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スポーツ コーチは愉し vol.3 分業の有効性について コーチは愉し ゴルフツアープロコーチ

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こんにちは。ツアープロコーチの内藤雄士です。年が明けて2015年。今回は僕がゴルフ先進国・アメリカに留学した時の経験や、そこからつかんだコーチの在り方についての話を中心にお届けします。
 

コーチングも分業で

 
皆さんは「名プレーヤーは名コーチにあらず」という名言を聞いたことがありますか? ゴルフの世界でいえば、たとえばデビッド・レッドベターさん(※1)。この方は80年代半ばからニック・ファルド選手(※2)やアーニー・エルス選手(※3)といった名プレーヤーを指導し、数々のメジャータイトル獲得に貢献してきたコーチ界の「レジェンド」です。
では、レッドベターさんの現役時代はというと・・・?
実は、特に目立った成績は残していないんですね。
 
現役時代に名選手だった方には、トップ選手だからこそたどり着けた境地やそこでの経験があると思います。そういった方はコーチとしても、自分の経験則をもとに選手を指導されるケースが多いでしょう。それとは別に、選手経験がさほどないコーチは、テクニカルの部分を専門に教えたり、メンタル面を心理学なども応用して指導されたりしています。
 
つまり、コーチングも分業なんです。ゴルフに限らず、プロ選手の経験がなくてもプロコーチとして活躍されている方はたくさんいます。「教えることに長けている人がコーチに就くべき」という合理的な考え方と、「プロを教えるプロ」の必要性が認められているんですね。
 
大河ドラマで人気になった黒田官兵衛を例にするとわかりやすいかもしれません。官兵衛は武芸の達人ではなかったものの、戦略家としては超一級。時の戦局を正確に見抜き、絶妙の采配を秀吉にアドバイスしました。あれがまさに、我々プロツアーコーチの在り方だと思います。
 
 

アメリカ留学で決意したこと

 
僕がこれほど明確にツアープロコーチを定義できるようになったのは、アメリカ留学がきっかけでした。僕は20歳の時から2年間、アメリカに留学していました。あちらは雄大な自然を活かした本格的なゴルフコースがいくつもあり、アプローチグリーンやバンカーも多彩。練習場には当時最先端を行っていたスイング解析コンピュータも導入されていました。ゴルフを取り巻く環境が段違いで良かった。
 
レッスンも素晴らしかったです。コーチングの理論は論理的かつ明確で、アドバイスするポイントも合理的。グリップ、セットアップ、ボールポジション、体の回転運動にいたるまで、全てに対して納得できる説明がなされます。ほとんど毎週のようにミニツアーに参戦していたこともあり、僕のスイングはたちまち改善されていきました。
 
ゴルフというのは、道具を上手く使いこなせて、コースを攻略できる知恵があれば、僕のように小柄な体格でも勝てるチャンスがあるスポーツです。そして、勝負強い選手の横には必ず、優秀なコーチの影があります。コーチは選手にとってそれだけ大事な存在です。僕はアメリカ留学中にこの事実を身をもって知り、
「よし、帰国したら、先進のコーチングメソッドを日本に広めよう!」
と決意しました。
 
 

世界で闘う才能を持つジュニアの育成を

 
それから帰国し、たくさんのツアープロのコーチをつとめ、日本にツアープロコーチの地位を確立していった経緯は前回までに話した通りです。2000年代初めにはまだ僕をふくむ数名しかツアープロコーチはいませんでしたが、ここ10年あまりで人数が増え、徐々に存在が認知されるようになっています。
 
では翻って、プレーヤーの現状はどうでしょう?
ここ数年、石川遼プロ(※4)、松山英樹プロ(※5)と、アメリカPGAで活躍する若手が現れました。この二人だけを見ると、日本の男子ゴルフは世界レベルと思われるかもしれません。
 
