SNSでわかる商売のスタンス
自慢じゃないが、我がサトーカメラも以前から使っていますよ、フェイスブック。支店ごとにアカウントがあって、スタッフはお店に来たお客さんに、「お店のフェイスブックの友達になりませんか?」と積極的に誘っています。フェイスブックに何を投稿するかは各店舗の裁量。本部はとやかく言いません。例えば午前中にお客さんの出足がイマイチだと感じたら、「今日はこんなイベントをやってます! こんなおもしろい商品が入ってます!」と現場の判断で店の情報をすぐアップできる。それをフェイスブック友達のお客さんが見て、午後から来てくださることも、結構ある。それでお買い物の様子を投稿したら、楽しい雰囲気がすぐまた誰かに広まる。あの即効性、ライブ感はすごい。
でも大手は、私が直接知っているのは流通小売りだけど、あまりやらないんだよなあ。お客さんにとってはいいことばかりなのにね。きっと、お馬鹿な投稿も含めて何かの拍子で仕入れ値なんかが暴露されちゃったら怖いんだろう。つまり彼らの商売は、「仕入れ値がいくらだからこの価格なんです。何卒ご理解ください」というスタンスなんだな。それに対しサトーカメラは、「価格はこうです。それに対して自分たちが何を提供できるかだと思っています」というスタンスだ。こっちのほうが、圧倒的に、店もお客さんも楽しいと思うんだけど、皆さんはどう感じます?
事業目的と事業目標の違い
仮に大手がフェイスブックやインスタグラムを始めたとしよう。実際の運用にあたるのは本社の広報部あたりだろう。統制が取れなくなるのを危惧して、現場にはゆだねないと思う。じゃあ、サトーカメラにその危惧がないのはなぜか? 事業目的と事業目標の違いをしっかり教えているからです。
いいかい、もう一度言うよ。事業目的と事業目標は違います。私たちの場合、「(お客様の)思い出をキレイに一生残す」ことが事業目的だ。事業目的は何があってもブレない。ブレさせない。絶対に。そして、例えば「1日に5件フェイスブックに投稿する」というのは、事業目標だ。事業目標は日ごと、週ごと、月ごとで変わります。人によっても変わります。「この事業目的に向けて、今日の自分は何を目標にすべきか」をみんながちゃんと理解していれば、それほどトラブルは起きません。
こんな話をすると、「そうは言っても、従業員は思うように投稿してくれないよ」と嘆く方々がいます。でも、話を聞くと皆さん、大体が、フェイスブックみたいな無料のものに、1円だって身銭は切りたくないという頭があって、タダでスタッフに動いてもらおうとしている。それは違うんじゃないかな。
だから、サトーカメラでは、投稿1件につき100円、本部が広告費として店に支給しています。お金が貯まったらみんなで食事会に行ってもいいし、使い方は店の自由です。「100円ぽっちで偉そうに」と思うかもしれません。でも、人を動かすのは金額の多寡じゃない。腹をくくって金を出す覚悟です。うちの場合、1店舗あたり月平均で1万5000円から2万円かな。グループ全体で月30万円ぐらい。それぐらいの出費で、圧倒的に密度の濃い、熱のある情報をサトカメファンの皆さんにお届けできるんだ。それで自分たちの事業目的に近づけるのなら、やらない手はない。
「世界一」を語ったトヨタ
「お客さんは何についてきてくれるのか。従業員は会社の何についてくるのか」――それを考えるうえで、2月初旬のトヨタの一件は示唆的でした。報道によれば、愛知製鋼というメーカーで起きた爆発事故の影響で、同社からエンジン用鋼材を仕入れていたトヨタは、1週間、国内の全工場の生産ラインを止めたんだそうだ。当初は神戸製鋼など他のメーカーから鋼材を調達して生産を続けることも検討したけど、最終的に品質と価格が折り合わなかったらしい。
これ、「どうせまたトヨタが買い叩こうとしたんだろう」みたいな見方があったけど、私は違うと思った。そうじゃなく、「トヨタの厳しい要求に頑張って応えていくうちに、いつのまにか地元の中堅企業が、天下の神戸製鋼といえども代わりが務まらないぐらいに、品質もコスト競争力も上げていた」ということなんじゃないか。
トヨタのやり方は企業城下町方式だ。いわば、同じ町内の下請けのおっちゃんたちを連れて世界一を目指したのがトヨタという企業なんだ。熱いよな~。昔はソニーや東芝もそうだったけど、途中から、その時々で世界中で一番安い下請けに鞍替えするアメリカ方式に変えちゃった。それだと短期的にはいいよ。でも、10年20年のスパンで考えたら、トヨタが賢かったよね。
だから、今回の件は愛知製鋼を褒めるべきだと思う。「トヨタのキツイ要求に応えきれるのは御社だけだったんですね。すごいですね」って。もっと楽な取引先は他にあったはずだよ。途中でそっちに行ってもよかったんだ。でも、きっと、「世界一になろう! 一緒になろう!」とまで言ってくれるのはトヨタだけだったんだろうね。だからついていったんだ。
サトーカメラも「栃木一」は達成したから、次は「アジア一」に向けて頑張っています。さあ、攻めて、攻めて、儲けてみっぺ!
vol.12 SNSと企業城下町方式
著者プロフィール
佐藤 勝人 Katsuhito Sato
サトーカメラ代表取締役副社長/日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント/想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント/作新学院大学客員教授/宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師/商業経営者育成「勝人塾」塾長
経 歴
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万?1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に「地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法」(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。
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