こんにちは、安田久です。前回は、飲食プロデューサーとして私がやりたかった 「地方活性化」 への想いを書かせていただきました。今回は、私が実際に体験してきたことを含め、飲食ビジネスが地方の再活性化にどんな実りをもたらせるか、その可能性を探ってみましょう。
私が地方活性化ビジネスで大事にしている要素は 「タイミング、場所、人」 の3つです。孟子の言葉にあるように 「天の時、地の利、人の和」 がかみ合って初めて目的が成就できる。地方活性化もまさにそうだと思います。
タイミングを逃さない
まず 「天の時」――タイミングについて。ご存じの方も多いと思いますが、私は経営者として過去に大きな危機に見舞われたことがあります。前回もお話ししたように、銀座で、カニを看板にして 「北海道」 がテーマの店を出していた頃、リーマンショックに襲われました。銀座ですから企業接待での利用も多く、それが軒並み控えられ、予想以上の大打撃。一つの店のブランドを根付かせるためには最低5年はかかりますが、「北海道・カニ」 の業態を少しでも早く根付かせるため2年ぶんの余剰体力だけ持って店を始めていましたから、きつかった。さすがにリーマンショックほどのアクシデントは想定外だったとはいえ、タイミングについては、本当に今なのかどうか、きちんと見極める必要を強く感じました。
中央の拠点が地方への呼び水
次は 「地の利」――場所です。
私は 「食による地域活性化」 に際して、経済の中心地にハコ(飲食店舗) を構えることを絶対条件にしていました。どうして銀座か? 日本の経済の中心は、言わずもがな、東京です。海外からのお客さんも銀座は必ず押さえます。海外への窓口になる土地柄なんですね。
そしてこのことは、実は国内の地方にとっても重要なことなんです。
今、TPPもあって、地方の農畜産業はこれから大丈夫かって話になってるでしょう。でも、日本の地方の食や農産品はすごい力があります。ただし、最初はこっちから良さを示さないとダメ。それも貿易用の官製品じゃない、地元で食べられてる本物の良さをね。窓口を訪れた人にそうやって本物をPRできれば、「JAPANの食はいいぞ」 という認識がしっかり広まっていきます。それで地方に注目する海外の観光客が増え、日本人のほうがかえって「地方ってそんなにいいの?」 って教えられる現象が、もうあちこちで出てきてるんじゃないか。地方は世界とダイレクトにつながることで、国内からもお金を落としてもらえるようになる。ここがポイントです。
地方活性化のゴールは、その地方に利益がもたらされ、地方が自力で人を養い育て、発展していけるようになることです。けっして中央のPR拠点だけが潤えばいいのではない。でも、架け橋になる拠点はやっぱり必要です。実は、こうしたワンクッションを無視しているせいでお客様と商品がつながりにくくなってしまっているケースは、飲食以外のビジネスにおいても目立ちます。お金・人・情報を商品にちゃんと結びつける仕組みが、切に求められている気がしますね。
人材が離れない東海道
そして最後、「人の和」 について。
先ほどの続きで話をしましょう。銀座に地方の食や物産など、地方文化を詰め込んだハコをつくりました。そのハコは、地方出身者にとって憩いの場にもなります。東京で働くサラリーマンの大半は地方出身者です。地元の空気感に触れることができるハコは、彼らが疲れたときに温かく迎えてくれる実家みたいなものであるほうがいい。また、地方から出てきた人をそこで雇用すれば、より地元感も出て、いい雰囲気の店になります。従業員とお客さんの会話も弾みますよ。もちろん方言でね(笑)。いい店になるわ、雇用も生めるわなんて、素晴らしいと思いませんか。
この 「人」 については、私が最もこだわったところでもありました。地方独特の文化は、はっきり言って世界的に見ても高いレベルにある、日本の宝です。特に食はそうです。どうしてこれが廃れていくのか。人がいなくなるからです。なぜいなくなるか。仕事がないからです。
その点で強いのは名古屋ですね。飲食業界では「名古屋で成功する人は東京でも成功する」と言われます。名古屋は、信長、秀吉、家康ら、日本をとりまとめてきた人材を輩出した土地柄です。今では世界的な自動車メーカーのトヨタがある。いい情報が自然に入ってくる土壌が育ってるんでしょう。他にも静岡の浜松など、総じて東海道沿線は、若者が地元に定着しています。だから祭りもおもしろい。食もおもしろい。土地に魅力があるというのは、「その地方の文化を育て、引き継いでいく人」 をとらえて離さないために必要なことです。
AKBに通じる戦略性
このコラムもタイトルがあやかっている国民的アイドルグループのAKB48。彼女たちは、秋葉原から歴史をスタートしましたね。オタクと呼ばれる人たちがコンテンツを求める機運を見逃さず、「アキバ」 というブランドが立った場所に拠点を置き、「会いに行けるアイドル」 として人を集めた。そして総選挙や選抜じゃんけん大会など、個々の魅力を競わせる企画を連発し、メンバーそれぞれが、ファンにイチ押しされる 「推しメン」 になって、人間的な親近感でつながりました。地方活性ビジネスも同様の仕組みでやるべきです。
繰り返し言いますが、日本の地方は個性的です。魅力的な文化が山ほどあります。たとえば富山県。ここは県をあげて人材教育をしていて、ご存じかどうか、銀行系のセミナーや勉強会がとにかく多いんですよ。それ系の知識を蓄えた人たちが、ホタルイカや寒ブリなど、もともと魅力的な富山の海産物を売り始めたら・・・おもしろいことになると思いませんか?
三重県もいいですね。交通の便でいえば東京から最も遠い県なんですが、実はここは食材の宝庫。しかもブランド食材が多い。松坂牛、伊勢エビ、アワビ、最近新しく出てきた熊野地鶏、岩清水豚、的矢牡蠣、桑名のハマグリ・・・。県内消費が多くて生産も安定しているという後ろ盾があるから攻めも強気。非常におもしろい土地ですよ。
タイミング、場所、人の3つの要素が上手にはまれば地方は強い。まずこれを実現することが、地方活性化のための第一条件です。どうでしょう、ビジネスパーソンの皆さまも、単語を置き換えれば、ご自分のビジネスに相通ずるものがありませんか?
外食の虎・安田久のBRT47 ~Business Revitalization Trend~
vol.2 天・地・人のバランスを問う
執筆者プロフィール
安田久 (Hisashi Yasuda)
外食産業プロデューサー・元 『マネーの虎』 レギュラーメンバー
経 歴
1962年、秋田県男鹿市生まれ。アルバイト経験をきっかけに飲食業界へ。現場を15年間経験の後、35歳で「監獄レストラン アルカトラズ」をオープン。外食産業関係者を含め大きな支持を得た。2002年には人気テレビ番組『マネーの虎』にレギュラー出演し、知名度が全国区に拡大。その後、2004年に地方活性化郷土料理店第1弾として、秋田県モチーフの店「なまはげ」を銀座に出店。以後「47都道府県47ブランド47地方活性化店舗」を理念に、銀座を中心に郷土料理店を次々と展開。2012年からは飲食店経営者を徹底的に鍛えなおす“虎の穴”「外食虎塾」を主宰している。
オフィシャルホームページ
http://www.yasudahisashi.com
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