ANA国際線のチーフパーサーとしてVIP用特別機を担当し、天皇皇后両陛下や各国の元首クラスを接遇してきた里岡美津奈氏。「パーソナルクオリティ」 を磨くことで日常の、あるいはビジネスのパフォーマンスを向上させるプロフェッショナルです。そんな里岡氏がB-plus読者に送るワンランク上のコミュニケーションメソッド。1回目は、「情熱を言葉に乗せる」 がテーマです。
好意をはっきり伝えよう
著者近影
皆さんこんにちは。パーソナルクオリティーコンサルタントの里岡美津奈です。コミュニケーションが大事だという話は巷にあふれていますが、皆さんどれだけ実践できていますか? 私は日本の現状を見るにつけ、ちゃんとコミュニケーションがとれている人はごく僅かしかいない、という感想を持ちます。
一番シンプルな、1人対1人の関係を考えてみましょう。あなたは相手に好きな気持ちを伝えていますか? 特に男性。判断できない? 本当でしょうか。相手をどう思うかは、会ったその場でほとんど決まっているものではないでしょうか。
大人がビジネスの場面に臨んで 「あなたが好きです」 とは直言しにくいとしても、コミュニケーションの本質が 「思いを伝える」 ことなのは確か。ポイントは、その言葉に 「熱」 が感じられるかどうかです。対面して話す時はもちろん、メールでだって熱は伝わります。メールに書く文章のハウツーも盛んに書籍などが発行されていますが、読む側は形式やレトリックなどあまり気にしません。ただ一言、「あなたにすごく興味があります」 だけでもいい。そうやって自分への熱意を感じる相手なら、会ってみても好印象である場合がほとんどです。それくらい、気持ちをハッキリ言葉で伝えることは力があるのです。
笑顔とタイミングが相手の心を開く
コミュニケーションには 「初対面」 という局面が付きものです。誰かと会った瞬間、2人の間には 「氷の壁」 が出現します。知らない相手を前にして、距離を感じるのは仕方がないでしょう。でもどうにかして、この人とコミュニケーションの回路を開きたい。そんな時、冷たい壁を一気に溶かすのは、やはり 「笑顔」 しかありません。日本人は笑顔で人と接することにまだまだ消極的ですが、にっこりと笑顔を向けられるとそれだけで 「よさそうな人だな」 と直感が働いて、緊張も和らぎます。だから、こちらからも自然なスマイルで、交流への前向きな期待を表しましょう。
また、コミュニケーションを1回切りにしないで、次につなげるのも大事なことです。せっかくの出会いを放置して疎遠になってしまうのはもったいない。いつかまた会いたい人との関係を継続するために、注意したいのはアプローチの 「タイミング」 です。
私はよく 「3のタイミング」 という話をします。これは3日、3週間、3ヶ月のこと。まず会った日から3日以内にアクションを起こす。美容室の顧客のようにある程度のスパンを置いて来店してほしい相手なら、3週間以内に。連絡が途切れがちでご無沙汰している人にも、せめて3ヶ月に一度は声をかける──。忙しい大人どうし、しつこいのも迷惑になりますが、タイミングのいいアプローチは息の長いコミュニケーションにきっと役立ちます。
「思いを伝える」 というコミュニケーションの本質はどんなシチュエーションにも共通していますが、ビジネスやスポーツのように効率が求められる舞台では、チームを円滑に動かすための工夫も必要です。
たとえば、私がかつて経験したCAの世界では、コミュニケーションとしての笑顔にも、親しみの表現以上の意味合いが加わってきます。それを一言で表すなら、「(私ではなく)お客様にもっと注目して」 ということになるでしょうか。
私はCAの中でリーダーを長く務めていたので、ともすれば、特にキャリアの浅いCAはお客様よりもこちらのことを気にすることもあります。当然、機内の主役はお客様ですから、それではいけません。だから私は、「今日の里岡さんの機嫌はどうかな?」 などと余計な関心が向かないよう、現場ではいつも変わらない笑顔で接することを徹底していました。そうすることで私の存在を 「無」 に近づけて、CAがお客様にしっかりと対応できる環境を作っていたわけです。
コミュニケーションで今を生きよう
冒頭で、あなたは相手のことが好きか嫌いかをちゃんと伝えていますか、と問いかけました。この問いに込めたかった根底のメッセージは、「あまり時間はないですよ」 ということです。私は41歳でがんを患い、手術を経て元気になりました。CAとして働いた24年間はいつもコミュニケーションの戦場にいたようなものでしたが、病気と向き合い、命は永遠じゃないと改めて気付かされたことで、ものの考え方が大きく変わったと思います。
誰かとコミュニケートするせっかくの機会を、あいまいな形でやり過ごしたくない、正直な気持ちをダイレクトに伝えたいと強く思うようになった。よく、日本的なビジネス習慣を表す例として 「社に持ち帰って検討させていただきます」 という台詞が引き合いに出されますが、グローバルの常識に合致する・しないとは別の次元で、私にはこんな態度が受け入れられません。いろいろな気遣いはあるにせよ、イエスかノーか、頭の中の結論をその場ではっきりと伝えてほしいのです。
全快してから突然バイクに乗り始めたのも、やりたいことを先延ばしにできない、「時間がない」 と思うから。その認識は焦りではなく、自分が 「今」 するべきことを判断するための行動原理にほかなりません。コミュニケーションだってそう。他人と考えや感情をやり取りするライブな時間は、「今」 を逃したらもう戻ってはこない。だから自分はこう思うと正直に伝えたいし、相手から学ぶことにも貪慾になれるのです。──皆さんはどう思いますか?
"クオリティ"から始めよう ~元トップCAの信頼をつかむコミュニケーションメソッド~
vol.1 「コミュニケーション」を取り戻そう
執筆者プロフィール
里岡美津奈 Mitsuna Satooka
人財育成コンサルタント
経 歴
1965年生まれ。愛知県岡崎市出身。1986年に全日本空輸(ANA)に客室乗務員として入社。以来24年間、国内線および国際線に乗務し、うち15年は国賓クラスの特別機を担当。その接遇技術と実績が評価され、「ANAで最も優れたキャビンアテンダント」と呼ばれるように。2010年の退職後はパーソナルクオリティコンサルタントとして活躍。国内外のVIPを多数接遇した経験からくる独自のコミュニケーション論や能力開発メソッドが注目されている。
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