胸に来日

 
glay-s1top.jpg インテリアから壁紙まで、空間をトータルプロデュース
インテリアから壁紙まで、空間をトータルプロデュース
留学生起業家として脚光を浴びた王社長でも、最初は中国の大学に進むつもりでした。ただ、合格していた専攻では勉強したかったものづくりを学べなかったため、留学を決意。日本を選んだのは、小学生の頃から日本のアニメや漫画に触れ、身近に感じていたから。ほとんど日本語がわからない不安よりも「日本のサブカルチャーが好き」という気持ちに突き動かされた王社長は、早大・創造理工学部へ入学します。
 
転機が訪れたのは3年生のとき。必要単位をほぼ取得し終えていた王社長は「時間を有効に使いたい」と、先輩が受講していた「起業家養成講座」を受けてみることに。さらに、大学内のビジネスコンテストに挑戦します。その際発案したのが、クリエイターが描いた作品をさまざまなグッズに商品化し、販売するというもの。専用プラットフォームにアップされたイラストを基に商品案を生成・公開し、消費者はその公開された商品イメージを見て購入する仕組みです。自身の作品を周知したいクリエイターの支援にもつながるのが特徴で、「二次元とものづくりをかけ合わせたビジネスがしたかった」という王社長ならではのアイデアでした。コンテストで優勝した王社長は「いずれ起業したいとは思っていたけど、日本ではひとまずメーカーに勤める気でいた」という考えをあらため、SO-ZOを立ち上げます。
 
ただ、会社設立と同時に競合他社が多数出てきてしまったために、同社は一般的なグッズからインテリア商品の企画開発・販売に特化した事業に舵を切り直します。「二次元の作品とコラボした壁紙やカーテンなど大きな商品を扱っているところはほとんどなかったので、これでいこうと決めました」。また、王社長がものづくりのノウハウを活かして簡単なリフォームまで手がけられたため、商品企画開発から販売、施工まで一貫して引き受けられることも武器に。これが現在の同社のメイン事業である、「痛部屋」につながっていくのでした。
 
 

「好き」の気持ちがどんな壁も超えさせてくれた

 
日本に来てわずか3年でビジネスを立ち上げた王社長。ただ、留学を機に日本語を学び始めた学生にとって、難解なビジネス用語の習得は一筋縄ではいきません。さらに仕事柄、著作権にまつわる法律やルールについてまで勉強しなければならない日々。「経済やビジネス系の授業を取って勉強するしかありませんでした。著作権の利用許諾を取得するときは、外国人だからというより“学生”だから取り合ってもらえないこともあったけど、信頼を得るにはやはりコミュニケーションが不可欠。その点では、早大の先輩や友だちが助けてくれました」。ちなみに同社を立ち上げる際、先輩が資金繰りもサポートしてくれたそう。「起業するとき、一番の壁だったのは言葉と人脈不足。でも、そのどちらも大学というネットワークのおかげで克服できました」。
 
現在は「痛部屋」以外に、インテリア商品を販売するECサイト「イタテリ屋」の運営や、使用許可取得済作品のプリント商品を受注生産する「イタプリ」などの事業を展開中。「痛部屋」については顧客の大半がホテルや旅館などの宿泊施設で、日本のアニメや漫画を好む外国人はもちろん、推し活の一環として“ホカンス”を楽しみたい日本人向けに“痛ルーム”を提供したいという問い合わせが多いといいます。そんな依頼を受け、同社はこれまで『ユーリ!!! on ICE』をはじめとした話題作のキャラルームを多数手がけ、実績を重ねてきました。同社が携わったあるホテルでは予約開始と同時にアクセスが集中し、公式サイトが一時ダウンしてしまったことも。利用者に記入してもらうアンケートには、枠から溢れるくらいの文量で感想を書いてくれる人もいるのだそう。「その宿泊施設だからこそ成し得るデザインにこだわっているので、喜んでいただけるとやりがいを感じますね」。
 
話題となった『続 刀剣乱舞-花丸-』のコラボ客室
話題となった『続 刀剣乱舞-花丸-』のコラボ客室
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『ユーリ!!! on ICE』のコラボ客室にはキャラを印刷したベッドカバーを導入。添い寝できる仕様に!
人気作品『おそ松さん』は和のテイストに仕上げた
人気作品『おそ松さん』は和のテイストに仕上げた
こちらも和室を使った『銀魂』のコラボ客室。あちこちにキャラクターがいて楽しい
こちらも和室を使った『銀魂』のコラボ客室。あちこちにキャラクターがいて楽しい
ただ、近年のコロナ禍で宿泊業界が甚大な打撃を受けたのに伴い、同社もかつてないほどの厳しい状況に立たされました。そのぶん「イタテリ屋」の運営をより活発化させるなど、とにかく会社を存続させるための打開策を考えていたと王社長。幸い、コロナ禍の巣ごもり期間に二次元にハマる人が増えたことで商品の売れ行きは良く、何とか危機を乗り越えられたといいます。
 
 

「痛部屋」プロデュースは想像以上に大変。でもやめられないのは・・・

 
ホテルとのコラボで生産した商品は、ECサイト「イタテリ屋」で購入できる
ホテルとのコラボで生産した商品は
ECサイト「イタテリ屋」で購入できる
ウィズコロナ時代に差しかかり、宿泊業界に徐々に活気が戻ってきたことで、最近では「むしろコロナ禍前よりも問い合わせが増えている」。その間新たな人気作が次々と生まれ、そのぶん依頼も舞い込んできているものの、それはそれで苦労があるのだとか。「著作権の利用許可が下りるまで1年かかる場合もあります。たとえ今人気があっても、キャラルームをオープンする頃には人気の絶頂期が過ぎているかもしれない。また、作品自体の人気は衰えなくても、キャラルームに行くほどの熱量を保っているファンも依然として多いかというと、それはわかりません」。ただ言われたとおりに痛ルームをつくるのではなく、作品の人気の持続性やキャラクター性、ファンの特性などの見極めも必須で、「実は考えないといけないことが多くて大変(笑)」。

そんな苦労がありながらも仕事が楽しく、日々充実していると王社長。コロナ禍で2年半以上、中国に帰れていないことについては少し寂しそうな表情を浮かべながらも、「帰れたとしても仕事すると思う」と笑いました。異国の地で、さらに学生という立場での起業に始まり、昨今のコロナ禍など幾多の試練があったにもかかわらず、夢中で取り組んでこれたのは、やはり日本のアニメ・漫画が好きだからだといいます。
 
「“好き”という気持ちがあれば、挫折してもまた立ち上がれます。会社を設立した直後に競合他社が出てきたときもそう。アニメや漫画が好きでそのビジネスを諦めたくなかったから、他のやり方を見つけ出せて今につながっています。今も大変なことは多いけど、好きなことを仕事にでき、同じ趣味を持つお客様が喜んでくれる。そのためならいくらでも頑張れます」

王社長の目標は独自のコンテンツをつくり、日本のサブカルシーンに新たな風を起こすこと。一企業のトップとして、また日本特有の文化に魅了された外国人として、その視点を活かし、これからもオタクカルチャーの発展に力を尽くすつもりです。
 
 
(取材:2022年7月)
 
 
株式会社SO-ZO
http://so-zo.co
 
■住所
〒170-0013
東京都豊島区東池袋4-23-17 田村ビル5階
 
オタクのオタクによるオタクのためのビジネス
vol.6 オンリーワンの痛部屋を創出 オタク文化支える中国人社長の挑戦 株式会社SO-ZO

(2022.8.17)
 
 

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