原点の店 in New York
STEW LEONARD'sの2つのルール
もう一つ、お客さんの子どもが試食コーナーで楊枝を口の中に刺しちゃったときの話もある。普通の店なら「たまたまじゃないか」「その子が不運だった」「そんなクレームに付き合ってられるか」となるだろう。対策したとしても、試食コーナーを止めるか、子どもは試食禁止にするぐらいだ。でもスチューは経営陣で話し合って、楊枝をなんと、食べられる、日本でいうところのプリッツに替えた。“なるほど!”と思ったよね。「お客様はいつも正しい」を実践するというのはこういうことかと。
現地でこの話を聞いて以来3年は迷ったが、2006年からサトーカメラは自社の「8つの行動指針」の第一に、「お客様はいつも正しい、お客様から学ぶこと」と定めています。すると何が変わったか。クレーマーがいなくなったんだよね。だって、お客さんから学ぶことを実践していれば、いくらお叱りを受けても、それはもはやクレームじゃないからね。
なぜ「お客様はいつも正しい」のか
でも、まずいのよ。悪いけど。口に入れた瞬間わかる、なんたってマグロが冷蔵庫臭いの(笑)。そのときに思った。客というのは、客のプロなんだね。そりゃ私は、寿司は握れない。でも、食べるほうなら銀座のだってどこのだって、おいしくて最高級の寿司を世界中で食べてきているわけさ。向こうは握るプロのつもりかもしれないけど、こっちだって素人じゃないわけさ。寿司を食うプロなんだよね。
私がスチューのルール1を一歩進めて「お客様から学ぶこと」としたのはそういうことだ。「情けは人のためならず」ということわざが、「人に情けをかけるのは巡り巡って自分に返ってくるからで、自分のためだ」という意味なのに、現代は「その人のためにならない(甘やかす)から情けをかけるな」と間違った意味でとられているという話があるでしょう。あれと同じだよ。「お客様はいつも正しい」というのは、単に正しいから正しいと言っているんじゃない。客は客のプロだからだ。プロに学べるから店側も成長できるのであって、客が悪いと思い始めたら成長が止まってしまう。それは自分たちのためにならない。だから「お客様はいつも正しい」なんだ。
想像もしていなかった今
当時、息子は高校3年生だ。年齢的にいっても父親と旅行するのなんてこれが最後だろうと思ったから、そのときの視察に連れてきて、一緒に回ったんだよね。ブログにはそのときのことがちゃんと残っていた。どこの店に行ったとか、何を食べたとか、雑感も含めていろいろ。息子にも「おい見ろよ、あのときもこのステーキ屋に来たんだなあ!」とか、「当時はまさか、今こうなってるとは思わなかったよなあ」というような話をした。
まさか――だよ、本当に。そりゃそのときも、「いつかアメリカで仕事ができたらなぁ、店が出せたらいいなあ」なんて冗談では話しはしたけど、まさかそれから9年後に、同じニューヨークで、2人で、キヤノンUSAの副社長と会食をするだなんて、想像もできなかった。本当に、考えもしなかった。
何がここまで導いたかなんて自分じゃわからないけど、一つ良かったのは、「お客様はいつも正しい」という観点から、仕事や客を一切選ばなかったことだと思う。依頼を受けた仕事は全部受けてきた。だから、通知表で例えるならば5はなくてもオール4の成績で全教科ができるようになれた。その後も、4が取れる科目を10教科、20教科、30教科と増やしてきた。陸上でいうなら十種競技の選手になろうと決めて努力してきた。それが功を奏したんだと思う。
合流して2人で街を回る途中、9年前に一緒に食べたステーキ屋に、2人でまた入ってみた。あのときはおいしいと感じたそのステーキが、もうそれほどとも思わなくなっていた。例えば30年前、22歳の頃の私はただの貧乏な若者で、栃木の田舎で不貞腐れていて、30年後に今のような人間になれるとは、想像もしていなかった。人生って、面白いもんだね。
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vol.7 原点を噛みしめたアメリカ視察のこと
著者プロフィール
佐藤 勝人 Katsuhito Sato
サトーカメラ代表取締役副社長/日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント/想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント/作新学院大学客員教授/宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師/商業経営者育成「勝人塾」塾長
経 歴
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に「地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法」(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。
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