B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

東京都渋谷区JR山手線渋谷駅・恵比寿駅から徒歩12分 の場所に佇む、大きなクジラの絵がトレードマークの改良湯。1916年に創業して以来、100年以上の歴史を持つ銭湯です。2018年12月、銭湯建築士の今井健太郎氏設計でフルリニューアルオープンを果たし、さらに今年2月には男湯にロウリュサウナ・外気スペースが新設されました。看板の通り“改良”されてゆく改良湯を経営するのは、4代目ご夫婦の大和慶子氏、伸晃氏のお二人。インタビューではこれまでの経緯を辿りながら、若者の街、渋谷・恵比寿ならではの“遊び場”としての一面を見せる、新たな銭湯の可能性に迫ることができました。
 
 

2018年「渋谷CROSSING」をコンセプトにフルリニューアル

 
鯨の壁画が目を引く改良湯の外観
鯨の壁画が目を引く改良湯の外観
――改良湯は大和慶子さん、伸晃さんのご夫婦で4代目として営まれているんですよね。もともと慶子さんのご実家が改良湯だったのだとか?
 
(慶)そうですね。でも最初は受け継ぐ予定はなかったんです(笑)。もともと夫が恵比寿の飲食店で働いていて、私も大学生の時にそのお店でアルバイトをしていました。結婚後も、改良湯を受け継ぐつもりはなかったんですよ。
 
――そうなんですか!
 
(慶)ただ、ある時に3代目の父が銭湯の信用組合の理事長になることが決まり、改良湯の運用ができない状況になりまして。私には姉と妹がいたものの、ちょうどタイミングよく引き継げるのが私しかいなかったんです。
 
(伸)老舗の銭湯でしたし、当時はあまり深く考えず「じゃあやります」と(笑)、2008年に二人で受け継ぐことを決めました。
 
(慶)もちろん経営については素人だったので、ノウハウを一から教わりました。当初は試行錯誤しながら日々をこなすことで精一杯で・・・。最初の10年くらいは本当にあっという間でしたね。やがて設備の老朽化の問題もあり、改装しようということになりまして。2018年に銭湯建築士として知られる今井健太郎氏設計でフルリニューアルした形です。
 
 

さまざまな文化が交差する“遊び場”のような場所に

 
――今井さんに設計を依頼したきっかけはあったんですか?
 
落ち着いた照明の過ごしやすい浴室
落ち着いた照明の過ごしやすい浴室
(伸)デザインが素敵なだけでなく、こちらの要望も柔軟に取り入れてくれる方なので、ぜひお願いしたいと思いました。改良湯の前身は、“よくある昭和の銭湯”の姿だったので、せっかく改装するなら自分たちにとっても好きな空間に変えたいと、改装の際は「渋谷CROSSING(渋谷スクランブル交差点)」というコンセプトを掲げまして。現代のアート・ミュージックなど、さまざまな文化が交差するような、“遊び場“のようにすることを突き詰めていきました。渋谷という土地柄なので、若い方がもっと入りやすいような雰囲気づくりにもこだわり、脱衣場のロッカーは可動式にして、イベントスペースをつくれる仕組みにしたんです。
 
(慶)また、お客様から「入浴中に洗い場の人と目が合うのが気になる」という意見を参考に洗い場に壁を設けたり、タイルや天井の色もあえてシックな色合いでトーンを落として、さらに照明の明るさも抑えたりと、デザイン性だけでなく落ち着いて過ごせるように工夫した部分も多いです。浴室には現代芸術アーティストのGravityfree(グラビティ・フリー)のお二人に依頼し、渋谷の昔と現代の姿をミックスしたイメージの絵を描いていただきました。
 
――改良湯さんのシンボルとも言える外壁に描かれた大きなクジラの絵も、色彩豊かで楽しい雰囲気があふれていますよね。
 
(伸)お子様によろこんでいただくことも多いんです(笑)。鯨の絵は公募で絵師の方を募り、壁画師のemi tanaji(エミタナジ)さんに描いていただきました。日本では昔から漁で鯨が上がると、食料に困ることなくその村の暮らしが潤うことから、「恵比寿様は鯨の化身」と考えられていまして。その頃、鯨のオリジナルメニューを提供するフードフェスタを催す恵比寿鯨祭実行委員会の方とコラボのお話があった最中に、偶然鯨の絵を出していただき、強いご縁を感じてお願いしたんです。
 
――従来のイメージが一新される壮大なリニューアルだったんですね。
 
 

井戸水をやめ、軟水器を導入!

 
――他に大幅に変えられた部分はありますか?
 
