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◆三度目の転換点を迎えた電力政策

 
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 今春、大手電力会社にとって「最後の砦」となっていた一般家庭や小規模事業者向けの電力小売が自由化される。これまで大規模事業者やビル、マンション向けの特別高圧および高圧契約はすでに段階的に自由化されてきたが、2016年4月1日からは低圧を含め全ての電力市場が開放されることになる。
 
 日本の電力供給黎明期に主体となったのは民間会社であり、電力産業は堂々たるベンチャービジネスだった。ただその後は軍による国家統制が進み、1930年には国営の組織である「日本発電」による独占が始まった。この国家による接収を電力政策における1度目の転換点とするなら、2度目の転換点は太平洋戦争後、日本発電の解体だろう。白州次郎らの提言を受けたGHQが全国の電力市場を独占していた日本発電を地域ごとの9社に分割。以降は1地域の市場を1社が独占する状況が現在まで続いてきた。
 
 安定供給というメリットは大きいものの、独占企業はコスト意識に欠ける。長期にわたって日本の電気料金はジワジワと上昇を続け、ついには世界一高い料金体系が経済活動を圧迫することとなった。
 
 この状況を解消すべく、2000年3月から特別高圧、2004年4月からは500kW以上の高圧、2005年4月からは50kW以上の高圧が順次自由化されてきた。さらに東日本大震災に端を発する原子力発電所の停止により燃料費がかさむ火力発電所への依存が高まったため電気料金が高騰。一般家庭を含む低圧需要の自由化を求める気運がヒートアップした。
 
3度目の転換となる電力小売の完全自由化で新たに開放される市場は、契約数8000万件、金額にして7.5兆円という巨大なものだ。
 
 

◆自由化前夜 新市場を見据える電力業界の勢力図

 
 現在の電力市場には主に4タイプの事業者が存在する。東京電力など「一般電気事業者」の他、「特定規模電気事業者」「卸電気事業者」「特定電気事業者」である。
 
 「特定規模電気事業者」は特別高圧、高圧のユーザーに対して一般電気事業者の送電網を利用して売電する事業者を指す。「卸電気事業者」は自社で発電した電力を一般電気事業者に対し卸売りしている電気事業者で、日本原電や電源開発(J-POWER)がある。もともと電力需給を支える補完的な組織として戦後にスタートした電源開発は、現在は民営会社だが、中規模の一般電気事業者に匹敵する発電量を誇る。「特定電気事業者」は限定された区域に対し、自らの発電設備や電線路を用いて電力供給を行う事業者で、六本木エネルギーサービス(株)、諏訪エネルギーサービス(株)がこれに該当する。
 
 それぞれを見ると、やはり一般電気事業者の発電量が圧倒的で、2015年10月の統計では89.2%を占めている。同統計における特定規模電気事業者の割合は1.7%、卸電気事業者8.9%、特定電気事業者0.2%。このうち一般電気事業者以外で低圧ユーザー市場への参入を予定しているのは主に「特定電気事業者」だが、現状では様子見姿勢の企業が多く、発電量ベスト10企業の中で参入を発表しているのは、2016年1月17日時点で4社だけという状況だ。
 
 

◆意気込み高いが諸外国では料金高騰や大停電も

 
 既存プレーヤーが石橋を叩く中、積極姿勢を示しているのが異業種から新たに割って入る事業者だ。参入には経済産業省から「小売電気事業者」の認定を受ける必要があり、2016年1月時点で認定事業者は119社にのぼる。内訳は石油やガスなどエネルギー産業の他、通信、小売、電鉄、ハウスメーカーなど多彩だ。
 
 シェア争奪戦のカギとなる料金とサービスの内容について、1月に入り、新規参入する「小売電気事業者」が料金体系などを発表しはじめたが、その内容は概ね既存の一般電気事業者に比べ割り引きとなるものである。JCOMでは自社プランについて東京電力の料金に比べ10%程度の割り引きになると試算。東急電鉄は一戸建て4人家族のモデルケースで年間約9400円の割り引きが可能とうたう。対する東京電力も対抗する新たな料金体系を発表しており、4月1日のスタートを前にシェア争いが激化している。
 
 
 

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