現場は実力主義
そうですね。現場は、完璧な実力主義でしたよ。例えば撮影が始まった当初、現場には3台の観光バスが用意されていまして。車内はくつろげるリビングのように改造されていました。そして、それぞれのバスに「マーティン・スコセッシ」「アンドリュー・ガーフィールド」「アダム・ドライバー」と名前が貼ってあるんです。つまり、監督であったり主演俳優であったり、重要な役割を演じる彼ら専用のバスです。それがある日現場に行くと、バスが1台増えているんですよ。名前を見てみると、「窪塚洋介」と書いてありました。
近くにいたスタッフに「監督がお前の演技を見て、用意させたんだ」と言われて驚きましたね。他にも、ホテルのラウンジが使い放題になったこともあります。とにかく、日に日に僕の待遇が良くなっていったんです。そういう、単純に実力を評価してくれる場でした。
――役づくりについて、スコセッシ監督から様々な指示があったことと思います。
実は、そういった指示は、ほとんどなかったんですよ。僕がキチジローのオーディションを受けたとき、監督に「私が想像していたキチジローではない。それ以上のキチジローだ」と言われたんです。だから、キチジローという人物像に関しては僕に委ねてくれていたんだと思います。
監督が現場でかもし出す貫禄や空気感は、まさしく“王”です。それも、懐の深い王。僕らの意見に熱心に耳を傾けてくれるし、日本という国へ多大な敬意を払ってくれていると常に感じました。そんな姿を見ると、現場がどれだけ寒くても辛くても、「この人のためなら頑張ろう」と思えるんですよ。
俳優業に感じる魅力
一度きりの人生の中で、いろんな人生を経験できることですね。しかも、それがフィルムや作品として残って、その中で生き続けていく。欲張りな僕にはピッタリな仕事だと思いますよ。僕は仕事において、「have to」で動いてることはありません。全て、「want to」という気持ちで行動しているんです。とても楽しんで仕事をしているので、最近は仕事と遊びの境目が曖昧になってきています。
自分を信じて一歩踏み出すことが大切なんです。そうすれば、必ず世界は変わります。必要なのは、自分を信じる気持ち。信じ抜いた先に、求めている世界が現れるって気付いてから、僕はずっとそう考えて生きてきました。やりたいことがあるなら、どんどん進め! という心構えです。
――今後はハリウッド中心のご活動になるのでしょうか。
『沈黙―サイレンス―』に出演したことについて、僕は「ハリウッド映画に出た!」というよりも、「マーティン・スコセッシが監督を務める映画に出た!」という感覚なんです。だから、ハリウッドに対してそれほど意識はしていません。それに、英語をスラスラ話せるわけではないですからね。日本語と同じように、自然に英語を扱えるようになってからチャレンジしたいという気持ちもあります。
――窪塚さんも、『沈黙―サイレンス―』をまだご覧になれていないと聞きました。
そうなんです、早く観たいですね。ただ、アフレコが必要になるシーンがあったので、そこは少し観ているんですよ。ほんの数シーンしか観ていないのに、滲み出ている空気感に圧倒されましたね。台本を読んだときに感じた壮大な雰囲気が、そのまま表現されていると感じました。人の心の深いところを描いた、素晴らしい作品になると思います。ただただ楽しみですね。
公開情報
「沈黙―サイレンス―」
公開 2017年1月21日(土)
配給 KADOKAWA
公式サイト http://chinmoku.jp
(取材日:2016.12.1)