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企業が取り組む「BCP(事業継続計画)」とは
シリーズ第4回 サプライチェーンにおけるBCPの課題と提言

 
 
 

BCM策定の有無がビジネスパートナーの条件

 リケンの事故から間もない2007年の末には、茨城県のエチレン製造工場で火災が発生し、従業員4人が亡くなった。この事故が近県の化学工場に与えた余波も小さいものではなかった。エチレンを独占的に供給していた工場の操業停止により、在庫がなくなったところは別のメーカーから材料を仕入れなければならなくなった。そのために仕入れコストが増大し、競争力が低下するところも出てきたという。
 効率的な経営を進めるためには、自社が被災しただけではなく、自社が必要とするものを供給しているところが被災した場合にどうするか、事前に検討しておくことが重要になってくる。
 リケンの事件が引き金になり、「BCPはあるか」という、いわば「外圧」によってBCPを策定する企業が増えている。海外と取り引きするグローバル企業や外資系企業の他に、日本の企業でもその動きが根付き始めている。代表例がリケンのような自動車関連や半導体業界だ。そこでは、次のような質問がやりとりされているという。
 
  1. 主要な事業所や設備が被災・喪失した際、どのように事業を再開・継続するかのプランがあるか
  2. 被災した場合、会社の情報システムや工場、事業の復旧にどれくらい時間がかかるか
  3. BCPの訓練を行っているか、結果をレポート形式で提出してほしい
  4. 取引先にもBCPの策定を要求しているか
 
 多くの場合、1. のように取引先がBCPを持っているかどうかを確認するケースが多い。
 ある電子機器メーカーでは、取引先との契約書に「BCPを策定してください」との文言を入れるようにしている。さらに、主要な取引先にはBCPのプランを見せてもらうよう依頼し、最重要の数社には年に1回のBCP訓練とレポートを要請しているという。
 BCPを策定していないことを理由に取引条件を変更したり解除することはないという。しかし、今後BCPが普及していけば、BCPの有無をビジネスの条件としたり、回答内容によって取引内容を調整・変更する時代がやってくるかもしれない。ビジネスパートナーとして良好な関係を築き、ビジネスをより優位に進めるために、サプライチェーンの中で相互に協力し合っている企業は積極的にBCP策定に取り組むようになるのではないだろうか。
 
 

富士通の取引先向けサプライチェーン継続性評価

 
 次に、サプライチェーンにおけるBCMの取り組みでは、国内で最も進んでいると言われる富士通の事例を紹介しよう。
 富士通では、サプライチェーンを維持、強化するため、2007年5月、サプライチェーン全体でのBCM強化の共同プロジェクトを立ち上げ、取引のある企業のBCM策定を支援している。例えば、重要な取引先には半年に1回、調査票を送って問題点を把握。解決策を協議するため、相手企業を訪問することもあるという
 
 「よく、国や自治体の調査で、BCPを策定している企業の割合が何%などという数字が発表されますが、われわれは、そういう数字はあまり意味がないと思っています。BCPがあること自体を評価の対象にしません。紙3枚のマニュアルでも、あるといえばBCPがあるということになる。ちゃんと取り組みがされているかどうかという観点で評価します」
 
 こう語るのは、富士通総研第二コンサルティング本部・BCM事業部長の伊藤毅氏だ。富士通総研のBCM事業部は富士通のBCM推進の責任部署であり、富士通が実施している手法やノウハウを顧客にもソリューションとして提供している。つい最近、日本で初めて、BCM専門の訓練センター(富士通総研BCMセンター)を立ち上げたばかりだ。
 伊藤氏のいう評価とは、BCPがあるかないかではなく、具体的に活動として取り組んでいて、年々進化しているかどうかということだという。例えば、重要業務を特定しているか、それを決められた時間内に復旧させるための具体的な取り組みをやっているか。もちろん、こうしたことはすぐにはできないから、取り組みが前年に比べて少しでも進化しているかどうかといったところを見ていくという。
 具体的には、取引先の事業継続能力の評価は、アンケートによる評価手法を導入している。アンケートで得られた情報は、単純に集計するのでなく、取引先に対する最適なBCM強化対策を検討するため、会社全体の取り組み姿勢をマネジメント面で評価し、部品・部材の製造拠点単位での復旧能力を分析し、総合的な対応状況を可視化しているという。
 調達部品・部材は、1社から複数種類を調達しているケースが多いため、会社としての取り組みと個々の部品・部材の復旧能力を組み合わせた分析結果を評価することが重要になるからだ。こうした結果を踏まえて、自らのサプライチェーンに潜むリスクを可視化し、取引先への指導や、自らの調達戦略の見直しを実施しているという。
 
 
 
 
 
 

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