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コンパクト、スマート、そしてスーパー?

 
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FROG/ PIXTA
去る5月27日、改正国家戦略特区法いわゆる「スーパーシティ法」が、野党共同会派が反対するなか、国会で成立した。同法は6月3日に公布。公布日から3ヶ月以内に施行されるので9月3日、ということは明日、施行される*1
 
同じ響きの語に「コンパクトシティ」「スマートシティ」もあり、どこが新しくて違うのか、一般の市民には正直よくわからないが(筆者もそうだった)、コンパクトシティは自治体維持(≒行政サービス維持)のニーズから発した集住促進の政策、スマートシティは5GやMaaS、キャッシュレス決済、スマートグリッドなどを駆使した先端技術都市の構想と理解すれば、まずはいいだろう。筆者は過去どちらにも関連の記事を寄せているので*2.*3、“スーパー”とすることで何がこれらと変わるのか、なおさらわからなかったのだ。
 
そこで内閣府の国家戦略特区サイトから「スーパーシティ解説」のページを見てみる。コロナ状況下でごく短時間の審議を経て成立したスーパーシティ法には批判も多く、個人のブログから政治家のSNSにいたるまで様々なメディアで賛否両論が飛び交っているが、推進側の公式解説としてはこのページが筆頭だろう。これに加え、今年4月から第二期が始まった「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の「基本方針2020」を併せて読めば、推進側が何を変えようとしているのか、知ることができる。
 
 

パーソナルデータの時代に

 
解説ページの4の(1)「従来型とSC型の比較」では、冒頭で「スーパーシティ法には大きく二つの役割がある」として、
 
・複数のサービスを同時に立ち上げるために、複数分野の規制改革を同時・一体的に進めていくための手続きの設定
・データ連携基盤整備事業の事業者に対して、国や自治体が持つデータの提供を求めることができる、という既定の追加
 
をあげている。後者の「既定」は「規定」の誤字だろう。そしてその後者の文意は、主語と目的語が一瞬わかりにくいが、事業者は国や自治体の持つデータ(個人情報含むパーソナルデータ)を当該事業のために提供するよう、国や自治体に求めることができる、という意味である。
 
反対側の批判も主にここから始まる。一般に個人情報というと住所・氏名・生年月日などを思い浮かべるが、情報化時代に入って言われるようになったパーソナルデータという概念には、個人の行動履歴や移動履歴、既往病歴等々まで含まれる。いわゆる「ログが残る」という言い方で示せるすべてのデータであり、ログが残った先を共通のルールで紐づけることができれば、それらの一元的な収集・監理が可能になる。
 
そして、具体的な社会実装で見たときのコンパクトシティおよびスマートシティとの一番の違いも、まさにこの「共通のルールで紐づけること」にある。先の「基本方針2020」の第2章2節(2)の③、「Society5.0の推進等による地域の魅力の基盤の創出」には、「データ連携基盤を備えたスーパーシティ」と明記があり(p24)、これは国家戦略特区サイト「スーパーシティ解説」ページの「APIの公開」「オープンAPI」に該当する。3の(1)「データ連携基盤」の箇所だ。
 
ここで「全ての事業を民間が担っても、公的団体が担っても、それで住民の皆さんが賛同していただけるのであれば、主体要件は特段制約はありません。」となっているあたりが、反対側が批判するゆえんのようだ。自治体が住民の合意を取り付けさえすれば、場合によっては一営利企業の手に住民たちのパーソナルデータがごっそり渡る。のみならず、各規制を特例扱いで飛び越せる措置なので、内閣府の匙加減ひとつで各自治体のあり方が根本から変えられるようになる。
 
「それってどうなの?」と反対側は言っているのだ*4
 
 

推進側も引け目?

