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3、仕事の生きがい・やりがい・目的意識

 仕事が楽しくてしょうがない状況ってどんな状況でしょう。最近のマスコミの報道から二つとりあげてみます。
 今、日本経済新聞の「私の履歴書」欄は女優・有馬稲子氏が連載中ですが、4月13日号にこんなことが書いてありました。
 「あなたの芝居を見て、人生が変わった、と言われた時は女優をやっていてよかったと思う。」これは仕事のやりがいですね。
 
 今年のNHKの大河ドラマは、龍馬伝。この中の登場人物、勝海舟にかかわる別の記事をみて驚いたことがあります。何が若き頃の彼をしてそこまでの行動を取らせたのか?勝海舟のすごさを語る逸話を紹介しましょう。
 
 「本屋でオランダの兵書を見つけたが、五十両と手が出なかった。欲しい一念で金策に走って成功し、本屋に行ったらすでに売り切れていた。買主は某与力と聞きすぐに出かけて、譲渡を願ったが駄目。そこで借用を願い出るが、自分が読んでからだという。しかし海舟は待てず、その与力が寝ている 時間だけ貸してほしいと頼み込む。根負けした与力は、就寝中のみ貸す約束をした。海舟は6キロの道を毎晩歩いて訪れ、朝帰りを続け、半年でその兵書を書き写した。その根性に度肝を抜かれたその与力は、『そなたこそこの本の持ち主にふさわしい』と兵書を譲ってくれた。そこで謄写した方を売ると30両になった。」(『歴史街道』5月号、楠戸義昭氏)
 
 半年間、昼夜の生活を逆にして兵書の謄写をした勝海舟のその行動の原点を考えると、興味が尽きません。佐久間象山の影響を強く受けた勝麟太郎は、ゆくゆくは軍艦操練所教授方頭取になっていきますが、彼の世界観の中から日本の取るべき道筋を考えた時の当然の帰結でしょう。
 若年のころからの強い目的意識が、彼をして、片道6キロの道を半年間通わせたに違いありません。
 勉強する目的、仕事をする意義、こういったものを強烈に持っていれば、どんなに忙しくても苦にならないんでしょうね。
 
 
 最近私が、仕事をしていて感じたことがあります。公認会計士の同業で同じような経験をした仲間からこんなことを言われました。
 
「あんたが死んでもこの報告書は残るよな!」
 
 彼も私と同じようにある地方公共団体の包括外部監査責任者の仕事の経験があります。彼の言葉は、誰も手をつけなかったテーマに取り組んだあとの私の「包括外部監査報告書」を読んでの感想でした。私は、オンブズマンの通信簿でのそこそこの評価や、議会関係者等からの強い支持も耳に入ってくると、この仕事をやってよかったな、とつくづく感じます。監査補助者との徹夜の議論など思い出深き出来事も余計にそう感じさせるのかもしれません。
中小企業の経営者の苦しみもともに分かち合いながら税務経営相談にのっていますが、「先生のお陰で自殺を思いとどまりました」なんて言われると、この仕事がやめられなくなります。 まあ仕事が楽しくなるのは、やりがい、生きがい、世の中から認められている、ってことが自覚できてる時じゃないんでしょうか?
 でも忙しくしていると、時間はあっという間に過ぎ去り、気が付いたら、前期高齢者の仲間入り。残された時間も少なくなり、下り坂人生に突入していますが、年をとるっていうのもまたいいことがあるんです。 待ちに待った65歳を迎えるにあたって書いた駄文 「もういくつ寝ると」をご覧ください。
 60歳の時の私の小冊子『徒然なき人生』が本稿で「徒然泣き!人生」と変わり、その副題が「一職業会計人の“軒昂奉仕“」と何故なったのか、もともとは徒然なるがままの人生を送りたいと願いながらも、逆の人生になってしまい、泣きが入っているからなんですが、来月は “軒昂奉仕“ならぬ徒然草の「兼好法師」との関係に思いをはせてみたいと思います。
 
 
 

 プロフィール 

渡辺俊之 Toshiyuki Watanabe

公認会計士・税理士

 経 歴 

早稲田大学商学部卒業後、監査法人に勤務。昭和50年に独立開業し、渡辺公認会計士事務所を設立。昭和59年に「優和公認会計士共同事務所」を設立発起し、平成6年、理事長に就任(その後、優和会計人グループとして発展し、現在70人が所属)。平成16年には、優和公認会計士共同事務所の仲間と共に「税理士法人優和」(事業所は全国5ヶ所)を設立し、理事長に就任。会計・税務業界の指導者的存在として知られている。東証1部、2部上場会社の社外監査役や地方公共団体の包括外部監査人なども歴任し、幅広く活躍している。

 オフィシャルホームページ 

http://www.watanabe-cpa.com/

 

 

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