相次ぐポイント5%還元
日本では毎年約640万t強の「食品ロス」――食品廃棄物のうち可食部の廃棄――が発生し、これは国連のWFP(世界食糧計画)が全世界で援助する食糧の2倍の量にあたる。折しも世界は現在、「SDGs:持続可能な開発のための2030アジェンダ」に取り組んでいる最中だ。日本もアジェンダ12の3――「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる」――に照らし、あるいは照らすまでもなく、食品ロス削減に向けて具体的な行動を起こす時期に来ている。
真っ当な理由があるならともかく、実際には、旧態依然とした商慣習や、社会通念上黒としか言いようがないグレーな会計方式のせいで無意味な廃棄が助長されているからだ。
総じて頑張っている中で
食品ロスの削減は、日本では「循環型社会形成推進基本計画」のもと、主に農林水産省と環境省、消費者庁の主導で進められている。一例で農林水産省の資料によれば、例えば製造・卸・小売にまたがるサプライチェーン全体について、いわゆる3分の1ルールを2分の1ルールにする「納品期限の緩和」や物流段階でロスを減らせる「賞味期限の年月表示化」に、官民協働で取り組んでいる。さらには、メーカーの衛生管理および容器包装の技術が格段に進んで「賞味期限の延長」が実現しており、これも食品ロス削減につながると期待されている。他の資料などを見るにつけ、また特に農林水産省委託調査資料78ページ以降の「表4.25.食品ロスの削減に向けた取り組みの回答例」も見るにつけ、どの業種も総じてそれなりに頑張っている印象だ。
ただ、調べていくうちに、それらの中でどうにも乗り気でない(乗り気になれない?)業界があることが目に付いた。コンビニである。
認められてこなかった売り切りの工夫
そうすると次の問題は「なぜそうなるか」だ。もしかして他の業種と違い、食品ロスを積極的には減らせない特別な理由があるのではないか。
ここで先の調査資料の「表4.25.食品ロスの削減に向けた取り組みの回答例」から、項目⑤「販売方法の改善」のうち「売り切り」の欄を見てみる(88ページ)。すると「食品小売業」の取り組みとして10例が回答されているが、そのいずれもが、コンビニ業界では本部が加盟店に対し認めてこなかった取り組みであることがわかる。すなわち「見切り販売」だ。
業界特有の構造要因
1、廃棄ロスよりも売上の機会ロスのほうを問題視する本部の傾向
2、加盟店に廃棄ロスを出させたほうが本部の利益になる特殊な会計方式(いわゆるコンビニ会計)
があるという。さらに、POSシステムが「需要予測と発注の精度を高めて商品を売り切る」という本来の目的の他に、加盟店の過剰発注を促して本部の利益を確保する方向で使われる可能性が暗に指摘されている。
加盟店ユニオンの見解と禁断の深読み
「食品ロス削減推進法案の成立見通しとなったことを受けて、セブン-イレブン本部が今回出したポイント5%還元による廃棄削減という施策は、あくまでも本部にとって有利なコンビニ会計(廃棄原価を仕入原価に入れずに膨らませた荒利益を本部と加盟店で分配する方式)を維持したまま、本部が負担することになっている15%の廃棄負担を軽減できるという判断から、多少廃棄が減ればいいという発想から出されたものです。そこからは食品廃棄を極力0に近づけようという発想は微塵も感じ取ることができません。
5%還元というのは割引率で言えば僅か0.5割引です。このような値下げシールは小売の現場で見たことがありません。これでは効果が薄いことは想像に難くありません。」(2019年5月19日付委員長コメント)
「このような値下げシールは小売の現場で見たことがありません」とはけだし名言である。考えてみれば、カード会員しかメリットを享受できないポイント還元を通常の値引き販売と呼ぶわけにはいかない。いわんや0.5割引は「見切り販売」ではありえない。
そして、こと食品ロスを小売り段階で減らすうえで最も効果的なのはスーパーや百貨店で日常的に行われている見切り販売であることは、先の委託調査資料88ページの回答や木村准教授の論説が示唆する通りである。そう考えると今回の「ポイント5%還元」は、少なくとも食品ロス削減の社会的要請とは何の関係もないと言わざるをえない。どころか、これが今後、ロス削減の気運からコンビニ会計の存続を守るために使われるようなことがもしあったら・・・? そんな勘ぐりさえしてしまうのだ。
*2 『経営総合科学』№109(愛知大学経営総合科学研究所刊・2018年9月)所収