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◆自然素材で人に優しい
   日本を誇る工芸品

 
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上質な茶道具はほとんどが山中漆器によるもの
 日本には、世界に誇る伝統技術が多数存在します。各地の風土と文化の中で、様々な織物や染物、陶磁器などが生まれ、受け継がれてきました。特に、木に漆を塗って作られる漆器は、丈夫で軽く、艶があり 「欧米ではJapanと呼ばれている」 というほど、日本を代表する伝統工芸品です。漆は、漆の木の樹液から作られる天然塗料。深みのある美しさだけでなく、木を長持ちさせ、抗菌性にも優れています。もちろん、天然の樹液なので化学塗料と比べて環境や人体に優しいのは言うまでもありません。食器に用いられるのは非常に理にかなっており、先人の知恵は今なお私たちの日常生活で息づいています。
 
 「漆器」 とひと口に言っても多くの技法があり、仕上がりも様々。会津や輪島など、産地ごとに独自の発展を遂げているのも特長です。そんな中でも、茶道具をはじめ椀物や皿といった食器類で知られるのが、石川県・山中温泉を産地とする山中漆器。ろくろ挽きを得意とし、その技術の高さは、他の漆器産地でも山中で挽いた木地が使われるほど。
 
 この山中漆器伝統の優れた技法を大切にしながらも、より良い製造方法と素材を組み合わせて 「100年後でも食卓で使われる漆器」 を目指す――注目の漆器専門家・小谷口剛氏が手がける山中漆器の魅力に迫りました。
 
 

◆優れた技術のみを集約し
   長く愛される漆器を

 
 「木を伐って作るのなら、木の育った年月は使えるものでないと」 という小谷口氏がこだわるのは、実用品としての漆器。小谷口氏は広告の仕事を経て漆器店を営む実家へと戻り、木と漆について勉強を重ねました。当初、「ダイニングテーブルで使うことをイメージしていないデザインしかない」 と、不満を感じたとか。こうした思いから、耐久性に加え、現代生活にフィットし、長く食卓で使われるデザインの漆器を生み出すに至ったのです。
 
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汁椀を一つ作るにしても、写真右上のような木の幹が必要となる。
中心から少しずれた位置を切り出し、ろくろ挽きや乾燥を繰り返す
 漆器づくりは、大きく木地・下地・塗りの工程にわかれ、乾燥を含めると完成まで数ヶ月がかり。小谷口氏は昔ながらの “縦木取り” という取り方をした木材を使用します。木を輪切りにし、生える向きのまま木材を使うため、大きな器を作るには樹齢を重ねた太い木が必要です。それゆえに縦木取りの木材は高価ですが、それでも縦木取りにこだわるのは、変形しづらく丈夫という利点から。しかし、どれだけ良い木材でも、仕上がりは各工程の職人の腕次第です。たとえば、木地を薄く挽く際に、割れたり欠けたりすれば元には戻せません。もちろん、下地が粗ければ、最後の塗にも大きく影響します。珪藻土と砥粉、漆を合わせた下地を、カーブに合わせて10本以上のヘラを使い均一に塗り、茶道具に使われる最良の漆を刷毛でムラなく塗り仕上げる・・・。こうして、職人の技術の粋を集めて、木は 「漆器」 として再び樹齢と同じ年数の命を吹き込まれることとなるのです。
 
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徹底した湿度管理のもと、女性の毛髪から作る刷毛を使い、良質な漆を均一に塗り上げる
 
小谷口氏が信頼をおく漆塗職人・岩倉栄一氏
 近年、山中温泉でも漆器の職人は減りつつあると言います。その中でも優れた職人の確かな道具と技術で「本物」 を作ることに妥協のない小谷口氏。仕事を依頼された職人もまた 「良い素材を使い、こだわった仕事ができることにやりがいを感じる」 と賛同していることが、より良い漆器づくりにつながっているに違いありません。
 
 

◆体に優しく心を豊かに・・・
   暮らしに寄り添う器を提案

 
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洗朱の応量器¥38000。美しい朱の色は紅殻と植物性染料によるもの
 小谷口氏の漆器でよく知られるものの一つが、曹洞宗の僧が使う入れ子型の食器 「応量器」。山中漆器の特長をよく顕した形態となっています。僧侶は応量器で毎食を摂るため、耐久性は重要です。漆器は扱いづらいと思われがちですが、良い技術と本物の素材を使っていれば、長年使っても、木が歪んで入れ子が収まらなくなることも漆が剥げることもなく、使い続けることができます。小谷口氏の応量器は、曹洞宗大本山永平寺にも納められている本物。この応量器は 「三衣一鉢」 という、僧侶の衣食住を満たす財産を表す言葉の 「一鉢」 にあたり、計算された無駄のないフォルムや、食のありがたさを考えさせる存在感は見る人を惹きつけます。東京の松屋銀座7階 「デザインコレクション」 や麻布のセレクトショップ 「designshop」 でも取り扱いがあり、ネットオーダーでも一般の方からの注文が跡を絶たないとか。
 
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薄さ0.8mmという、木目が美しい干菓子盆
 
木肌の質感を活かした拭き漆の汁椀各¥2900
 コストパフォーマンスを重視し、化学物質を用いた食器が大量生産されるいっぽう、漆器の需要が少なくなったことで、流行の製品に漆を塗ったものも多数生まれては消えています。そんな中、小谷口氏は暮らしや食に真摯な目を向け、「自分の作るものと生活にズレがないように」 という姿勢で漆器を作り続けているのです。
 
 食器に口が触れる日本の食文化だからこそ、持ちやすさや口当たり、安全性まで考えられたものを。本当に良い器を丁寧に長く使うことで、何気ない日常の食卓も、豊かな時間になるのではないでしょうか。
 
 
 
 
山中漆器 小谷口剛
 
 (この情報は2013年1月23日現在のものです)
 
 
 
 

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