ANA国際線のチーフパーサーとしてVIP用特別機を担当し、天皇皇后両陛下や各国の元首クラスを接遇してきた里岡美津奈氏。「パーソナルクオリティ」 を磨くことで日常の、あるいはビジネスのパフォーマンスを向上させるプロフェッショナルです。里岡氏がB-plus読者に送るワンランク上のコミュニケーションメソッド。3回目は、自分の 「スタイル」 を持つことについて、まずは 「外見」 から考えます。
「外見」は自分と周りの心も動かす
他人から見たあなたの 「クオリティ」 は、あなたの 「外見」 に大きく左右されます。前回も触れたように、ここでいう 「クオリティ」 とは、その人らしさ、あるいは魅力と言い替えてもいい固有の価値のことです。
まず、私の実感からお話ししましょう。仕事柄、毎日たくさんの人とお会いしますが、自分の見た目がイマイチ決まっていないと思う日は、コミュニケーションにおいても本調子になれないことが多いです。集中しているつもりでも、着ている服、メイクの出来栄え、肌や髪のコンディションに不満があると、相手としっかり向き合えない頼りなさを自分に感じます。逆に、気に入ったものを身にまとって、鏡の前で自分にOKが出せる日は、仕事でもいい結果が生まれるものです。
多分ここまでは、多くの女性や男性の方にも理解していただけるはず。しかし、それはあくまでも、自分の気持ちに影響が出るという話であって、他人の自分への評価を 「左右する」 とまでは言えないのではないか──と、思われるかもしれません。
けれど、誰かが誰かの 「クオリティ」 を、その 「外見」 によって見積もるというのは、それほど突飛なことではないのです。私は、皆さんにもきっと覚えのある、ごく普通の感覚だと思っています。
たとえば、あなたが古い友人と久しぶりに再会したとしたら、どんなことに最も心を動かされるでしょうか? おそらく、交わした言葉と同等かそれ以上に、相手の姿かたち、服装や髪形といった 「外見」 から強い印象を受けるのではないかと想像します。そして、その印象は後々まで消えることがないのです。
(あの人もしばらく見ないうちに、とても立派になったわ・・・)
こんな評価も、実は 「外見」 で判断している部分が大きかったりします。目の肥えた大人は、「外見」 に表れるその人の 「クオリティ」 を、長年培った 「経験則」 で見抜いてしまう。「人は見かけによらぬもの」 ではありますが、コミュニケーションの場においては、見かけを軽視できないのもまた事実なのです。
服は相手への意識を伝えるメディア
服装など見た目に気を遣うことは、自分の好みに従う他に、自分が接する人や社会への意識を表現することも含んでいます。さっきの旧友との再会の例もそうですが、「外見」から伝わるのは、単に服選びのセンスだけではありません。相手は、あなたがどう思われたがっているのか、その場をどう演出したいのかという意図までも、「外見」の中に探そうとするでしょう。
(普段よりはドレスアップしているようだけど、気負いがなくて親しみやすい。私との再会を楽しみにしていてくれたんだなぁ・・・)
言葉にしなくても、その姿が雄弁に物語ってくれます。このようにプライベートで特定の誰かに会う場合と、会社のオフィスや接客の現場などでは、身だしなみを使い分ける工夫も必要です。しかし、大事なのは、他人がどう受け止めるかという部分にまで踏み込んで、自分の「外見」を作り上げること。この点はどんな場面であっても同じです。
身だしなみに関する全般的なアドバイスは別の機会に譲るとして、ここでは服のサイズについてだけ触れておきます。色・柄・デザインは吟味して選んだようなのに、サイズの合っていない服を着ている人が珍しくありません。サイズを合わせるのが重要なのは、見栄えがいいのはもちろん、自分の体形を理解していることが周囲にわかるからです。ダブダブ、あるいはパツンパツンの状態で、しかも全身を有名ブランドで固めていたりすれば、「服に着られている」状態に見えるのは避けられないでしょう。要は、服自体が立派であることより、自分に似合っているかどうか、なのです。
磨いた「スタイル」は受け継がれる
私が社会に出てから24年間働いたCAの職場は、「外見」 を律するという点でとりわけ厳しかったのですが、身だしなみを整えることの本当の価値に気付いたのは、30代半ばになってからでした。その頃ある後輩CAが、「里岡さんと一緒の時は特に指示されなくても、よい接遇ができていると思います」 と言ってくれたのです。
私が10数年かけて身に着けたCAとしての振るまいや 「外見」 への配慮は、自分でも気付かないうちに一つの 「スタイル」 になっていました。それを手本とした後輩の仕事ぶりにお客様が満足していただけたのだとしたら、私の努力は自分を離れたところで報われたことになります。私がCAを辞めた今でも、私の 「スタイル」 は後輩たちの中に受け継がれているかもしれない。だとすると、言葉に置き換えられない 「外見」 が人に与える影響は、思いのほか大きいと言えるのではないでしょうか。
「外見」 や生き方にその人なりの 「スタイル」 が備わるには何が必要で、それが 「クオリティ」 とどう結びつくのかについては、稿を改めて考えます。次回のテーマは、自分の 「スタイル」 を磨くためのレッスン。キーワードは 「セッション」 です。
"クオリティ"から始めよう ~元トップCAの信頼をつかむコミュニケーションメソッド~
vol.3 見られ方に責任を持とう
執筆者プロフィール
里岡美津奈 Mitsuna Satooka
人財育成コンサルタント
経 歴
1965年生まれ。愛知県岡崎市出身。1986年に全日本空輸(ANA)に客室乗務員として入社。以来24年間、国内線および国際線に乗務し、うち15年は国賓クラスの特別機を担当。その接遇技術と実績が評価され、「ANAで最も優れたキャビンアテンダント」と呼ばれるように。2010年の退職後はパーソナルクオリティコンサルタントとして活躍。国内外のVIPを多数接遇した経験からくる独自のコミュニケーション論や能力開発メソッドが注目されている。
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