お湯には美肌効果の高い軟水を贅沢に使用
お湯には美肌効果の高い軟水を贅沢に使用
(慶)改装前に利用していた井戸水を廃止し、軟水器を導入した点ですね。炭酸泉も新たに設置しました。軟水はトロッとしていて肌なじみも良く、美肌・美髪効果も高いので、翌日には効果を実感していただけると思います。お風呂ではもちろん、洗い場のシャワーでも軟水が出るので、贅沢に浴びていただくことができます。軟水の良さを知らない方にはぜひ実感してほしいです。
 
――水質にも強くこだわっているのも人気の秘訣なんですね! 今年の2月には、男湯サウナのリニューアルと外気浴場も新たに設けられたとか。
 
(伸)おかげさまで来客数も増え、もとのサウナ室のキャパの倍近くの方に楽しんでいただけるように、最大14~15人が入れるように広くしました。また、温度は抑えつつ湿度を高めるロッキー式サウナにしたことで、芯からじっくり暖まれるのが特徴です。照明は薄暗くして、ヒーリング音楽を流しているので、デジタルデトックスとして瞑想しに来られる方も多いです。また、もとは倉庫だった場所を利用して外気浴場も設け、こちらの席数も多めに設置しました。この工事も、同じく今井さんに手がけていただいたんです。
 
――改良湯というお名前どおり、まさにどんどんと改良をしている印象です。
 
(慶)風呂屋は昔、蒸し風呂式が主流で湯気が逃げないよう窮屈なつくりの様式が多かったそうです。でも創業時の大正には、洗い場を広く、開放的な様式に変化していったことから、「改良風呂」と呼ばれるようになり、それに由来して多くの銭湯が「改良湯」と名付けられたそうなんです。そういった歴史深い背景のある名前だからこそ、看板に背中を押されている部分も大きいかもしれません。
瞑想をする人も多いというサウナ室内
瞑想をする人も多いというサウナ室内
男湯の外気浴スペースは席数も豊富!
男湯の外気浴スペースは席数も豊富!
 
 

遊びの延長のように楽しんで働く

 
宇宙に鯨が浮遊するデザインの暖簾
宇宙に鯨が浮遊するデザインの暖簾
――お話をうかがっていて、お二人のチームワークの良さがうかがえます。普段はどのような役割分担をされているのでしょうか。
 
(伸)妻は基本的にSNSや、事務的な細かい作業を担当していますね。心配性な性格の妻に対して、私はポジティブに「何でもやってみよう!」と挑戦するタイプでして(笑)。それが案外良いバランスなのかもしれません。
 
(慶)あとは働いてくれている従業員は若い子が多く、現在20名ほど雇っていまして。いろいろな提案をしてくれるので、積極的に案を取り入れています。皆が自主的にグッズの商品のポップを作成してくれたり、汗水垂らしながらアウフグースを率先して行ってくれたりと、遊びの延長のように楽しんで働いてくれていて、私たちもその楽しい雰囲気に乗っかっている感じなんです。本人たちが楽しくなければ、それはお客様にも伝わりませんし、楽しさが伝染してお客様の喜んでいる顔を見ると、結果的にこちらのやりがいにもつながるんです。
 
――ぜひ今後の目標も教えてください。
 
(伸)これまでにも「落語とセントー」という銭湯寄席や、「テレビドラマ『サ道2021』のエンディングテーマを担当したTempalay(テンパレイ)さんとのコラボイベントを開催し、大好評いただきました。ですから、コロナが落ち着いた後も、さまざまなイベントを柔軟に開催していきたいですね。そして、改良湯が今の若者が大人になっても飽きずに来てくれる場所になれたら嬉しいです。
 
(慶)この先も改良湯が皆さんに愛される“遊び場”として続いていければと思います。私たちには娘と息子もいるので、いつか5代目になってくれるのかも気になるところです(笑)。もちろん強制はしないので、いい方向に行ってくれたら嬉しいですね。
 
――渋谷の“遊び場”として、銭湯の新たな可能性を拡大している改良湯さん。2018年の大胆なリニューアルを皮切りに、これからも末永く多くの方に支持される、街の“遊び場”としての役割を担いながら、末永く改良し続けてほしいと思いました。心から応援しています!
 
glay-s1top.jpg
4代目ご夫婦の大和慶子氏と伸晃氏
 
 
(取材:2022年3月)
 
 
改良湯
■住所 
〒150-0011 東京都渋谷区東2-19-9
■アクセス
JR山手線「渋谷」駅・「恵比寿」駅より徒歩12分
■営業時間:平日13:00〜24:00/日曜・祝日12:00〜23:00
休業日:土曜
■URL: https://kairyou-yu.com
 
復活する銭湯
vol.6 渋谷の街で文化が交差する“遊び場”な銭湯、改良湯
(2022.4.27)
 

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事