ハイパフォーマーが注目する禅とマインドフルネス
ビジネス現場の現状
従来のビジネスの現場は、ムダをつぶす、段取りを工夫するなどの効率追求思考か、長時間労働の温床になった物量作戦「たくさんやる」で生み出したメリットやバリューを、利益に変えてきた。だが単純作業やシステム化しやすい仕事は、今後は人工知能や、様々なものがインターネットとつながる、いわゆるIoTが急速に普及し、まかなうようになるだろう。そのため、これからのビジネスパーソンに求められるのは、機械には置き換えられない何か、例えば創造的であること、本物のリーダーシップやマネジメント力、ホスピタリティなど、人間でなければ成しえない力ではないか。禅やマインドフルネスを実践して得られる力はこの辺りに大きく影響するらしい。まずは禅とマインドフルネスを分けて検証してみよう。
禅とマインドフルネスの違い
いっぽうのマインドフルネスはどうだろう。マインドフルネスとは1979年にジョン・カバット・ジン氏によりストレス低減プログラムとして創始された、瞑想とヨガを基本とした心理療法である。呼吸を整え、今だけに意識を向け、瞑想する。行為は禅と変わらないが、より身近な感じだ。また、マインドフルネス瞑想とは自分を客観視する技術を身につける訓練だともいう。自分の中にある悩みや辛さや欲を客観視して理解することで気持ちが落ち着き、ストレスの低減や、ここぞというときの集中力につなげられるようだ。
比べてみると、禅は少し敷居が高いのと、ビジネスに利用する、というのは違うのではないかと筆者は思った。両者は得られる効果は似ているが、ベクトルが違う。ビジネスパーソンが“利用”するにはマインドフルネスが適しているように感じた。
マインドフルネスをどう生かすか
「まずは簡単な実践法から。楽な姿勢になり自然に呼吸しながら、それに意識を向けます。観察するような感じです。心が落ち着いたら、次は体の感覚、心の中の感覚と、順々に意識を向けていきます。大切なのは何も判断せずに、ただそこに感覚があるということだけ感じて、自分を見回ることです」。
トレーニングを行うことで、自分を客観視し心を落ち着かせることができるようになると、ストレスが減り、クリエイティブなひらめきや創造性を高めるのにも効果があるという。
「ただ、生きている以上ストレスはあり、また適度なストレスは必要なものです。初めて取り組むことや、重要な仕事を前にしたとき、誰でも不安やストレスを感じますよね。それを実行する前に緊張を逃すため、儀式的なものを行う人も多いはずです。この場面にマインドフルネスを持ってくるのは有効ではないでしょうか」と黒田氏。緊張したときに手のひらに人の字を書いて飲み込むなどのおまじないをしたことは誰しもあるだろう。この場面で上手にリラックスし、意識をニュートラルにできたら、潜在意識や創造的なひらめきが引き出され、ここぞの場面でハイパフォーマンスが発揮できるようになるのだ。
また、成果を出すべきときに雑念にとらわれずにすぐに集中できるようになるということだが、本当だろうか。
「もちろん、すぐにそうなれるわけではないし、なれなくても構いません。とにかく続けることが大切なのです。繰り返し実践することで、あるときすっと“行ける”ことがある。そのときはトップアスリートのような状態です。マインドフルネス瞑想は慈愛のための瞑想であり、究極の瞑想とも言われています。まずは自分に気付くための瞑想、次に身近な人たちへの瞑想、知らない人たちへの瞑想、最後に嫌いな人のための瞑想です。このことから、思いやりや寛容の心を促進するという面もあります」。
真のリーダーシップやマネジメント力というものは、相手の気持ちに寄り沿い、相対する人の利益を考えてこそ発揮できると思う。良い人材がそろっているな、と感じる会社は経営陣に魅力と、周りをけん引する力がある。指導する立場の人間の人格や育てる力は、企業の要ではないだろうか。
年初めの1月は「自分自身がビジネスパーソンとしてどうあればいいか、また自社や業界をどう成長させていくか」を定めるのに最適な時期だ。自分の中にあるものへの気付きをもたらすマインドフルネス。「働き方改革」が始まる予感がする今、その可能性に注目したい。
(2017.1.13)