津波で流された実家の跡に
スタッフで並んだ。
津波に襲われ、辺り一面が火の海になり、
震災当時には「地獄」と言われた宮城県の気仙沼が僕の故郷だ。
前回、セブン-イレブンの1万7千店、数十万人の関係者がこころをひとつにするコンセプト映像において、東北、そして太平洋側へとうとうロケする経緯を話した。
やっとたどり着いたロケなのに、ロケ史上ワースト記録の天気の悪さ。
前半のクライマックスでもある山形の花笠踊りの本番は雷雨で中止(撮影は前日のテスト分だけ、撮っておいてほんとよかった)。雷がドッカン! ドッカン! 落ちる音にびびりながら、
花笠のお姉さんぎゅうぎゅう満員のテントで待機したけど、中止のアナウンスが流れた。老若男女、数え切れない花笠たちが、雨に濡れながらとぼとぼ歩いて帰っていった。
連日、わずかな雲の割れ目からの陽光を待ってカメラをまわした。バーベキューの大家族を撮影した時、わざわざ僕らスタッフの分も肉を用意してくれてご馳走してもらった。
ある農家の家族の撮影では山ほどのスイカがあり、「もういっぱい食べましたから」と制止してもちょっと僕が他を見てる隙に次々スイカを切ってしまうお父さん(笑)、あったかかった。ほんとうに、人々は、やさしい。
ロケは後半へ、つまりそのクライマックスは気仙沼のロケだった。
これまで天気に泣かされたロケだったけど、紺碧に輝く海さえ撮れればなんとか挽回できる、頼むよ気仙沼の太陽! そう願い、気仙沼へ深夜到着。魚市場を撮る、リアス式の港を撮る。
復興をたくましく生きる人々の笑顔を撮る。
まだ暗い時間、目が覚めてホテルの部屋から外を見る。濃霧だ。まったく何も見えない。
泣きたいきもちになった。そりゃないよ、気仙沼。ぼやいたよね。
しかし、魚市場の撮影をしている間に、天気は好転した。そのわずかなチャンスに、カメラ4台はバラバラの撮影ポイントへ動いた。一度撮ったポイントもより状況のいい天気で再撮影のためでもある。執念だ。すばらしいスタッフだ。
撮影は2週間にも渡った。ヘトヘトだったが、やはり日本はすばらしい。
日本を愛するということは、その一本の木を愛することだ。その一人を愛することだ。
3分ちょっとの映像と、日焼けと想い出を残して僕の55歳の夏休みは消えた。
*
僕は、地方を目にすると、いつも考えてしまう。僕の故郷は、震災で活力を失ったのだろうか? 実は、震災前から人口は減り、そもそも疲弊した地域ではなかったか?
地域は、ひとりの人間とおなじように、頭を絞り、生き残りを考えながら前に進んでいかなければならない。僕はひとりクルマで日本を一周し、さらにセブン-イレブンのこのチームでは、日本中を撮影し、いろんな日本を見てきた。僕のできることは、まだいっぱいある、と思うのだ。
太平洋側の東北、そして気仙沼のロケ、いつか必ずと思っていた願いが、やっと実現した。
願えば叶う、なんて言葉を信じる気にはなれないけど、その願いに向かって進むことはできるのだ。
気仙沼のロケの最後、実家のあった荒れ果てた空き地にスタッフと並んで記念撮影をした。
僕が育ったスッカラカンの土地とまったく無関係だった仕事が重なった不思議な瞬間だ。
ちょっとじ~んとしちゃったよ。
(つづく)
●東北を撮ったセブン-イレブン「コンセプト映像」は以下で観られます。
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(今回のキーワード)
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願いは叶わなくても
そこに向かって
進むことはできる。
執筆者プロフィール
永澤仁 Hitoshi Nagasawa
クリエイティブディレクター/run!run!! planning!!! 海の家 店主
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経 歴
セブン-イレブン(忌野清志郎さんが歌うブランドの根幹を担う「近くて便利」コミュニーケーション)、バイク王(雨上がり決死隊バージョン)、キリン氷結(発売から6年間)、シチズン(広告&商品開発)など数々のクリエイティブを責任者として手がけ、そのすべてをジャンプアップさせた実績を持つ。競合プレゼンでは独創的なスタイルで3年半無敗を記録。受賞歴は国内外100以上。強い、正しい、面白い! 国も地域も企業も商品もお店も人も、めざすゆたかな高みへ。
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(2014.12.17)