プロフィール 1966年、愛知県名古屋市生まれ。在日韓国人3世として育ち、日本に帰化。幼少時は病弱で車椅子生活を送った。愛知県立芸術大学を卒業後、デザイン会社に就職。自らの闘病経験をもとに、会社勤めと並行して身体障害者向けの製品をデザインするボランティアグループの活動を続けた。解散後、巻き返しを期して上京するも約束の仕事がなくホームレス生活に突入。徐々に手掛けるようになったホームページ制作の仕事をきっかけに質問サイトの事業を発案し、1999年に(有)オーケーウェブを設立。(株)オウケイウェイヴへの改組を経て2006年に名証セントレックスに上場。デザイナーとしても通産省グッドデザイン賞・中小企業庁長官特別賞などの受賞歴がある。主な著書に 『グーグルを超える日 オーケイウェブの挑戦』(ソフトバンククリエイティブ)、『ホームレスからのリベンジ』(小学館)、『ホームレスだった社長が伝えたい 働く意味』(大和書房)など。
「クラウド」 という単語がにわかに注目を集めている。正確に言えば、一般化されつつある。要因は様々だが、その一つにQ&Aサイト 「OKWave」 の存在があることは間違いないだろう。
「教えてほしい!」 という質問者の切実な声に、専門家から一般人まで含めた回答者が自分の知識と経験を持ち寄って 「答えてあげる!」 と応じる。質問者はその中から自分の考えにそった回答を探すことができる。他の質問者に対しては、自分が回答者になって 「教えてほしい!」 の声に応じてあげられる。そのサイクルを通じて 「ありがとう!」 の波が広がっていく。――誰でも気軽に質問でき、誰もがその質問に応えることができる、まさに情報のギブ・アンド・テイク。これは、OKWaveのような巨大なコミュニティでしかできないことだ。
そこで今回、オウケイウェイヴを率いる兼元謙任氏に、根底にあるポリシーからクラウドビジネスの行く末までを尋ねてみた。
すべての始まりは「自律神経を味方につける」?
ビジネスでまず最初に言えることは、「目的」 を見失わないこと。人間が行動するうえで、「目的」 は欠かせませんよね。自分は何のためにその行動をしようとしているのか? 仕事で言えば、「自分は何のために働いているのか?」。そこをしっかり固定しておかないと、ただ労働のための労働になってしまいますし、生産のための生産になってしまう。まずはそこを明確にしないと働く意味がないんですよ。
実は、自分を味方にできていない人が結構多いんです。「え?」 と思われるでしょう?私がここで言う 「自分」 とは、普段は意識しない 「もう一人の自分」 のこと。私はこれを 「自律神経さん」 と呼んでいます。
たとえば、1万円の現金を手にしたとしますよね。でもその1万円は自分のお金のようでいて、自分のお金ではないんです。あれやこれやの支払いに充当しなくてはいけないかもしれないし、食費にあてなくてはいけないかもしれない。給料でもお小遣いでもなんでも。そこでですね、あえてその中の1割、つまり10%相当の1000円を、自分に渡してあげるんです。私だったら 「兼元謙任さんへ」 と、「誰のお金か?」 を書いて明確にして、手元に取っておく。何かに使ってしまってはいけません。おもしろいでしょう?(笑)
するとですよ、自律神経さんが 「これは自分に渡されたお金だ」 と認めるので、「自分がやったことに対して、きちんと報酬をもらえる」 と理解してモチベーションが上がるんです。
モノを買ったり、おいしい食事をしにお店に入ったり、ちょっと旅行にでも行ってみたりと、何かに消費してしまうのは待ってください。自分へのご褒美のつもりなのに、そのお金は誰かの懐に入ってしまうことになる。つまりモノを作っている人や、レストランで働く人々のためのお金になってしまうわけなんです。
もちろんモノを買うなとか、外食をするなとか、旅行へ行くなと言っているのではありません。そんなことを言ったら各方面の業界の皆さまに怒られてしまいますからね(笑) 大事なのは、「自分にあてたお金」 を作り、それが目に見えて手元にあることなんです。すると不思議なもので、人間、残り9割のお金で生活できるようになってくるんですよ。モノや食事、旅行などはその中でまかなえばいいわけです。
そのうえで、ある程度お金が貯まってきたら、今度は新たにお金を生み出すものに形を変えてあげるんです。極端な例では、マンションを買うとかね。マンションは、人に貸すことで、家賃という形のお金を生み出してくれるでしょう? つまり、「自分にあてたお金」 は、消費財に向かってしまわずに、また自分のところへ戻ってくる生産財になるわけです。すると自律神経さんは 「これは自分のためにやっていることだ」 という実感が持てるので、モチベーションが上がるだけでなく、「自分は何が欲しいか。何をしたいか」 を意識できるようになります。それが目的や方向性を示してくれるんです。