B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

繁盛請負人・佐藤勝人の時事国々リポート vol.80 事業承継の一つの形。亡き友の想いが受け継がれていった。

ビジネス 繁盛請負人・佐藤勝人の時事国々リポート vol.80 事業承継の一つの形。亡き友の想いが受け継がれていった。 繁盛請負人・佐藤勝人の時事国々リポート 商業経営コンサルタント/サトーカメラ代表取締役副社長

ビジネス
こんにちは、佐藤勝人です。今月はぜひこの話をさせてください。私の盟友であり亡き友であり、大阪箕面のとんかつの名店「とんかつ豊か」の創業店主だった小林孝志氏と、彼の弟子であり、誇るべき後継者となった唐木侑介くんと、小林亡き後の唐木を直接近くで辛抱強く指導してくれた山添利也くん。小林の遺志が、残された私たち3人をいかにつなぎ、いかに「豊か」の火を灯しつづけさせたか――。
 
 

40歳で逝った友の遺志が
葬儀の場で私たちを動かした

 
glay-s1top.jpg
改装中の「とんかつ豊か」。再開が楽しみです
1998年、私が33歳の時です。小林くんは当時、船井総合研究所に転職したての31歳の新米コンサルタントでした。彼が初めて担当したセミナーが私の講師デビューだったらしく、度肝を抜く衝撃を受けたそうです。そこから私のファンになってくれ、船井総研主催で佐藤勝人全国ツアーをじゃんじゃんやってくれたのが彼との馴れ初めでした。(小林孝志ブログhttps://tgrconsult.exblog.jp/6649743/
 
それ以来、私がまともに心を開いて話ができる友人は彼と、二人共通の師匠である宮内さん(編集部注:元船井総合研究所取締役本部長宮内亨氏)だけというぐらいの付き合いを続けていたんだけど、2008年1月、彼は100万人に2人(0.0002%)という奇病の手術に挑み、帰ってこれずに逝ってしまいました。まだ40歳の若さでした。
 
でも、彼には遺したものがありました。それが「豊か」であり、当時まだアルバイトだった唐木侑介くんです。唐木くんは大阪外語大学在学中だった気がしますが、傍目にはだらしない人間でした。でも、小林くんはいつも「あいつはセンスがある。店をチェーン化するときは幹部にしたい」と私に言っていて、それはそれは目をかけて育てていました。人間的にだらしない部分を叱る場面のほうが多かったから唐木くんはそこまで知らなかったと思うけど、小林くんが彼を見込む気持ちは相当なものがありました。
 
アメリカ商業視察から急遽帰国して参列した小林くんの葬儀の場で、私は遺族に、「豊かの火を消しちゃいけない」と言いました。それは店が小林くんの夢であり、夢を継いでもらえるかもしれない人がいたからです。「豊かを続けたい」――それが小林くんの遺志だと私は感じました。だから、経営面の指導は経営コンサルタント時代に小林くんの部下だった和歌山の山添くんにその場でお願いして、唐木くんの意志を確かめて、彼に「豊か」を続けてもらったわけです。
 
 

廃業の意志を最初に聞かされてから
再び前を向き目標を決めるまでやり取りを続けた

 
それから数年間、山添くんは根気強く唐木くんを指導してくれました。あいつは言うことを聞かない、何回言っても・・・、という話は時々聞いていたけど、とんかつ店としての味は間違いないし、「もう一人でやっていけるそうだから」という卒業報告を山添くんから聞いたので、まぁ大丈夫だろうと思って私も遠のいていました。
 
しばらくして2019年。唐木くんからメールが入りました。遠のいてから4~5年経っていたかな。「先代の志を継いでここまで頑張ってきましたが、もう無理です。廃業させていただくことを決めたので、最初佐藤さんだけにお知らせします」という趣旨のことが書かれていました。
 
私は驚いた気持ちが半分、「彼に悪いことをしたな・・・」という気持ちが半分でした。だってそうでしょう。店を継ぐにあたっては大学も辞めなきゃいけなかったかもしれない、親御さんに反対されたかもしれない。そもそも、人の葬儀の場で「お前やらないのか、どうだ」と押し込み気味に聞かれて「やります」と答えても、まだ20代前半の若造が自分の意志で答えられるかどうか。咄嗟にそう言っただけで、私がやらせた面も多分にあったかもしれない。だから、「悪いことをした・・・。人生の時間を棒に振らせてしまった・・・」と思ったわけです。
 
それからはメールでやり取りを続けました。最初は「問題は商売上か、個人的なものか」の確認から。彼の答えは「両方」でした。「恥ずかしながら売り上げが立たない」「支払いが厳しい」「すべては自分の怠慢が問題です」彼からはそういう言葉が聞かれました。誰を責めるでも恨むでもない。ただ自分を責めている。あの日、あの葬儀の日に、「大将の店を守る」と例えかりそめにも誓ったからにはその言葉に準じてみせる、大将のためにも、自分への約束事としても――。そういう気持ちが彼の文面には滲んでいました。
 
やり取りは2週間くらい続きました。そのうちに彼は少しずつ前を向いてきて、「一時の感情に流されないようにします」という言葉も出ました。具体的に問題を潰すフェーズに移ってからも、「できない理由しか思い浮かべられない自分に愕然とします」と書いてくるギリギリの精神状態でしたが、2020年に入ってコロナ禍が本格化してからは仕出しメニューを他の飲食店と組んで始めるなどして、最終的には、老朽化した設備と一緒に店もリニューアルして再出発を図ることを決めました。その費用を300万円と見積もり、「利益を積み立てて300万円を目指します」と連絡が来たところで、彼とのやり取りは終わりました。
 
