ANA国際線のチーフパーサーとしてVIP用特別機を担当し、天皇皇后両陛下や各国の元首クラスを接遇してきた里岡美津奈氏。「パーソナルクオリティ」 を磨くことで日常の、あるいはビジネスのパフォーマンスを向上させるプロフェッショナルです。里岡氏がB-plus読者に送るワンランク上のコミュニケーションメソッド。2回目は、「自律」 と 「クオリティ」 がテーマです。
伝える「思い」はあなた自身を表す
人と人とが互いに 「思いを伝える」 こと、すなわちコミュニケーションを支えるのは、一人ひとりの個性的な 「内面」 です。たとえばあなたに、あるテーマについて自分の立場を表明できるだけの 「内面」 が備わっているかどうか。言い替えれば、大人として 「自律」 している存在かどうかが問われています。
想像してみてください。今あなたは誰かとテーブルを挟んで会話を始めたばかり。ところが、もし相手から 「これについてどう思いますか?」 と問われて、あなたが何も答えられないとしたら? 耳に届く言葉に自分の意見や感想が何一つ思い浮かばない 「からっぽ」 の状態で、果たしてコミュニケーションの糸口は見つかるでしょうか?
「思いを伝える」 ことは、あなたの中に伝えたい 「思い」 がなければ始まりません。といっても、「思い」 は 「あなたの中」 から自然に湧き出るというより、相手の思考や言葉遣いに触発されて生まれることが多いでしょう。けれど、そうしてあなたが投げ返す 「思い」 には、あなた自身の物の捉え方や信念が溶け込んでいるはず。少なくとも、相手はそう受け止めるに違いありません。
にもかかわらず、あなたが 「よくわかりません」 とか 「好きでも嫌いでもないです」 とか、あなたの 「思い」 が感じられない応答を繰り返したら、相手はどう思うでしょう。
(この人、こっちがいくら喋っても手応えないな。私に無関心なのか、それとも自分の考えというものがないのか。つまらないなぁ・・・)
にこやかな表情と裏腹に、こんな評価をされているかもしれません。
「自律」は「クオリティ」に通ずる
「内面」 という言い方があいまいでわかりにくいなら、「価値観」 でも 「好き嫌いの基準」 でもいいし、もっと簡単に 「自分ルール」 だって構いません。要は、人生における森羅万象に対して自分なりの意見や行動を決める時の、あなただけの拠りどころ。これに従って生きることが、すなわち 「自律」 です。
「自律」 している人には、その人に固有の 「クオリティ」 があります。一般に品質とか属性とかを意味する言葉ですが、ここでは、その人らしさ、もっと端的に 「魅力」 と言い替えてもいいでしょう。たとえば、あなたが 「また一緒に仕事をしたい」 と思う人は、単に仕事の成績がよいだけの人ですか? 表面的な結果には表れないような、その人ならではの 「クオリティ」 が、あなたを引きつけるのではないでしょうか。大事なのは、「クオリティ」 を測るのは他人だということ。そう、あなたもまた、コミュニケーションの相手から常に 「評価」 されているのです。
先ずは、あなた自身の 「クオリティ」 を意識することから始めましょう。現状がどうであれ、一段上を目指すことに価値があります。
とはいえ、いっぽうで 「自律」 の必要性を強調しておきながら、あなたの 「クオリティ」 を判断する他人の目も気にしなさいというのは矛盾した考えに映るかもしれません。しかし、先ほども触れたように、あなたの 「思い」 は、コミュニケーションの相手に触発されて大きくふくらみます。同じことは、「自律」 の拠りどころとなる 「自分ルール」 にも当てはまる。あなたが何を好きだと感じ、何が正しいと思うかは、たくさんの人とコミュニケーションを重ねないと十分に確かめられないのです。
直感の裏にある「経験則」を信じる
「クオリティ」 とはどんなものかを理解するために、「評価」 する側とされる側を入れ替えて考えてみましょう。普段から 「自律」 を心がけているあなたにとって、コミュニケーションの相手である誰かの 「クオリティ」 を測るのは、実はそれほど難しいことではありません。
決め手の一つは 「第一印象」。会って挨拶を交わし、二言三言のコミュニケーションを共有するまでのほんの数分間にも、あなたは相手の人についてたくさんのことを思っているはずです。(話しやすい。楽しい時間になりそう) とか、(どこがどうというわけではないけど、なんとなく苦手だな・・・) とか。それは直感のようなもので、自分でもなぜそう思うのか、うまく説明できないことも多いでしょう。
でも、私は 「第一印象」 をかなり信用していいと思っています。直感で相手を判断しては失礼だからと、捨ててしまうのはもったいない。なぜなら、「第一印象」 には、これまでの人生で蓄積してきた数々のコミュニケーションのデータが反映しているはずだから。むしろ、そうした直感の裏にある 「経験則」 を無視して、その場の都合で相手のペースに合わせてしまうことが、人間関係の失敗を招く。──それが、私の 「経験則」 に照らした答えです。
このように、人に備わる 「クオリティ」 は、コミュニケーションの場で厳しく評価されます。まるで、お店に並んだ商品が、目の肥えた消費者によって選別されるように。あまりにドライな見方かもしれませんが、私はごく日常的なコミュニケーションにも当てはまる真実だと思います。「クオリティ」 は他人が決めるもの。とはいえ、「自律」 によって人や社会に対する 「経験則」 を磨き、それを 「自分ルール」 として自分自身にも適用する。そんな地道な努力が、あなたの 「クオリティ」 をきっと高めることでしょう。
あなたには、自分を一個の 「商品」 と見なす覚悟がありますか?
"クオリティ"から始めよう ~元トップCAの信頼をつかむコミュニケーションメソッド~
vol.2 自分を商品と位置づけよう
執筆者プロフィール
里岡美津奈 Mitsuna Satooka
人財育成コンサルタント
経 歴
1965年生まれ。愛知県岡崎市出身。1986年に全日本空輸(ANA)に客室乗務員として入社。以来24年間、国内線および国際線に乗務し、うち15年は国賓クラスの特別機を担当。その接遇技術と実績が評価され、「ANAで最も優れたキャビンアテンダント」と呼ばれるように。2010年の退職後はパーソナルクオリティコンサルタントとして活躍。国内外のVIPを多数接遇した経験からくる独自のコミュニケーション論や能力開発メソッドが注目されている。
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