イノベーションは、一人の単純な「気づき」から生まれる。<5の5>
だれか一人の「勘」と気づきの直観力が企業を動かす
税理士や会計士、経営・マーケティングコンサルタント、銀行融資担当者の話は「生産性向上・コスト削減」の話が多くを占めている。なぜなら、彼らは直近の目先の利益を中心に考えてしまうからである。すべての専門家がそうだとは言わないまでも、そのように指導・誘導している場合が往々にしてある。しかも、国を挙げて短期決戦の指導をしていながら、行政が中小企業の成長・発展のための支援(いずれも長期的な取り組みが必要である)を公言するに至っては、カタチだけの政策と感じざるを得ない。私などは、この矛盾に不可解なものを感じている一人である。
こういうところに、実際面の隠れた落とし穴がある。経営者がその落とし穴に気づくか、気づかないか。それでも良いと諦めるか、どうか。興味深いところである。
こういった誤解や矛盾を知ったうえで一連の話を捉え直してみると、「トヨタ」において経営戦略の要を締めるマーケティングの手法は公表されてきたかという疑念が湧き、一切が闇の中であることに気づく。他社の利益=自社の不利益になる真髄の公開など誰もしないというのが本音のところだろう。
突如として「レクサス」が現われて市場導入される。一般人の我々が、「レクサス」をメディアから知らされたときには、すでに市場導入の九分九厘まで終わっており、既に、その時には、次の拡販段階に突入している。
ここは大きな興味が惹かれるところだ。
レクサス市場を創出しようと言い出したのは誰で、ベンツが牙城とする高級車市場に「殴り込み」をかけよう(言葉が悪い)と言い出したのは誰で、また、そこにトヨタの誰が気づき、それに対して誰がゴーサインを出したのか。そして、万一失敗したときのリスクは誰が負うことになっていたのか。
それらの仕組みはマーケティング理論をいくら勉強・研究したところで分かるものではない。
誰か一人の意志決定がそうさせている。
その責任者の絶対至上命令を受けてから、組織的な取り組みが稼動する仕組みがある。つまり、一人の意志によってプロジェクトチームが組織構成されるのである。
もちろん、英明な一人の人間が経営幹部に上申して取り上げられ、市場が創出されることもあるだろう。しかし、ヒット商品や革新技術などというものは、多くの人間が集まってマーケティング研究から答えを導き出し、その成果として商品化されるケースは極端に少ないと言ってよい。
ここで、考えなければならないことが出てくる。そういった異端的なことを起こす最初の一人は、革新技術やヒット商品をどのようにイメージしているかということである。
じつは、このイメージが何よりも大切で、「気づき」とか「インスピレーション」、「直感」という言葉に置き換えることができる。
と、なれば、「勘の世界」の話になり、いたって曖昧で、科学的根拠がなく合理性に乏しい話になる。
この科学的根拠のない「勘」がどれほどに重要かを気づく人が少ない。気づいていても、知識が先行して科学的根拠を求めてしまうが、あえて言わせてもらうなら、マーケティングの成功への導きは、あなたの「勘=気づき」に頼るべきであると結論づけて、次回の三章「ITについて」に繋ぐ。