本番で満足のいく芝居ができなかったとしても、後悔はしないと語ってくれたでんでんさん。どのようなお考えを持っているのか、あらためてお聞きした。
心が動くからこそ気付けることがある
例えば株を運用していたとして、ずっと最高値で売り続けることはできないですよね。その少し下くらいでちょうど良いんですよ。芝居もそれと同じだと思っています。ずっと最高の演技をし続けることはできません。というより、「今日の芝居はてっぺんだったな」と思えることは一生に一度もないかもしれませんよね。
稽古をしているときは、すごくやる気に満ち溢れていますし、自信もついている。だから、「これはてっぺんを取るクオリティの芝居ができそうだな」と思うこともあります。でも、実際に舞台に立ってみるとそんなことはないんですよね(笑)。
この業界は、それぞれ個性あふれる方ばかりです。だから、自分で稽古をしていたときに思い描いていた通りになることはないんですよ。その分、うまくいったときの相乗効果は高いです。でも、次の日に同じシーンを演じてみると、全然違うものになっていることも。同じ芝居は二度とできない、日々変わっていくところも芝居のおもしろいところですね。
そうして稽古を繰り返していると、ふとセリフの裏に隠された気持ちに気付くことがあります。今までと同じセリフを喋っているのに、「この言葉には、実はこういう意味があったんだな」と腑に落ちるんです。それは、自分の心が動いたからこそ気付けているのだと思っています。ただセリフを覚えるだけでは、そういった気持ちに気付くことはできませんから。
「どれだけセリフを覚えたと思っても、一晩寝ると忘れてしまう」とジョークも交えながらインタビューを受けてくれたでんでんさん。セリフを完璧に覚えたその先に、芝居の楽しみがあるのだという。
うまく演じようと思わない
僕は、芝居の楽しみは自分で稽古を繰り返し、セリフを完璧に覚えたその先にあると思っています。セリフを覚えるのは大変だし、その先で楽しさを見出すのも大変なんですけどね。でも僕は、その境地に立ったときに「ようやく稽古が始まったな」とワクワクするんですよ。
僕が昔から心がけているのは、うまく演じようと思わないこと。肩の力を抜いて芝居に取り組むようにしているんです。さらに言ってしまえば、演じるという意識も持たないようにしています。“でんでんが演じている役”ではなく、その男が本当に存在していると思うようにしているんです。
だから、誰かに「今日はあまり調子が良くなかったね」「あの演技は少し下手だったんじゃない?」と言われたとしても、それは僕の演技が下手だったのではなく、その男のコンディションが悪かっただけなんですよ。そういう風に考えられたら、人の目を気にして芝居に取り組むこともなくなって良いんじゃないかな、と思っています。
こういった意識を持つ前は、どうやって失敗しないようにしようとか、多くのことを理屈で考えていました。セリフを喋っているときに、自分のイントネーションが気になって集中できていないこともありましたね。でも、理屈で考えるのではなく、心を動かすことを意識してからは、スッと役柄に入っていけるようになったと思っているんですよ。