前回記事からの一ヶ月は書店回り
私は書店が大好きだ!
書店回りは著者としては大事な営業活動だけど、そうでなくても私は書店が大好きだ。例えば地方の支援先に行くとき、時間に余裕があれば、迷わず書店に入る。次の約束まで2時間とか3時間とか空いていたら映画を見ることもあるが、大抵は書店だ。
私の場合、店への入り方から決まっていて、まず、入口付近で全体を見渡す。どのジャンルの本がどこの棚にあるか。各ジャンルへのスペースの振り分けはどうなっているか。――ビジネス書に多くのスペースを割いていたら、その地域には仕事熱心で勉強家の人たちが多いと推測するし、漫画やエンタメの本ばっかりなら、失礼ながら、その地域の人たちは知識とか教養とかに意識が向かないのかな、と感じてしまう。
私の本はもちろんビジネス書のコーナーに並ぶが、同じビジネス書でも、置いてある本の系統によってその地域の働く人たちの属性がある程度わかる、というのが私の持論だ。
具体的には、ハウツーとか小手先のことを書いたビジネス書が多い地域は若いビジネスマンが多い。反対に、経営者の伝記とか生き様を書いた本が多ければ、比較的年配の、経営者層のビジネスマンが多い地域だと見る。今はAmazonもあるから書店の品揃えだけで判断しきれないとはいえ、大まかな傾向はやっぱりわかる。
アメリカ「バーンズ&ノーブル」での感動
書物へのリスペクトは聖書の伝統があるから
初めて店舗に入ったときは感動だった。入口ロビー中央が5階まで吹き抜けになっていて、5階はスターバックスコーヒーとの併設で、一階から四階が全部書籍フロア。一階から吹き抜けに沿ってエスカレーターが続いていて、ゴウンゴウンゴウン・・・と上っていくと、各フロアを見渡せる。売り場面積は全部で1000坪以上あったかな。そこに本がびっしりで、その眺めだけでも圧巻だけど、驚いたのは、どのお客さんもソファで悠々と読んでいたんだよ! 買う前の本を!
大人だけじゃない。床が絨毯になっているから、子どもたちは床に座り込んだり寝そべったりして、思い思いの姿勢で好きな本を読みふけっていた。立ち読みすら憚られる日本の書店の雰囲気しか知らない私には信じられない光景だった。
日本では本はどこまでも商品で、買う前に手に取って汚れが付いたらどうしてくれるんだ、というぐらいの考えだ。つまり、書店は小売業になっている。アメリカは違う。本は商品であるいっぽうで、人々が教養を身に付けて精神的なレベルを高めるためのもの、と思われている。書店の側も、単に商品を売る店というより、地域の人々の教養や文化的生活を支える拠点という意識がある。
私が思うに、これは聖書の伝統があるからじゃないかな。日本は昔から、社会階層が下の人たちは読書なんかしないと決めつけている。「下々は程度の低い娯楽に興じておけ」というのが、社会で共有されてきた考えだ。
でも、アメリカは、例えばレストランの皿洗いでも聖書は読むんだよ。タクシーの運転手も工場労働者も、家に帰ればあの分厚い聖書だけは読んでいるんだ。だから、書物とか書店というものに対しての社会全体でのリスペクトが、全然違ってくるんだね。
「文具を売ろう」と言った取次大手
「文具に逃げないでくれ」と言った私
主催側である取次大手の社員が私の前のコマで講義をしたんだが、何を教えたと思う? 「もう本は売れない、だから文具で売り上げを伸ばしましょう。文具は利益率が25%見込めます。もっと文具コーナーを広めましょう」と言ったんだよ!
そして私のコマになり、私は言ってやった。「書店が本を売らなくなったら終わりだ。文具を売るなとは言わない。だが、文具に逃げないでくれ。頼むから本屋は本を売る努力をしてくれ。その気概を持ってくれ」と。
そのための戦略も教えた。「大都市の超大型書店ならともかく、売り場面積が限られる地方の店舗が全ジャンルを総花的に売れ筋だけ置いても店の魅力が出ない。ジャンルを絞り込もう。ビジネス書の専門店とか、ミステリー小説なら全部揃う店とか。そうやって地域におけるそのジャンルの需要を全部取り込もう」と。
今は新刊が毎月ビジネス書だけでも200点は出るそうだ。こうなると店主がその全部に精通するわけにいかないし、アメリカと日本では書籍流通の形態が違うから*1、難しい部分も確かにあるだろう。でも、せめて文化産業としての志は見失わずに頑張ってほしいんだよなぁ・・・。
ちなみに今回私が回った書店さんは、どこも志を感じるお店でした。だって佐藤勝人の新刊をプッシュするぐらいだもの(笑)。他の本を選ぶセンスも推して知るべしですよ。
本質を教えようとするコーチと
現象面だけで捉えてしまう選手
選手がバントの練習をしていた。コーチはバッティングケージの後ろから指導していた。選手はその通りやろうとする。そして「できました! こうですね!」と嬉しそうにコーチを見返す。コーチは「違う! そうじゃない!」と言って、別の表現でもう一度教える。選手はその通りやろうとする。そして「なるほど! こうですね!」と振り返る。コーチはもどかしそうに「違う!」と言って、ついにケージに入ってきて実演し始めた。
私は、コーチが実際の試合の一場面を想定してバントをしていることが見てわかった。それに比べ、指導を受けている選手のバントは、球が転がる方向と勢いは確かにコーチと同じだが、それ以外何も考えていないみたいだった。「球の威力をほどよく殺してこの方向に転がす」という現象面は同じでも、本質的な違いが見えていない。本人が違いに気付いていない。スタンドから見ている私たちでさえ、選手とコーチとでは、バットを構えるタイミングやら視線の向け方やら何やらが全部違うことがわかるのに。
コーチの指導は試合で使えるバントを教えているが、選手はバッティングマシーンでバントができたと喜んでいるだけ。練習ならば合格だが、試合では使えないバントだ。
指導者がいくら優秀でも、習う側は「できている」と思っている。この自己認識と自己評価のズレが、自分の店のスタッフとの間で起きている現象であり、プロでもそうなのかと気付かされた。皆さんも、このあたりの再チェックも、年末までの課題に入れるべきかもしれませんね。
*1 編集部注――アメリカの書籍流通は書店が出版社から本を買い切る「仕入れ」なので、書店で販売価格を決められる他、汚れて状態が悪くなれば新刊でも中古市場に回せる。日本は取次を介した委託販売制で書店は価格を自由に決められない他、売れ残れば版元に返本するので、汚損するリスクがあることはできない。
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vol.61 新著発売後の書店回りで思い出した、私が“書店大好き人間”になったきっかけ
著者プロフィール
佐藤 勝人 Katsuhito Sato
サトーカメラ代表取締役副社長/日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント/想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント/作新学院大学客員教授/宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師/商業経営者育成「勝人塾」塾長
経 歴
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に「地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法」(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。
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