さまざまな現場を通じて仕事や役との向き合い方を学んできたという井頭さん。演技への取り組む方に変化はあったのかお聞きすると、「すごく変わりました」と笑いながら答えてくれた。

作品を俯瞰して見るように

以前は、自分が演じる役と向き合う時間が大半でした。最近では、自分の役だけでなく作品全体と向き合うようになってきたんです。「このシーンでは、自分はどういう役割を果たしているんだろう」と考えるようになりました。その結果、脚本の意図を読み解くことができるようになってきたのかなと思います。 今までは、役柄の感情をみなさんに伝えるのが自分の役割だと考えていました。でも、「このシーンでは何を伝えたいのか」「この役柄がいる意味は何なのか」と俯瞰して考えることで、理解が深まってきています。まだまだ、読解力が足らないと実感することも多いですけどね。 以前出演した舞台『どうせ、恋してしまうんだ。』での経験も活きています。舞台上でずっと全力の感情で演じてしまうと、観てくださっているお客さんも疲れてしまいます。際立たせたいシーンはどこなのか考え、コントロールすることを学びましたね。ただ、演じているときは、より役柄の感情に近づくために、そういった私自身の思考は捨てなければいけません。だから、繰り返し稽古することで体に覚え込ませていくんです。そうすると、舞台上で感情が昂っていても、体が覚えている芝居をしてくれるんですよ。すごく難しいですけどね（笑）。 自分の役柄だけでなく作品全体と向き合うのは、実は嫌いだったんです。勉強のようなイメージがあって苦手意識がありました。でも、実際に取り組んでみるとおもしろかったですね。何度も見た作品でも、俯瞰して見ると今までと違う解釈があると気付くんです。今では、日々学び、一生勉強していきたいと思っています。 これまではピュアで元気な女の子を演じることが多かったので、今後は二面性のある役柄にもチャレンジしてみたいです。例えば、殺人鬼の役とか（笑）。複雑な感情を目の動きで表現するなど、繊細なお芝居に挑戦してみたいと思っています。 また、私はオンとオフは切り替えられるタイプなので役を引きずったことはありません。いつか、何日も感情が引きずられるような役柄にも出会ってみたいですね。自分にないものを演じるのは、想像では補えない部分もあるのでとても難しいのですが、それが楽しくも感じるんです。日々さまざまな経験を積んで、役づくりに活かせていけたらと思っています。 （取材：2025年3月）