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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

アルミに宿る職人の誇り
世界が注目するフルハンドメイド

 
 

人とはちがう「かっこよさ」の概念

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「僕の中にあるのは、優しさと思いやり、男の子なら我慢。これがエアロコンセプトの持つ、モノのかっこよさの基準だね。あるときは犠牲的精神を持ち、我慢強くいられる。でも本領を発揮する時は発揮する。そんな頑固なモノであってほしいね(笑)」と菅野

 エアロコンセプトを語るにおいて、菅野の 「かっこよさ」 に対する理念を語らずには始まらない。「かっこよさ」 には、いくつもの系統や種類がある。容姿や身のこなし、センスや哲学もひとつ。だが菅野の理想はさらに違う場所にあった。
 
「僕の思うかっこよさってね、見てくれの問題ではないんですよ。もちろん見た目がスタイリッシュなことは悪いことじゃない。だけど、そこに中身があるかどうかなんですよ。優しさというか、潔さというか。武士道に近いものがあるかもしれない」
 
 武士は食わねど高楊枝――ではないが、話を聞くにつけ武士道精神の持つ “潔さ” への近さは感じられる。自分に自信を持ち、自分のポリシーや哲学を大事にする。そこには少々の見栄があっても構わない。腹が減ったのをお上のせいにして愚痴を言う武士が武士らしくないように、気高く、自らのアイデンティティを大事にするということがエアロコンセプトの理念につながっているのだ。
 だが、話を聞いていると、ふと思う。「潔さと商品がどうつながっていくのだろうか・・・・・・」。菅野の考えは一貫していた。
 例えば、渓水が旅行カバンの受注を受けた際のことだ。伸縮自在の取手をつけたり、ローラーをつけたりしてほしいという相談がある。ここで菅野は、その申し出をまず断っていく。
 
 「便利だけど、かっこよくないよ」
 
 菅野が言いたいのは、見てくれの問題ではない。足をけがしていたり歩行に難のある年配者ならいざ知らず、海外などでゴロゴロと耳障りな音を立ててまで便利さを求めることを不格好だと断じているのだ。
 
 「便利さを追求し出したらきりがないし、便利さがほしければそっちのカバンを買えばいい」
 
 たとえ持ち運びやすくなっても、自分ひとりのために周囲に不快な音を聞かせたり、周囲がつまづいたり歩きにくくなるような状態を作り出すのは、カバンの作り手として “潔く” はないという。
 菅野だって、ひとりでも多くのユーザーが、エアロコンセプトに共感し使用してくれることを願っている。だが、便利さを追求した商品を作るということは、再び下請け時代の苦しみをもたらすことになる。現在育っている、次世代を担う職人たちに 「安かろう早かろう」 を求められない職人になってほしいという願いも、実は氏のこだわりの中に含まれているのだ。
 
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 「例えば薄いカバンを作る。薄ければ中に多くのものを入れられないから、不便には見える。だけど、『私はあなたに会うために、今日は外出している。他のところをまわらないから、薄いカバンで十分なんだ』 と、一人ひとりを大事に思えるようなカバンにしたいから」
 もはや理屈ではない。モノは人のためにある。その考え方を別の角度から見ると、便利な日常をもたらしてくれる道具ではなく、人間として大事な絆をもたらしてくれる道具もある。菅野は、そこを訴えたいのだ。
 
 
 
 
 

日常茶飯事! 職人同士のぶつかりあい

 
 これだけのこだわりがあると、素材選びにもシビアな目が向けられる。エアロコンセプトのもうひとつの魅力である革についても同様だ。
 渓水には、革素材を加工提供してくれる心強いパートナーがいる。だが、またしてもこれがビジネスライクではない。
 
 「そりゃもう相手も職人だからね、革の注文ひとつでも大ゲンカでね(笑)」
 
 革とアルミのコラボレーションと言うと聞こえはいいが、素材同士の質がまるで違うのだから、同じ土俵での発注は難しい。だが、職人同士のやりとりでは、そんな “違い” は意味をなさない。
 
「革は伸びる素材だから、厳密な計算がしにくい素材。アルミは千分の数ミリ単位で加工できるけど伸びたりしない。まるで正反対の素材なんだけど、僕も言うんです。『なんでもっと精密にできないんだ』 って。無理は承知だけどね(笑)」
 
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シュリンク塗装は、日本では縮み塗装と呼ばれているもの。8mmカメラ
や双眼鏡など、または精密機器を入れるボックスによく見られる塗装方
法だ。最初に塗装液を吹き塗り、200度の窯に入れて縮みを出す。
だが、腕利きの塗装職人の手でなければ、縮み方にムラができるので、
非常に高い技術が必要とされる。

 菅野は革であっても金属並みの加工精度を求め、常識を覆すような発注を何度もしてきたという。
 
 これがデザイナーという立場であれば、話はそれほど難しくはないだろう。だが、革屋には革屋のプライドというものがあり、「板金屋に革のことをとやかく言われたくない」 という衝突が幾度となくあったという。そこは菅野も負けてはいない。
 
 「気に入らないと思ったら受け取ってこないからね。でも、いいものが出来上がったら手放しで褒めるよ。『すごいね、こりゃまいった! まさかこんなの作ってくるとは思わなかったよ!』 って。向こうもこっちに 『スゴイ』 と言わせたいから、隠れていろいろやってくる。で、僕が心底感心していたら、目の前で涙流して泣くんですよ。必死で作ったものを手放しに褒めてくれるって、本当に気持ちがいいものだし、なんとも言えない感激があるからね。その気持ちは、同じ職人として僕もわかる」
 
 わかりあえる職人同士、衝突はある。だが革職人のほうも、今、菅野と組んでエアロコンセプトの仕事をしていくのが楽しいのだという。大量生産で作られる仕事は経済的な安定をもたらすが、そこに職人としての誇りをくすぐるものがあるかどうか。エアロコンセプトは、こうした職人同士のプライドや意地、そして絆が形になったものだ。
 
 
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革とアルミに141ヶ所の穴を開け、242回に及ぶ手縫いで縫い合わせる。どちらかの、どこか1ヶ所の穴がわずかにずれただけでも、全体の仕上がりに狂いが出る。気が遠くなるような精密な作業を、職人の技が可能にする。

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渓水の精密鈑金技術は技術の継承によって構築されつづけている。テクノロジーだけに頼らず、職人たちの経験を最新技術と組み合わせることで、独創的な世界観を生み出し続けている。

 
 
 
 

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