ただ、現実は違います。欧米はもちろん、アジア圏の国々の後塵を拝しています。4大メジャー大会を見ても、韓国人選手は優勝していますが、日本人選手は未勝利です。この現実をどう捉えるか。
 
僕は、日本が弱くなったのではなく、他国の選手育成システムが日本よりも上手く機能している結果だと捉えています。特に韓国です。韓国ではジュニア世代から英才教育を施し、その中から選抜された有望株を、10代のうちからアメリカへ留学させます。有能なコーチのレッスンを受けた彼らは様々な大会に出場し、経験を積みます。こうなると、強くなるのは当然ですね。しかも世界各国の選手と仲良くなって、大舞台でも気後れしない精神力も身に付ける。だからピンチにも動じず、堂々としたものです。
 
日本も、そろそろ育成システムを変えるべきではないでしょうか。でなければ、4大メジャーを制する選手は現れませんよ。
 
僕は、ゴルフ人口が減る中で大事なのは、できるだけたくさんの人に子どものうちからゴルフに親しんでもらうことだと思っています。そのために我々プロコーチも、積極的に子どもたちと関わるべきです。才能の芽をいち早く発見し、育み、本場に送りだす。これも僕たちの大切な役目です。実際に、僕の運営するスクールでは子ども向けのレッスンも実施しています。プロになる教え子も出てきました。
 
ということで、次回は「ジュニアの育成」をテーマにお話ししましょう。
 
 
 

※1 デビッド・レッドベター/1980年代半ばに競技選手の一線を退き、ティーチングプロを初めてビジネスにした。門下生にはメジャー大会に優勝した一流選手が並ぶ。
※2 ニック・ファルド/1957年、イングランド出身。メジャー大会を6勝する名選手。世界ランキング1位にも、通算で97週在位した。1997年、世界ゴルフ殿堂入り。
※3 アーニー・エルス/1969年、南アフリカ・ヨハネスブルグ出身。優雅なスイングとおっとりした物腰から、“ビッグ・イージー”というニックネームがつく人気者。
※4 石川遼/1991年、埼玉県出身。2007年に高校生でツアー世界最年少優勝を飾り、一気に有名に。その後、日本での最年少賞金王の記録保持者になった。
※5 松山英樹/1992年、愛媛県出身。アマチュア時代にマスターズの出場権を獲得。日本ツアーで史上初のルーキーイヤー賞金王に輝いた。2014年には日本人4人目となるアメリカPGAツアー優勝を果たした。

 
 
 
内藤雄士の 「コーチは愉し」
vol.3 分業の有効性について 

 著者プロフィール  

内藤雄士 Yuji Naito

ゴルフツアープロコーチ

 経 歴  

1969年9月生まれ。日本大学ゴルフ部在籍中にアメリカにゴルフ留学し、最新ゴルフ理論を学ぶ。帰国後、ゴルフ練習場ハイランドセンターにラーニングゴルフクラブ(LGC)を設立し、レッスン活動を開始。1998年、ツアープロコーチとしての活動を始め、2001年には、マスターズ、全米オープン、全米プロのメジャー大会の舞台を日本人初のツアープロコーチという立場で経験。丸山茂樹プロのPGAツアー3勝をはじめ、契約プロゴルファーの多数のツアー優勝をサポートした。主なレッスン著書のうち、500円シリーズ (学研)はシリーズ合計130万部を超え、今も売れ続けるベストセラー。現在は、ツアープロコーチとしての活動やジュニアゴルファーの育成に力を入れる傍ら、ゴルフ専門チャンネル「ゴルフネットワーク」にて「あすゴル」にレギュラー出演し、PGA TOURの解説を担当している。また中日スポーツ・東京中日スポーツにて毎週木曜日「内藤雄士の必ず上達するこれが最新スイング」を連載中。

 オフィシャルホームページ 

http://www.naitoyuji.com

http;//www.golf-highland.co.jp (ハイランドセンター)

(2015.1.14)
 
 
 
 

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