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重要なポイントは、「消費活動は社会貢献活動である」という観点から考えてみると、自分がステキだと思ったこと(もの)に自分のお金を使う行為は、そのステキな商品やサービスを提供してくれている会社やそこの従業員たちを応援する行為と同義である、ということです。
――第三章 人は、ただ生きているだけで価値がある より
 
 
 
 最初にお金について哲学のようなものを人に披露したのは、大学院時代、イベント系のアルバイトの面接で一緒になった、理美容専門学校を出たばかりの男と付き合いはじめた頃だった。「金ないっすもん」が口癖で、同じ買い物で50円安いものを見つけては「熱い!」を連発し、服を買う時は500円の値段差にこだわって自分が心惹かれているほうを選ばない彼に、ある時言った。「500円の差は時間の概念を入れればほとんど無だ」。「惹かれるほうを選ばなかったモヤモヤはいずれ、ジュースやら何やら、欲しくもないチマチマした買い物に化ける。実際お前はそうしてる」と。
 
 
 本書は投資信託ファンド「ひふみ投信」の運用責任者として知られる藤野英人氏が、「特に10代、20代に読んでもらいたい」と願って書き下ろした一冊である。ひふみ投信は国内に1000以上あるファンドのうち特に成績の良かったファンドに贈られる「R&Iファンド大賞」を3年連続受賞(最優秀賞2回、優秀賞1回)したトップファンド。本書210ページによると、著者がファンドマネージャーとして好成績を上げられる理由は、「お金に対して誰よりもシビアでナーバス」だからではなく、「成長する真面目な会社に投資する」からである。著者はこうも言う。「利益を上げるということを突っ込んで考えると、結局は“真面目な会社”しか、長期的に利益を上げることはできない」。
 
 真面目――これがキーワードだ。著者はこの一語に関し、その由来から言葉本来の意味を取り戻すよう、本書でくりかえし訴える。本書の狙いは、「投資はダーティ、お金儲けは悪い、お金のことを考えるのは卑しい」と社会通念から刷り込まれている人の認識を真逆に塗り変えることにあり、この本を読んだ人にはそれは確実に成功するだろう。加えて読書の果実は、言葉本来の意味から日常の心根を正される点や、報道されることのない事実が投資家の目とデータで示され、国内経済についての認識を一変させられたりするところにもある。以下、本書から抄訳する。
 
 「真面目とは、本気であり、真剣であり、誠実であること。“本質とは何か”ということをしっかり考えること。日本人のお金に対する態度や行動は、不真面目であるとしか言いようがない。何も考えていないし、考えているとしても自分のことしか考えていないから。」(p45)
 
 「日本には不真面目な会社がすごく多い。特に大企業。株主総会やメディアのインタビューなどで経営者が発言するのを見聞きしていると、真剣さや誠実さから来る“僕らはどうあるべきか”というメッセージが年々聞かれなくなっている。どこかポジショントーク的で、本気さが感じられない。」(p152~154)
 
 「日本のファンドの90~95%くらいが、良い企業を選ぶという本来のファンドではなく、上位一握りの企業の株価変動に左右されやすい東証株価指数をベンチマークにした“ミラーファンド”。」(p169)
 
 「経団連に関して、会長および副会長企業18社のうち、最近10年間(2002年9月~2012年9月)で株価が上がったのは6社にすぎない。2社が微減、残り10社はボロボロ。彼らは“失われた10年”と言い、「この10年、日本はダメだった」と言うに決まっている。環境のせいにしないと、自分の経営者としての無能さを世間にさらけ出すことになるからだ。しかし事実は、東証二部の企業株価総額は10年間で67%のプラス、一部も66%の会社で株価がプラス、かつ倍になっている。それなのに、株価を大きく下げた会社の経営者たちをリーダーに選ぶのは、真面目な態度だろうか?」(p238、239)
 
 
 評者の友人は、それまでは同世代・同環境の友人たちと共有するらしい「安い物見つけゲーム」の感覚でしか価値基準を持とうとしなかったが、お金についての他人の考え方を初めて聞いたというその時から徐々に変わり、例えば買い物に行っても、500円高い、自分が好きなほうの服を買うようになった。もともとセンスのある男だったから、「このメーカーのこんなところが好き」だとか、「これめっちゃオモロイ。よう考えてる」だとか、「あいつダメっす。手抜きしとる」だとか、物以外、サービスや人の評価にも独特の冴えを見せた。彼と飲む時は、貧乏学生の身でいつもこちらが多く出し、時にはおごった。彼が変化していくのが嬉しかったからだ。
 
 今思うと彼との関係は、著者が言う意味での“投資”だったことがわかる。お金が媒介ではあるものの、お金の話ではない。「お金よりも大切にしていること」の話なのだ。著者も、投資先を決定する際は、最後は「エイヤ!」でその企業の本質に賭けるそうである。表面の言動や属性にではなく、本質に。それこそ“真面目”に――。
 
 

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『投資家が「お金」よりも大切にしていること』
著者 藤野英人
株式会社星海社(星海社新書)
2013/2/25 初版発行
ISBN 9784061385207
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価格 本体820円

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(2014.11.26)
 
 
 
 

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