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日本老年学会の提言

 
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今年1月5日、個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」の加入資格が拡大された。これまでは自営業者あるいは勤務先に企業年金がない会社員しか加入できなかったが、勤務先の企業年金の有無に関わらず、また公務員や専業主婦(主夫)も加入が認められ、実質的にほぼ全ての“現役世代”が利用できる制度になった。
 
“現役世代”――ここが問題だ。iDeCoの場合、加入が認められる“現役世代”は60歳未満までである。いっぽうで同じ1月、日本老年学会と日本老年医学会は高齢者の定義と区分に関する提言を発表。種々のデータから見て現在の日本人は 10~20 年前に比べ加齢による機能の衰えが 5~10 年遅くなっており、65歳からを高齢者とする従来の定義を見直してはどうか、という内容だった。
 
これをマスコミが年金受給開始年齢の見直しに直結させて「受給年齢引き上げ反対!」の論陣を張ったのは、提言にあった「内閣府の調査でも、70 歳以上あるいは 75 歳以上を高齢者と考える意見が多い」の箇所に反応したのかもしれないが、今問いたいのはそれではない。“現役世代”の線引き、そして高齢者の区分と定義。これらから出発して、「定年」と「起業」をつなげてその現代的意義を探ってみたいのである。
 
 

「定年後」をめぐる意識調査

 
2015年に電通総研が行った「シニア×働く」調査によると、50代後半に就労経験のある男女2600名のうち、60代前半は6割、60代後半でも5割が「現在、働きたい」と感じ、実際に男性の7割超、女性も5割半ばが定年後も仕事を継続している。働きたい理由は、60代前半男性の最多は「家計・生計のため」で6割超。女性の最多は「自由になるお金を得るため」で5割だ。男女とも60代前半は「お金」のために働きたいと思っている。
 
しかしこれが60代後半になると、男性は「健康維持のため」「元気なうちは働くのが当たり前だから」がともに約5割で「家計・生計のため」を上回る。女性は「社会や人とのつながりが実感できるから」が約5割、次が「健康維持のため」、そして「働くことが好きだから」も約4割に増える。男女とも、総じて働くこと自体が欲求になってくる印象である。
 
では就業形態はというと、60代前半男性の5割弱が「正社員」、3割が「契約社員・嘱託社員」で「アルバイト・パートタイム」が1割半ばだが、60代後半ではこの順が逆転し、「バイト・パート」「契約・嘱託」ときて「正社員」は2割まで減ってしまう。女性は前後半とも一貫して「バイト・パート」が7割で大半を占める。
 
これだけキレイに逆転する以上、しかも働きたいと思い続ける以上、現役の勘が鈍らない定年直後のうちに起業しておくという選択は、むしろ現実的ではないか。そのほうが70代になってから気力・体力の不安を感じつつ新たなことに挑むより確実で賢明だという見方もできる。また、同調査によれば、定年後も働く人の57%が再雇用契約で同じ会社やグループ会社に就労している。貢献度が同じであれば再雇用契約にするか個人事業で請負うかは問わない企業は今後も増えこそすれ、減ることはないだろう。「定年」と「起業」はつながりつつある。
 
 

小規模企業共済の制度

 
定年退職した個人が起業する際に利用したい制度として小規模企業共済がある。中小企業基盤整備機構による、個人事業主や小規模零細企業の経営者および役員のみが加入できる制度だ。位置づけとしては「積み立て運用型の退職金」だが、ここでは節税効果に注目したい。小規模企業共済は掛金が全額所得控除の対象になり、例えば月々の掛金が規定上限の7万円なら、課税所得額を毎年84万円抑えられる。マイナス金利時代の資産形成は増やすより取られない意識でいたほうが実利的だという意味では一考の価値ありだろう。
 
掛金で節税できる点は国民年金基金も同じで、ほぼ同額(月上限6万8000円)が全額所得控除されるが、65歳になれば脱退しなければならないし、小規模企業共済なら無担保・無保証人・低金利の貸付制度もある。「起業」との相性はやはりこちらがいいと言うべきだろう。(配偶者等家族を専従者にする場合は中小企業退職金共済のほうが総合的な節税効果は大きいが、事業主単独での切り盛りを想定する本稿では割愛)
 
ただ、注意は必要だ。共済のほうも、将来受け取るお金(共済金)が元本割れしないためには加入後5年間は事業を続け、月々掛金を払い続けなければならない。受け取り請求についても、廃業、譲渡、役員を退任、といった理由ではなく単に任意で解約する場合は80%まで元本割れすることもある。いずれにしても公式の窓口でよく相談・検討して決断してほしい。
 
 

自主自営でもう1ステージを

 
と、ここまで紹介してきたが、実は違和感を覚える読者は少なからずいるに違いない。起業は財テクや健康のためにするものではない、そんな気持ちで始めた事業が成功するはずがない、事業というのはそんな甘いものではない・・・というのはその通りだからだ。
 
しかし、どうだろう。「寿命100年時代」の、「複業時代」の、「定年後・高齢者未満」の人々の起業は、もっとゆるくてもいいのではないか。そもそも法人成りをしてビッグビジネスを狙いたい人たちではない。そして、もし我々社会の側が「事業とは」という“べき論”から彼らを非難するのであれば、むしろそのほうがおかしいだろう。“べき論”を言うのであれば、来るべき時代のキャリア観のヒントは意外にも、健康維持や節税が目当てで始めたはずが、気付けば自主自営の醍醐味にハマっていた、社会に求められる喜びに若返る思いで続けてきて、いつのまにか20年経っていた・・・というような「ゆるい起業」にこそ、あるかもしれないではないか。
 
昨秋邦訳が出版されたリンダ・グラットンの『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』は「教育→仕事→引退」という従来の3ステージの生き方の見直しを提唱し、ベストセラーになっている。単純にステージを増やせばいいわけではもちろんないが、「仕事→引退」の間にもう1ステージ入れて、「雇用されて働く仕事→自分でやる仕事→引退」とするのはイメージがしやすいだろう。カリフォルニア大学とドイツのマックス・プランク人口学研究所の研究では、2007年に生まれた先進国の子どもは半数が100歳以上生きる。欧米各国で102歳から104歳、日本にいたっては107歳だ。今後「定年起業」がこの文脈で存在感を増してくると思うのは、先を見過ぎか否か。
 
 
 
(ライター 筒井秀礼)
 
(2017.4.7)

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