歩荷とは?
山に登りたくて進路を変えた
当時、工業高専で化学の勉強をしていた秋本さんは、物質の構造や性質を研究することで、人々の生活を支える薬や食品づくりに役立つ化学者の道を目指していた。しかし、登山を通じて日常生活では見られない景色や植物を目の当たりにしたことで、自然の中でフィールドワークをする楽しみに目覚める。
意を決した秋本さんは長野県の大学に編入。森の生態系などを探求する森林科学の勉強を始めた。大学を卒業後は木材を扱う建築会社に就職。先輩ら人にも恵まれ、「楽しく仕事ができていた」という。しかし、毎日の仕事は車通勤で、登山をするのは土日の休日だけ。「そもそも山の中にいたくて進路を変えたはずなのに・・・」。そう感じるようになった秋本さんは上司に相談して退職を決意する。
山で必要とされる仕事のすべてができるようになりたい
登山者がいて、山小屋があって、電波塔や調査施設などがある。すると、そこに物を運んだり、施設を管理したりする必要があるため、街中と同じように、たくさんの仕事があることを知った。「それで僕は、山で必要とされる仕事のすべてができるようになりたいと思ったんです。そうすれば、ずっと山の中にいて、そこで生活ができますからね」。
歩荷がさまざまな仕事の起点になる
「日本の国土の7割は森林や山。そのために山の中で発生する仕事は無数にあるはず」と秋本さんは考えている。しかし、誰もが山の専門家であるわけではない。「調査や撮影など、山で仕事をする必要に迫られた際、その現場へ仕事道具を運ばなければいけない。でも、自分では運ぶのは無理。そうした方々のために、僕の存在を役立てたい。頼まれなくても山に登っているような人間ですからね」。
歩荷は山中でする、さまざまな仕事の起点になる。最初に歩荷としての発注が来て、運んだついでに、別のこと、例えば何かの調査を依頼されることもある。つまり、荷物を運ぶことが他のニーズにつながっていくのだ。「僕は歩荷に特化することなく、それ以外の、山に付随する仕事も柔軟性を持って対応できるようになりたいんです。そのほうが世の中の需要に合っている気がするし、より多くの困っている人を助けられると思うので」。
山のスゴイ人たちとチームで需要に応える!
山屋の強みは、歩荷のような運搬業務のほか現場作業や調査だけでなく、さまざまな能力を持つメンバーの経験を活かし、山を舞台にしたアニメ作品の制作などクリエイティブな仕事にも対応できること。
多数の企業が協業で行うプロジェクトにも参加。「GPSを利用して富士山全体を3Dスキャンする仕事でした。僕らは山岳ガイドも兼ねた歩荷として機材を運びつつ、チーム全体で調査内容の計測もサポート。そして、現場での安全管理もする」。富士山の姿を立体で計測することで状況を詳細に把握するという大きな仕事は、歩荷を通じて得られた近代的な需要だった。
「山にはさまざまなことができるスゴイ人がたくさんいるんです。山屋は、そうした力を結集してチームで活躍できる。その力を、世の中の需要といかに結びつけるかが今の課題です」。
山が好きなら誰でも歩荷になれる
「山に登ることが好きだったら、誰でも歩荷になれる」と秋本さんは言う。「小学生がランドセルを背負って通学するじゃないですか、あれと同じ。そう考えると二宮金次郎は歩荷界のレジェンドですね。荷物を背負って勉強までしちゃってますから(笑)」。
https://yamaya-corporation.com
https://twitter.com/nature_1118
vol.1 歩荷(ぼっか)って何? 山に登って働く 株式会社山屋 秋本真宏さん
(2022.5.13)