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最終回 経営者にとって、税金とは?

 

■慰安旅行を実施したA社の話

 
 A社は従業員7人のキッチン雑貨を中心とした小売店。今年からホームページを使っての販売を始めました。最初は反応が芳しくなかったネット販売も、リスティング広告がうまくいったこともあり、どんどん売れる好循環となって、先日迎えた決算も昨対比1.5割増の利益となりました。
 従業員思いの社長は、この忙しい中がんばってくれた従業員に報いたいと、従業員の家族も交えた 「慰安旅行」 を計画しました。
 
 

■計画では…

 
 社長の計画では、長く会社を休業するわけにもいかないこともあって(でも従業員全員参加で実施したい)、旅行の期間は短くとも内容の濃い豪華な慰安旅行をしてあげたいと希望していました。3泊4日で、だいたい1人20万円ほどの予算でした。接客が重要な小売業ということもあり、質の高いサービスを受けて、それを今後の仕事に活かしてもらおうとも社長は考えていたようです。
 また、妻であれ親であれ家族を連れてくる人は、本人以外にもう1人分は会社負担にしてあげることとし、それ以上は個人負担を計画していました。総額200万円ほどになりましたが、今後の社内の結束を固めるうえでも必要経費であると、社長は考えていました。
 
 

■表向きの税金の話

 
 この計画を顧問税理士に話すと、従業員1人当たりの会社負担額が20万円×2人=40万円となるので、「給与課税」 になりますという返答でした。私が聞かれても多分同じような受け答えをするでしょう。(表向きの) 正しい税金の話としては、今回の慰安旅行は社長にどんな思いがあろうとも原則 「給与課税」 でしょう (給与課税とは、会社負担額が従業員各人の現物給与として取り扱われ、結果、源泉所得税が発生するということです)。
 ちなみに、税務署の公式文書では、
「その旅行の企画立案、主催者、旅行の目的・規模・行程、従業員の参加割合、使用者及び参加従業員の負担額及び負担割合などを総合勘案して実態に即した処理をすること」としながらも、次のいずれの要件も満たしている場合には、原則として課税しなくて差し支えないとしています。
 
1.その旅行に要する期間が4泊5日(目的地が海外の場合には、目的地における滞在日数による)以内のものであること
2.その旅行に参加する従業員等の数は全従業員等(工場、支店等で行う場合には、その工場、支店等の従業員等)の50パーセント以上であること
 
※国税庁「法令解釈通達」より、「所得税基本通達36-30(課税しない経済的利益・・・使用者が負担するレクリエーションの費用)の運用について」
 
 金額について明文化されたものはなく、今までの判例から、一般的には 「1人当たり10万円程度」 の会社負担は給与課税されないとされています。
 
 

■経営者にとって、税金とは?

 
 この慰安旅行の話は、ある会合で知り合った社長から聞いたものです。
 一番良いのは、税務上OKであって、なおかつ皆で楽しく慰安旅行に行けることでしょう。
しかし、税務上の話をすると、慰安旅行については、「4泊5日以内であり」、「従業員の50%以上が参加し、」「会社負担金額については、おおむね1人10万円程度」 が無難ということになってしまいます。
 でも、本当に大事なのは、その200万円という大金にかけた社長の思いが実現することではないでしょうか。たとえ 「給与課税」 されようが、一部が役員賞与として損金不算入と言われようが、そういったことを理解したうえで、経営者としては、「税金に振り回されない判断」 が求められるのではないでしょうか。というのも、税制は毎年変わりますし、そもそも今の税法が、経営においても 「正しい」 という保証はないのですから。
 もちろん、かといって 「脱税すべし」 ということではありません。私がこの連載の最後にお伝えしたいのは、経営者にとっての税金を考えると、まずは真面目に向き合うことが重要だが、それだけではなく、時には 「税金に振り回されない経営判断」 が大切であると知っておいてほしいということです。
 
 そのためにも、どのようなときに・どのような税務リスクがあるのか。今回のケースであれば、給与課税されるとして具体的にどれくらい税金が発生するのかなどを、事前に顧問税理士等に相談しておくべきでしょう。
 
 
1年半にわたって読んでいただき、ありがとうございました。この連載が経営者の皆様のお役に立つことができれば幸いです。
 
〈了〉
 
 
 

 執筆者プロフィール 

今村仁 Imamura Hitoshi

マネーコンシェルジュ税理士法人 代表社員

 経 歴 

京都府京都市出身。立命館大学経営学部企業会計コース卒 会計事務所を2社経験後、ソニー株式会社に勤務。その後2003年今村仁税理士事務所開業、2007年マネーコンシェルジュ税理士法人に改組、代表社員に就任。税理士・宅地建物取引主任者・CFP等ベンチャー・起業家・中小企業の参謀役税理士(SZ)として、会社設立から株式公開支援まで幅広くサポート。大阪・京都・神戸・滋賀・奈良・東京・横浜を中心に活動。マネーコンシェルジュ税理士法人(旧今村仁税理士事務所)

 オフィシャルホームページ 

http://www.money-c.com/

 
 
 
 

 

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