 
もしかして推進側も引け目を感じているのではないかと思うのは、スーパーシティ法の役割二つをあげた解説ページのその箇所(4の(1))で、「まず、前者についてご説明します。」として述べた後、後者についての説明がないからである。
 
代わりに4の(4)で技術仕様の話にスライドさせ、「データ連携基盤のAPIを内閣府の整備するカタログ上で公開すること」「可能な限り、データ蓄積方式ではなく、ブローカーによる仲介を中心としたデータ分散方式の設計とすること」という制約を設けていると説明する。さらに、「なお、上記制約に加えて、全ての関係事業者に対して、個人情報関係に関する法令の徹底遵守を求めるとともに、データ連携基盤の安全管理については、政府が定めた安全管理基準と同等の対策の実施を義務づけます。」ともしている。
 
しかし反対側は制約の有無・程度ではなく民主主義の原理に照らして是非を問うているのであって、ここは推進側がほっかぶりを責められても仕方ないだろう。「議論が尽くされていない」「拙速だ」と国会で糾弾された名残がこんなところに残っている。
 
 

地域シンクタンクと情報銀行

 
それにしても不思議なことが筆者の知見からは二つある。ひとつ、どの資料どの記事をあたっても地域シンクタンクが登場しないこと。ふたつ、パーソナルデータの扱いに関して、情報銀行が明示的に言及されないこと。
 
地域シンクタンクに関しては一昨年2月の小欄も参照してほしい*5。要は、「地域の未来戦略を行政と一緒に企画・実行する」というテーマは完全に地域シンクタンクの範疇のはずなのに、なぜ存在の影すら見えないのか、という不思議だ。
 
また、情報銀行については昨年9月、リクルートキャリア社による就活生の内定辞退率予測データ販売事件と関連させて掘り下げて書いた*6。その際、日本の個人情報保護法制が以前から参考にしてきたEUのGDPR(General Data Protection Regulation)によるデータポータビリティの権利を紹介し、「個人はデータポータビリティという名の“離脱可能性”によって統治権力を無効化する術を法により保障されるべき」とした。
 
ただ、そこでも書いたように、いかな情報銀行であってもそれを使う個人の利益を常に優先するわけではなく、当面は社会の全体利益の最大化に向けて機能するだろう。であれば、むしろそうだからこそ情報銀行がからむはずなのに、出てこない(あるいは解説ページが言う「ブローカー」がそれか?)。これが二つめの不思議である。
 
 

自治体と住民がともに成熟を

 
筆者個人の見解としては、オープンAPIによるデータ基盤の整備自体は、未来に向けて避けられないと思っている。
 
しかしそのときは自治体の側に企画立案能力の成熟が求められる。そもそも「地方創生」がその前段に「分権」と「自治」のテーマを未消化で積み残したままであることは一昨年2月の記事で指摘した。今回もまた東京の大手営利系シンクタンクやそのコネクション企業に地方創生特需をもたらして終わるようではなんにもならない。
 
成熟が求められるのは住民側も同じだ。地元の信用組合や自治体シンクタンクがいかに本来の機能を発揮しようとしても、住民側に「自治」の意識がなく、有権者としての「合意」の価値にも無自覚であれば、どんなむごいスーパーシティが現れるかわからない。
 
「企業版ふるさと納税の税額控除割合を9割に上げる。」「地域の金融機関等が行う先導的人材マッチング事業に10億円の予算をつける。」など、財政面の支援体制は法令で拡充された。今度こそ、地域の実情に即した産業活性と、住民発の未来像が求められている。
 
 
 
*1 本稿の執筆は8月26日
*2 「ライトレールの行方 ~公共交通・都市計画行政・人の移住のドラマ~」(2017年12月)
*3 「ポスト卒FIT時代がやってきた ~蓄電池、地域マイクログリッド、分散型モデル~」(2019年8月)他
*4 推進側の有識者会議の座長を竹中平蔵氏が務めていることも批判を強くする元になっているだろう。
*5 「これからの地域シンクタンク ~「として」へのコミット強化を期待~」(2018年2月)
*6 「情報銀行とデータポータビリティ ~あるいは「同意」という擬制の終わり~」(2019年9月)
 
(ライター 筒井秀礼)
(2020.9.2)
   

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