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日本郵政グループ3社上場を問う
~これまでの歴史、これからの展望~

 
 
 金融2社の収益力も民間大手に比べ見劣りする。ゆうちょ銀行の貯金残高は177兆円で、三菱UFJフィナンシャル・グループの153兆円を上回るが、純利益は3694億円と三菱UFJの1兆337億円の3分の1強だ。かんぽ生命保険も、保険契約準備金では生保首位の第一生命保険の1.8倍だが、利益は6割弱だ。2社ともに大量の国債を引き受けており、国債が超低金利のために資産運用益が減少するのが原因とされる。
 
 収益力については、民間金融機関を圧迫するとの理由から禁止されていた大規模融資業務を認める動きも出ているが(ゆうちょの貯金限度額引き上げとかんぽ生命の加入限度額引き上げ)、金融業界、特に地域金融機関はそろって猛反発している。資産規模ばかり大きくなっても、運用体制が追いつかなければ収益向上にはつながらないという冷ややかな見方もある。
 
 日本郵政グループは4月1日付で中期経営計画を発表し、これからの成長戦略として、①郵便事業の黒字化、②ゆうちょの収益拡大、③資金運用の高度化、④郵便局ネットワークの活性化、⑤かんぽの反転の5つを掲げている。おもしろいのは、2015年から2017年度の投資予定額の合計が約2兆円もあること。施設・設備投資6700億円、システム投資4200億円、不動産開発投資700億円、成長に資する戦略的投資が8000億円となっている。不動産投資では、名古屋や福岡などで大規模な再開発を進め、オフィスビルや商業施設の賃料収入の拡大を狙っている。
 
 

◆「総合的生活支援サービス」と「国際物流への進出」を目指す郵便事業

 
 グループの中で足を引っ張っているのが郵便事業である。日本郵政は、純利益4826億円のうち93%を金融2社に依存しており、郵便事業はメールの発達でじり貧状態。「ユニバーサルサービス」によってサービス内容に地域格差をつけられないため物流事業もヤマト、佐川の大手に8割のシェアを握られ、サービスや価格で優位に立つのは難しい状況だ。
 
 それでもこの春から、全国2万4000ヶ所の郵便局を活用した新たな試みが進められている。郵便の仕分け場所を倉庫にして取引先の商品を預かり、地域の顧客から注文を受けると商品を梱包して配達する「宅配サービス」。あるいは、地域のスーパーと提携して、高齢者向けに注文の品を届ける「買い物支援サービス」。さらに、楽天などの通販会社と提携し、郵便局に受け取り用ロッカーを設置。通販利用者が自分の希望の場所で商品を受け取れるようにするなど、これからは、全国2万4000の郵便局を拠点に「総合的な生活支援サービス」を目指すという。
 
 また、この6月にはオーストラリアの物流大手トール・ホールディングスを買収し、国際物流事業への進出を明確に打ち出した。記者会見で西室泰三社長は「企業間物流に強いトール社は最高の相手」と強調。アジアなど55ヶ国に1200以上の拠点を持つトールの子会社化は郵便ビジネスでじり貧の日本郵便にとって、総合的な生活支援サービスと並ぶ飛躍のカギになるか。
 
 

◆社外取締役に厳しい視線

 
 舵取りをする経営陣は取締役18人のうち社外取締役が10人で、「社外取締役が過半数」体制は整えられた。代表執行役社長は2013年から元東芝の社長・会長の西室泰三氏。他役員・委員にも経団連OBの蒼々たるメンバーが名を連ねる。
 
 気になることがある。コーポレートガバナンス・コードが適用された今年の株主総会では、社外取締役に厳しい目が向けられ、選任時の賛成率が80%を切った社外取締役が多数出たという。来年の株主総会で西室氏や社外取締役はどの程度の賛成票を得られるか。東芝の粉飾会計の追求がうやむやになっているのは、元東芝社長の西室氏に責任追及の火が飛ぶと、郵政上場に影響が出かねないからだという憶測もあるようで、船頭多くして、舟が山に登ることにならないようにしてもらいたい。
 
 日本郵政グループは、全国郵便局長会や日本郵政グループ労働組合など強大な利権団体を複数擁する。これまでしばしば政争の具に用いられ、現在でも強力な政治力を持つだけに、上場後の株価はマーケットの動向だけでなく、その時々の政治の思惑にも大きく振り回される可能性がある。すでに成熟しきった会社ではあるが、規模が大きいだけに、企業努力と規制緩和で大変身する可能性もある。上場してよかったか、大失敗だったとなるか。注目したい。
 
 
〈ライター 古俣慎吾〉
  
 
 
 

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