格下相手に全力で真剣勝負をしたイチローさん
だからこそ相手は感動し、自信になった
11月21日東京ドーム。イチローさん率いる「イチロー選抜KOBE CHIBEN」と「高校野球女子選抜」のエキシビションマッチが行われた。エキシビションといっても当人たちは本気だ。特にイチローさんは、「遊びじゃない。全力で真剣勝負する」と自ら公言し、その言葉どおり初回から138㎞の速球を投げ込むなどして、高校女子選手相手でも一切手抜きをせず、9回116球を投げ抜いて完封勝利した。
打つほうは四打数二安打。最終打席なんかもうヘロヘロで、一塁に走る脚ももつれ気味で、それでも9回のマウンドに立ったのはビックリしたけど、それ以上に私が目を覚まさせられたのが、三打席目の見逃し三振に関する試合後のコメントだった。
彼の言葉はこうだ。「僕の感覚では、みんなは知らないと思うけど、クレメンスより打ちづらかったです」。クレメンスというのはロジャー・クレメンス投手。2000年代までメジャーで速球王として活躍した、通算354勝のレジェンドだ。イチローさんは高校生女子の直球を、メジャー屈指の剛腕の速球と比べてハッキリと、「クレメンスより打ちづらかった」と言い切った。
私はその潔さに衝撃を受けた。野球に限らず何でも同じだが、普通、プロを引退した元選手が格下の相手と対戦して負けたら、「やられた。けど、誰々ほどじゃないね」みたいに過去の経験を引き合いに出して、「あの選手と対戦したことがある」という言い方で暗に「当時であれば負けなかった」とほのめかしたい気持ちになるはずだ。
イチローさんにはそれが一切なかった。ベストを尽くして負けた、という事実を自分のものとして受け止め、過去の経験も今の自分から参照して、つまり過去を過去として扱うのではなく今の人生に折り込んで、「誰々よりすごい」と評価したのだ。
これって、なんとなく聞き流した人も多いと思うけど、普通は怖くて言えないんじゃないかな。
自分の主観に責任を持つ。それはつまり、現在の自分に責任を持つということだ。今の自分を本気で生きているからその覚悟ができる。本気をぶつけられるから対戦相手も感動するわけで、これがもし、最初から「格下相手に元プロが本気出すなんてカッコ悪いでしょ」みたいな姿勢でイチローさんが臨んでいたら、三振を奪った女子投手はあれほど喜ばなかっただろう。賛辞を贈られても嬉しくなかっただろう。自信も付かなかっただろう。
私はそう感じて、「そうか、大人が本気で向き合うってのはこういうことだ」と思ったね。「本気出すとカッコ悪いとか、そんなんじゃない。その年代ごとの自分のベストに向けて努力しているかどうかだ。自分自身に対し本気で向き合うからこそ、若い人に影響を与えられるんだ」と。
イチローさんはこの試合の前後で次のような趣旨のことも言っていた。「スポーツを修練ではなくあくまでアクティビティとしてエンジョイすることを主眼に置く取り組みは、今の常識であることはわかるが、諸手を上げて賛同はできない。ある時までは近くに厳しい大人がいてその人の自堕落さや怠け癖をシバいてくれるほうがいい。そういう大人がいてこそ、自分を甘やかし流れてしまう人も脱落することなく、それなりのクオリティに到達できる。今は甘えや怠けを容赦なく指導する“厳しい大人”をやってくれる人がいなくなった。自分で自分を厳しくコントロールできない人は、誰からも指導されたり矯正されたりすることなく放置される。それは可能性のある子どもたちにとって酷なことだ」と。
自己責任を盾にとり、大人が若手を指導しない時代に
皆さんは人材育成についてどう考えるか
そんな社会でいいのか? という大上段すぎる問題はひとまず脇に置こう。良くないな~と私が思うのは、若い世代がそうなりやすい仕組みが世の中に溢れており、それは先輩世代がそうしてきたせいでもあるからだ。
その代表がネット検索のアルゴリズムだ。アルゴリズムって良くないね~(笑)、ほんと良くない。大谷翔平選手でもイチローさんでも、とにかく野球の記事をネットで検索したらず~~っと野球関連のコンテンツばっかりスマホに流れてくる。好きだからつい見ちゃうんだけど、そしたら頭の中が全部野球に持って行かれちゃって、気付いたら世の中の他の情報のインプットが途切れてた。やっと自覚したから、今は意識して新聞を買って読むようにしている。興味の有無に関係なく同じ誌面で他の出来事も目に入るからね。
でも、それでも、無意識に『スポーツ報知』を買ってるんだよね(笑)。読売新聞社系でジャイアンツの記事が多めに載ってるから。前はキオスクで買う新聞は『日本経済新聞』だったのが、『スポーツ報知』。それでまた、この原稿の収録で編集部の人と会ったときも、「そういえば今日の帽子、ジャイアンツですね」って。サンフランシスコ・ジャイアンツのキャップを被って来てたの。無意識のうちに。言われるまで全然自覚なかった。
アルゴリズムって一種の洗脳だ。だから怖いよね。そう思うと、私が野球好きなのも、本当に好きかどうか疑わしくなる。「スポーツは何が好きですか?」「野球です」って、そう思い込まされてるだけじゃないのか、って。
私がそう言うと担当編集さんが、「それ言い始めたらキリがない。みんな自分探しの旅を再開しなきゃいけなくなる」と言ってなだめてくれた。アルゴリズムを疑い始めたときに観るべき映画が『マトリックス1』ですよ、とも。私は収録前日に映画館で観た北野武監督の最新作『首』がまだ頭に残っていて、「戦国時代はあれが普通だったんだろうなあ~。今の感覚で変に美化されて間違った感覚で信じられている事柄が、世の中にはたくさんあるんだよ」という話をして、久しぶりに本物の映画だからぜひ観たらいい、とお勧めして終わったけど。
アルゴリズムと二極化。そして働き方改革の一帰結としての、人材の全体レベルの低下。何が原因かなんてわからない。全部が全部の原因であり結果であるかもしれない。――けど、これだけは、新年の人材育成に関し言えると思う。
「大人が真剣に生きないと若者は育たない」。――この教訓で今年は〆たいと思います。また来年お会いしましょう。皆さま良いお年を!
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vol.86 イチローさんの本気に触発されて、これからの時代の人材育成を考えた
(2023.12.20)
著者プロフィール
佐藤 勝人 Katsuhito Sato
サトーカメラ代表取締役副社長/日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント/想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント/作新学院大学客員教授/宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師/商業経営者育成「勝人塾」塾長
経 歴
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に「地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法」(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。
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