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映画は喧嘩や。ビジネスもそうやないんかい ―― 映画監督・井筒和幸が私的映画論にからめて、毎回一つのキーワードを投げかける。第20回はアメリカン女子プロレスの世界を描いた 『カリフォルニア・ドールズ』(1982年・アメリカ) から、職務を “全うする”
 
 
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『カリフォルニア・ドールズ』 1982年・アメリカ
All the Marbles (c) 1981Warner Bros.
Pictures International.All Rights Reserved
 
 アメリカン女子プロレスの映画があるなんて、誰も知らなかったんじゃないのかな。後にも先にも、こんなキワモノのショービジネス世界をクソ真面目に真正面から描いたのは、恐らくこの一本しかないはずだ。でも、アメリカのプロレス文化は庶民に根付いた娯楽の必需品だから、こんな映画もあって当然だった。
 女どうしでタッグを組んで、中西部の田舎の町から町を、巡業して回っていた(いや、今でもやっているかも?) この手の “ドサ回り” は、テント小屋のサーカスや金網の球の中をぐるぐる走り回るオートバイショーと並ぶ、地方興行の基本で、田舎町の人々はそれを待ち望んでいる。いまだに、移動式の遊園地文化まであるのがアメリカ。ボール投げ屋やメリーゴーラウンドや観覧車も混じった施設が旅回りするのだから、アメリカは広い。今日まではペンシルバニア州のどこ、明日からはウエストバージニアのあの町、夏にはインディアナ州、と渡り鳥のようにして、エンターテイメントを届ける、そんな生業だ。
 
 田舎の興行主が設営したリングで、女子たちが怒声を張り上げて、ピチピチのタイツからはみ出した肉体をブルンブルンと振るわせて、飛び蹴りだブレーンバスターだと。歓声と嬌声に応えるために文字通り、体を張って生きる女子たちを主人公にして、アメリカの風土を描いてみせたその監督は反骨の鬼才、故ロバート・アルドリッチだ。『飛べ!フェニックス』や『特攻大作戦』から、以前にも紹介した名作『ロンゲストヤード』や『北国の帝王』、最高傑作『合衆国最後の日』など、大衆映画のこの巨匠にかかると、途端、女子プロレスも光り輝き始める。
 
 その日も、オハイオ州のリング場ではタッグチームが激しい応戦をくり広げている。男子のプロレスでさえそうだから、なおさら、女子プロには目を奪われる。男どもは浅はかだ。タイツの女子が大股を拡げてボディスラムを喰らい、肢体がマットを跳ねるともうそれだけで釘づけだ。(これを映画にした発想がハリウッドらしい)、そして、勝利を納めるのが“カリフォルニア・ドールズ”チームだ。ブルーネット髪のお嬢は気が強い(当たり前か)アイリス、金髪のモリー嬢はお転婆のカントリーガールで、二人とも抜群のプロポーションをしたドサ回りレスラーだ。彼女らの相談相手で、喧嘩相手のマネージャー役は、故ピーター・フォーク(刑事コロンボ)が演じた。お嬢たちを一流のコンビに育てて全米中に名を馳せるため、三人は車一台で旅を続ける。
 次に立ち寄った田舎町で、ドールズは、日本人の女子ヒールチームを相手にする。(80年当時の現役だったミミ萩原とジャンボ堀がそのまま出演。彼女たちがこんなハリウッド製に出たこと自体、快挙だったが)、苦戦の末、ドールズはかろうじて勝つ。マネージャーも頑張っていた。日本チームが使った(ミミの得意技だった)必殺回転逆海老固めをドールズも習得するように進言する。そして、試合を仕切ったプロモーターのところにギャラを取りに行くのだが、宣伝経費やら入場税に金を使ってしまったと言い訳されて、約束のギャラを渡してもらえない。マネージャーが、車に積んでいるバットで、プロモーターの車をたたき壊して、町を去るところが可笑しかったが、流れ者らしさも哀れだった。
 その次の相手は、実力と人気を誇る黒人のタッグチーム、タイガーズだった。田舎の観客は白人と黒人の見せ物に一番、歓喜する。悪戦苦闘だ。ドールズはその日暮らしの稼ぎのために、何でもやらされる。マネージャーは泥レスリングの仕事まで取ってくる。お嬢たちはプライドをかなぐり捨てて挑むしかない。オッパイがむき出しになって放り出ても文句は言えない、ストリップまがいの見世物だ。観客はその屈辱に、また歓喜の声を上げる。ドールズは泣きながら頑張る。泣き崩れて八つ当たりする。因果な稼業に身を染めたものだ。だから逃げられない。逃げたくない。それは生きるためだ、栄光を勝ち取るためだ。
 
 実力もついてきたドールズは、チャンピオンの座を賭けてもう一度、タイガーズに対戦する。このラストの試合は、リアルタイムに映し出される。映画史上、珍しく延々と時が途切れなく続き、魅せられてしまう。映画の観客だったことも忘れてしまうくらい、リングサイドの特別席で、この人生を賭けた試合の決着がつくまで付き合わされる。そして、ドールズは遂に、あの回転逆海老固めで逆転勝利して、栄光を手に入れる。
 
 
 こんなに発奮して、拍手までしてしまって、感謝状を贈りたくなるような、プロレス興行映画は他にない。彼女らも、そして職人アルドリッチ監督も、見事、自らの職務を“全う”したのだ。(この映画も現在、日本の地方をドサ回りよろしく上映中らしく。追いかけて見に行ってあげて下さい。)
 
 
 

 執筆者プロフィール  

井筒和幸 (Kazuyuki Izutsu)

映画監督

 経 歴  

1952年、奈良県生まれ。高校在学中から映画制作を始め、1975年、高校時代の仲間とピンク映画で監督デビュー。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞。以降、『晴れ、ときどき殺人』(84年)、『二代目はクリスチャン』(85年)、『犬死にせしもの』(86年)『岸和田少年愚連隊』(96年)など、社会派エンターテインメント作品を発表。『パッチギ!』(04年)では05年度ブルーリボン最優秀作品賞をはじめ、多数の映画賞を総なめに。舌鋒鋭い「井筒とマツコ 禁断のラジオ」(文化放送)など、コメンテーターとしても活躍。『黄金を抱いて翔べ』のDVDが絶賛レンタル中。

 
 
 
 
 

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