 

2年3ヶ月ぶりに来たメールで
小林くんも喜んでいるはず

 
そして今年。コロナも5類になって世の中が動き出し、大阪勝人塾も再開が決まったから今度大阪に行ったら久々に「豊か」に顔を出してみようか、と思っていた6月初旬に、唐木くんから連絡が来ました。何かが通じたとしか思えないタイミングで。ポーンと。その文面を一部写します。
 
勝人さんご無沙汰しております
突然ですが本日より2週間かけて
「とんかつ豊か」を
リニューアルすることになりました
 ¦

 ¦
先代亡き後
店を潰したくない気持ちが強すぎて
他人の意見を取り入れる事に恐怖や
嫌悪感を持ってしまっておりましたが
 
今回は身近で応援してくれている
地元の工務店、プロデューサー
アーティストに仕事を振り分けて
自分のイメージする良い店を作って行きます
 ¦

 ¦
退路は断ちました前進あるのみです
 
先代が作り上げた城を解体するのは
胸が締め付けられる思いですが
屋号と教えだけは守りつつ
この店と共に成長し続けたいと思います
 
またお金と時間を作って年内に
宇都宮に遊びに行きます
引き続きよろしくお願いします
 
私は心から泣けました。なんて立派な経営者になったんだろうと思って。「やる。300万円貯める」と送ってきたのが2年3ヶ月前です。その間、ただの一回も泣き言を寄越さず、宣言通り貯めたとき初めて挨拶をくれて、「今度会いに行きます」とまで言っている。最初廃業の報告を受けたときは「いつか佐藤さんに顔向けができれば」みたいなことしか言えなかったのが、向こうから来ると言っている。「ああ、人間というものはここまで変われるんだ」と感じました。
 
そして、小林くんの存在を再び思いました。世間では「こんな小さな店や会社、残してどうする」と言って、実の息子がいるのに継がせなかったり、後継者が名乗り出ているのに廃業を決めたりする経営者もいますが、本当に夢を持って始めた人の事業は、形は変わっても受け継がれていくものなんだな、と。
 
小林くんと唐木くんは血縁でも何でもありません。最初はただのアルバイトと店主です。でも、一緒に働いた1年そこそこで小林くんの想いは唐木くんの中に確実に根を下ろし、自分亡き後は私と山添くんを突き動かし、15年近くも店の火を灯させ続けた。そして今また、今度こそ本当に一人立ちした唐木くんのもとで唐木くん自身の意志となり、想いを遂げようとしている。
 
美しいですよね。本人は「先代が作り上げた城を解体するのは胸が締め付けられる」と書いているけど、立派な事業承継だと思う。今回の心機一転リニューアルを一番喜んでいるのは他でもない、天国の小林くんじゃないかな。
 
亡くなった後も唐木と私と山添の3人をつないでくれたこと、遺志を継がせてくれたこと、存在をこの世に遺してくれたことに感謝しつつ、新生「豊か」を訪ねたいと思います。
 
 
 
■第17回アメリカ商業視察セミナーI Nラスベガス
2023年10月19日〜25日 (5泊7日間研修)
詳細はこちら https://jspl.co.jp/event/230516
締切は2023年7月14日です
《お問合せ》
【視察関連】日本販売促進研究所
担当 佐藤夏美 contact@jspl.co.jp
【旅行関連】JTB 宇都宮支店 TEL:028-614-2171
担当 狩野(かのう)、中三川(なかみがわ)、岩橋(いわはし)
(受付時間平日9:30~17:30、土日祝休業)
 
■6月29日 岐阜勝人塾 
事務局 メイクオーヴァ
 
■7月4日 栃木勝人塾 https://x.gd/sAUol
事務局 栃木県商業界同友会
 
■7月12日大阪勝人塾 https://x.gd/YhNsW
事務局 経営コンサルティングアソシエーション
 
■7月19日新潟勝人塾
事務局 おぐま式P O P塾
 
■7月25日東北勝人塾 https://x.gd/V7l5a
事務局 やまはる
 
■7月27・28日サトカメMG https://x.gd/RPfqH
事務局 サトーカメラ法人営業課
 
■佐藤勝人12作目の最新著書
https://amzn.to/3EfDs6W
 
■ほぼ毎日更新.佐藤勝人YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UC4IpsvZJ6UlNcTRHPgjellw
 
■佐藤勝人LINE公式会員募集中
セミナーやイベント等の最新情報が届きます
https://lin.ee/qZEREN1
 
■講演・研修・個別支援のお問合せは
担当/佐藤夏美 contact@jspl.co.jp
 
 
繁盛請負人・佐藤勝人の時事国々リポート
vol.80 事業承継の一つの形。亡き友の想いが受け継がれていった。
 (2023.6.21)

 著者プロフィール  

佐藤 勝人 Katsuhito Sato

サトーカメラ代表取締役副社長/日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント/想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント/作新学院大学客員教授/宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師/商業経営者育成「勝人塾」塾長

 経 歴  

栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に「地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法」(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。

 オフィシャルサイト 

https://jspl.co.jp/

 オフィシャルフェイスブック 

https://www.facebook.com/katsuhito.sato.3?fref=ts

 サトーカメラオフィシャルサイト 

http://satocame.com/

 YouTube公式チャンネル 

https://www.youtube.com/channel/UCIQ9ZqkdLveVDy9I91cDSZA (サトーカメラch)

https://www.youtube.com/channel/UC4IpsvZJ6UlNcTRHPgjellw (佐藤勝人)

 
 
 

KEYWORD

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事