心の声に素直に従い
チャンスを呼び込む行動術
「プロライセンスを取る決意をして良かった」 と語る片岡氏。自分の魂の声、“腹の主の声” に耳を傾け、率直に従えば道は開ける――。それが片岡氏の持論だ。それは決して挫折を知らない人間の言葉ではない。常に目標を達成してきた男にも、迷うことはあったのだ。
自分にしか描けない感動を表現したい
絵画の世界にのめりこんだのも、腹の主の声に従ったからです。30代前半から後半にかけて様々な仕事を経験し、多くの成果を得られて本当に充実の日々でした。しかし、私が38歳の頃に、鬼塚選手が世界タイトルを奪われて引退し、自分が主演していた 『季節はずれの海岸物語』 や金田一耕助のテレビシリーズも終了。目標とするものがなくなってしまった。その後の半年くらいは仕事に身が入らず、1人で海岸に出て夕焼けを見ながら物思いにふけるなど、魂が抜けたような生活が続きました。鬱々としていて、押し潰されそうな日々をどう打破すればいいのかもわかりませんでした。
だけどある日、隣家の庭に赤い花が咲いていることに気付いたんです。今まで私は花に目を止めたことなんてなかったんですよ。でもなぜか、その花に目を奪われました。誰に見られることもなく、自らの命を咲かせている生命力にすごく感動したんです。隣家の方にその花の名前を聞いたら、「椿」 だという。「これが椿か。自分を感動させてくれたこの花を、なんとか表現できないか」。そう思いました。これも腹の主の声だったんです。でも、私の持つ表現手段では、感動を具現化できない。どうしたらいいのか。自分が音楽家だったら、詩人だったら…。その中で出た結論が 「絵に描く」 ことでした。
しかし、いざ描いてみると、イメージする椿と実際に描いた絵とのギャップに愕然としました。あれだけ感動し恋い焦がれた “あの時の椿の花”。あの、私にとっては何よりも代えのきかない、“かけがえのない唯一の椿” をどうしても表現できないんです。だが、諦めなかった。描いて、描いて、ひたすら描きました。後年、ある美術評論家の方が、「その時、よく諦めずに描き続けましたね」 と言ってくださいましたが、あの時の私には描くことしかなかったんです。諦めてしまったら、他にすがるものがなかったんですよ。それがまた、新しい出会いを呼んでくれたのです。
ある日、タモリさんと仕事終わりに飲みに行くと、タモリさんの知り合いの画家、村上豊さんがいらっしゃった。絵について話している間に、「じゃあ似顔絵を描き合おう」 ということになって。村上先生は私に対して 「上手く描く必要はないです。対象の特徴だけを描けばいい。あなたは物真似をやっているだけあって、特徴を掴むのが上手だから、同じことをすればいい」 とアドバイスしてくれました。あの言葉には励まされましたね。絵でも芸でも、表現するために必要なことは同じだとわかったのですから。考えてみると、私の物真似は対象に似ていたから受けたわけじゃないんです。マッチでわかるでしょ(笑)。特徴を掴み、誇張して表現することが笑いに変わっていた。だから、上手い下手は考えず、自分にしか描けないことを表現すればいい。何をやっても自由。そういうことに気付けました。
「絵は上手に描くべき」 という先入観を取り払った片岡氏は、創作活動においてもその後、多くの実績を残してきた。では、現在の片岡氏が描く作品はどのようなものなのか。そして、目標を目標で終わらせず、実績を残すための心構えとは――。
人生にリハーサルはない。全てが本番。
たとえば今、後ろにあるこの絵は次回の展覧会に出展しますけども、その見せ方を従来にはないものにします。この原画にブルーの照明を当て、さらに、絵の中にある魚を一匹だけ、動画として泳がせるんです。すると、魚が泳いで水面に波紋を広げているような見せ方ができる。このように、固定観念にとらわれず新しい表現を模索するのは楽しいじゃないですか。
人間は、誰でも表現者なんです。たとえば、会社員の方が上司から頼まれた仕事をするのも、何かを受信して自らが発信するのだから表現なんですよ。自分勝手な思い込みで発信するのではなく、上司の思惑をきちんと理解して発信先へどう伝えるのか――。そのためにはコミュニケーションが大事だし、表現するための語彙も必要。すると、毎日が勉強だし考えなくてはいけない。つまり、人生そのものが表現の場なんですね。人生にリハーサルなんてない。全てが本番なんですよ。
自分と向き合い、自分の率直な思いに従い行動すれば、外部からもきっといい反応があります。信じて行動していれば転機となる出会いなりチャンスはあるんです。それに気付けるかどうかは、自分次第なんですよ。とにかく行動です。そして続けるんです。すると、「自分が確実に正しかった。間違っていなかった」 と確信できる出会いやチャンスが巡ってくる。だから、やりたいことは先に言葉にしてしまえばいい。すでに成功したかのようにね。結果として詐欺師と思われない程度の言葉に抑えておけば(笑)、きっと大丈夫ですよ。
(インタビュー・文 佐藤学 / 写真 Nori)
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