B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

相次ぐポイント5%還元

 
glay-s1top.jpg
tsukat / PIXTA
先月中旬から下旬にかけ、コンビニ各社が相次いで、消費期限が迫った弁当やおにぎりを買ったカード会員にポイントを通常の5倍還元する取り組みを始めると発表した。100円購入につき5円の、事実上の値引き販売である。また同じ頃、衆議院の消費者問題特別委員会が「食品ロス削減推進法案」を国会に提出。5月24日に参議院で可決・成立した。
 
日本では毎年約640万t強の「食品ロス」――食品廃棄物のうち可食部の廃棄――が発生し、これは国連のWFP(世界食糧計画)が全世界で援助する食糧の2倍の量にあたる。折しも世界は現在、「SDGs:持続可能な開発のための2030アジェンダ」に取り組んでいる最中だ。日本もアジェンダ12の3――「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる」――に照らし、あるいは照らすまでもなく、食品ロス削減に向けて具体的な行動を起こす時期に来ている。
 
真っ当な理由があるならともかく、実際には、旧態依然とした商慣習や、社会通念上黒としか言いようがないグレーな会計方式のせいで無意味な廃棄が助長されているからだ。
 
 

総じて頑張っている中で

 
まずは食品ロスに占める「事業系」と「家庭系」の内訳について。環境省のポータルサイトによると前者は約357万t、後者が約289万t。比率にして5.5:4.5で、わずかだが事業系が多い。ではその事業系(食品製造業、同卸売業、同小売業、外食産業の4業種)における取り組みはどうなっているだろう。
 
食品ロスの削減は、日本では「循環型社会形成推進基本計画」のもと、主に農林水産省と環境省、消費者庁の主導で進められている。一例で農林水産省の資料によれば、例えば製造・卸・小売にまたがるサプライチェーン全体について、いわゆる3分の1ルールを2分の1ルールにする「納品期限の緩和」や物流段階でロスを減らせる「賞味期限の年月表示化」に、官民協働で取り組んでいる。さらには、メーカーの衛生管理および容器包装の技術が格段に進んで「賞味期限の延長」が実現しており、これも食品ロス削減につながると期待されている。他の資料などを見るにつけ、また特に農林水産省委託調査資料78ページ以降の「表4.25.食品ロスの削減に向けた取り組みの回答例」も見るにつけ、どの業種も総じてそれなりに頑張っている印象だ。
 
ただ、調べていくうちに、それらの中でどうにも乗り気でない(乗り気になれない?)業界があることが目に付いた。コンビニである。
 
 

認められてこなかった売り切りの工夫

 
まず、事業系全体におけるコンビニ業界の食品ロスの割合について。先の委託調査資料7ページ「表4.3.可食部・不可食部の推計値(定期報告)」にあるコンビニエンスストアの推計値18万1941tを全業種総計の209万5202tで割ると、約8.7%。一見大した率ではないが、食品の製造から卸、小売、外食まですべて含む75業種で分けあった末の1割弱であり、これを上回る業種は食品スーパーと思しき各種食料品小売業、豆腐・油揚製造業、パン製造業の3つがあるだけだ。特に後の2業種は「製造過程でおからが出るが、食用需要があるのは1%以下」(*後注1)とか、「頻繁に出る新商品の需要予測が難しく、売れ残りが出やすい」とかいうふうに、業種特性上いかんともしがたい理由がある。そう思うと、合理的な理由が見つけにくいコンビニ業界の食品ロスの多さは、やはり際立っていると言わざるを得ない。
 
そうすると次の問題は「なぜそうなるか」だ。もしかして他の業種と違い、食品ロスを積極的には減らせない特別な理由があるのではないか。
 
ここで先の調査資料の「表4.25.食品ロスの削減に向けた取り組みの回答例」から、項目⑤「販売方法の改善」のうち「売り切り」の欄を見てみる(88ページ)。すると「食品小売業」の取り組みとして10例が回答されているが、そのいずれもが、コンビニ業界では本部が加盟店に対し認めてこなかった取り組みであることがわかる。すなわち「見切り販売」だ。
 
 

業界特有の構造要因

 
見切り販売が認められてこなかった背景には、本部による優越的地位の濫用を結果的に助長しかねない業界特有の構造要因がある。これについては愛知大学法学部の木村義和准教授の論説「コンビニフランチャイズ本部による廃棄ロス助成金制度の批判的検討 ――食品廃棄ロスを減らし、コンビニ加盟店の収益をあげるために」が詳しい(特にp26~35、38~42。*後注2)。それによると、コンビニ本部が食品ロス削減に積極的になれない要因として
 
1、廃棄ロスよりも売上の機会ロスのほうを問題視する本部の傾向
2、加盟店に廃棄ロスを出させたほうが本部の利益になる特殊な会計方式(いわゆるコンビニ会計)
 
があるという。さらに、POSシステムが「需要予測と発注の精度を高めて商品を売り切る」という本来の目的の他に、加盟店の過剰発注を促して本部の利益を確保する方向で使われる可能性が暗に指摘されている。
 
 

加盟店ユニオンの見解と禁断の深読み

 
以上を踏まえたとき、冒頭のコンビニ各社の動きはどう受け取れるか。事実上の値引き販売を始める本部の狙いはどう解釈できるのか。コンビニ加盟店ユニオンの見解を参照してみる。
 
「食品ロス削減推進法案の成立見通しとなったことを受けて、セブン-イレブン本部が今回出したポイント5%還元による廃棄削減という施策は、あくまでも本部にとって有利なコンビニ会計(廃棄原価を仕入原価に入れずに膨らませた荒利益を本部と加盟店で分配する方式)を維持したまま、本部が負担することになっている15%の廃棄負担を軽減できるという判断から、多少廃棄が減ればいいという発想から出されたものです。そこからは食品廃棄を極力0に近づけようという発想は微塵も感じ取ることができません。
  5%還元というのは割引率で言えば僅か0.5割引です。このような値下げシールは小売の現場で見たことがありません。これでは効果が薄いことは想像に難くありません。」(2019年5月19日付委員長コメント)
 
「このような値下げシールは小売の現場で見たことがありません」とはけだし名言である。考えてみれば、カード会員しかメリットを享受できないポイント還元を通常の値引き販売と呼ぶわけにはいかない。いわんや0.5割引は「見切り販売」ではありえない。
 
そして、こと食品ロスを小売り段階で減らすうえで最も効果的なのはスーパーや百貨店で日常的に行われている見切り販売であることは、先の委託調査資料88ページの回答や木村准教授の論説が示唆する通りである。そう考えると今回の「ポイント5%還元」は、少なくとも食品ロス削減の社会的要請とは何の関係もないと言わざるをえない。どころか、これが今後、ロス削減の気運からコンビニ会計の存続を守るために使われるようなことがもしあったら・・・? そんな勘ぐりさえしてしまうのだ。
 
 
 
*1 食品廃棄物等の発生抑制の目標値検討ワーキンググループ(第4回)資料(日本豆腐協会、2011年12月)より
*2 『経営総合科学』№109(愛知大学経営総合科学研究所刊・2018年9月)所収
 
(ライター 筒井秀礼)
 
(2019.6.5)
 
 

KEYWORD

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事