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シニアに席巻されたクラブ

 
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Miho / PIXTA
フィットネス産業の成長が止まらない。2016年は施設数が4946軒、市場規模が4473億円でともに過去最高を記録した。2017年の集計はこれからだが、更新が確実視されている状況である。
 
例えば芸能人や著名文化人がトレーニングでシェイプしたビフォーアフターの体を誇らしげに示すRIZAP(ライザップ)のCM。あれは「結果にコミットする」というコピーの力もあいまって、「ボディメイク=新しい自分に生まれ変わる」という意識を一般の人たちにもすっかり定着させた。読者の中には『筋トレが最強のソリューションである マッチョ社長が教える究極の悩み解決法』(U-CAN)あたりに始まる一群の“筋トレ系自己啓発書”を想起する人もいるだろう。
 
ただ、現在のフィットネス産業の主役はそういったボディメイク系やハードトレーニング系ではなく、シニア世代を対象としたヘルスケア系のようだ。経産省がまとめた産業活動分析(後注)によると、全国のフィットネスクラブの会員数の年齢構成比は60歳以上が30.3%で最も高い。世帯あたりのクラブ使用料(クラブにとっては売り上げ)に占める割合を世帯主の年齢階級別で見ても、1位が60代の36.5%で2位が70代以上の21.0%と、両者で6割近くを占める。大まかに見て、フィットネスクラブはもはやシニアのためのものなのである。
 
 

介護予防産業になったフィットネス

 
この現状を受け、産業活動分析は次のように指摘する――フィットネスクラブは「生活関連サービス業・娯楽業」という位置付けから、「健康産業」として、「医療・福祉」に近い存在になっているとも言えるのではないか――。もっとはっきり言えば、フィットネスクラブには疾病予防産業ないし介護予防産業になってもらいたいというのが国の本音だろう。高齢化の進展で老人性慢性疾患が増え、医療保険財政がひっ迫するなか、行政は各フィットネスクラブに対し、会員(=国民)の心身機能維持と、商圏地域におけるコミュニティの機能を期待している。具体的には以下をイメージしているようだ。
 
・リハビリとフィットネスの融合を目指した機能訓練施設
・コンビニエンスストアと連携した健康管理サービス
・スポーツクラブ型のデイサービス
・自治体の介護予防事業の受託
・医療機関と連携したサービス
 
フィットネス業界のほうもすでにこれらの期待に応え始めており、例えば業界売上高3位の「ルネサンス」はリハビリ特化型デイサービスの「元氣ジム」を介護保険事業として展開。要介護3だった高齢者が元氣ジムのトレーニングを受けて介護認定から外れ、健常者対象のジムに入り直す例も出てきているという。
 
異業種からの参入組では、リハビリ型デイサービスとして運営するフィットネス施設「Record book(レコードブック)」の運営元はシステム開発会社だ。全国に15万人いるケアマネジャー有資格者の半数以上が集まるケアマネジャー向けポータルサイト「ケアマネジメントオンライン」を運営し、そのデータベースを集客に役立てている。
 
また、「Curves(カーブス)」のような、比較的低負荷のサーキットメニューを提供する小規模ジムの業態も、介護保険事業ではないが介護予防産業の部類に入るだろう。これらの業態は一般にプールやサウナなどがないので施設費原価が安く、少ない会員数で運営できる。
 
昨年11月末に日経新聞が報じた通り、全国のショッピングセンターで空きテナントが増え、デベロッパーが賃料引き下げの可能性も検討し始めている。これまでテナントの主役だったアパレルブランドの代わりにシニア向けのジムやデイサービス施設が入るようになれば、ショッピングセンターの位置づけはどう変わるだろうか。
 
 

20~40代はどこへ行った?

 
これらのクラブやジム、施設に共通するのは、トレーナーが常駐してフィットネスを指導する「ホスピタリティ型」であることだ。その意味で総合スポーツクラブからの派生型と言えるが、いっぽうでここに来て数の伸びが著しいのは、実は20~40代向けの「24Hセルフ型ジム」のようである。
 
この業態の特徴は“24時間利用可”で、“マシン特化型”、さらに“低価格”であること。代表的なものは「Tipness(ティップネス)」が運営する「FASTGYM24(ファストジムトゥエンティフォー)」や、アメリカ発の「ANYTIME FITNESS(エニタイムフィットネス)」などだ。中には総合スポーツクラブでありながらこの業態に伸びしろを見つけ、通常営業時間外の夜間にマシンルームのみセルフで利用できるようにした東急オアシスの「24plus(トゥエンティフォープラス)」のような例もある。
 
さらに新しいところでは、昨年11月末にコンビニエンスストアのファミリーマートがこの業態への参入を表明、今年2月オープンの1号店から始めて5年以内に300店舗を目指す計画を発表した。これはコンビニ店舗の2階部分に24Hセルフ型ジムの「Fit&Go(フィットアンドゴー)」を併設するもので、産業活動分析が想定する上記5項目の2番目、「コンビニエンスストアと連携した健康管理サービス」にリンクする。同社がミッションに掲げる「小商圏における生活インフラ」に衣・食・住以外(鍛? 健?)を加えようとする試みで興味深い。
 
 

24Hセルフ型ジムからの逆襲

 
フィットネス業界の経営情報誌『フィットネスビジネス』の古屋武範氏によると、24Hセルフ型ジムの会員の大半はフィットネス経験者なのだそうだ。シニア層が増えて雰囲気が変わった従来のフィットネスクラブに見切りをつけて流れてきたのかどうか、彼らは1人で、あるいはトレーナーを付けたければオンデマンドで好きな時に予約して、トレーニングするのを好む。今は情報通信技術のおかげでそういったことも可能だし、そもそも彼らはデジタル世代だ。だから、例えば冬の深夜2時、スマホアプリやICカードでセキュリティを解除して無人のジムに入り、スマホの動画でマシンの使い方や体の動かし方を確認し、1人で黙々と自分を追い込んで、片付けをして帰る、といった利用スタイルも普通になる。
 
灯りの落ちた郊外の街角で、あるいは寝静まった住宅街の一角で、どこかのロードサイドで、それが夜な夜な繰り広げられていると思うと、ある種の凄みを感じないではいられない。凄みの中身はロスジェネからゆとり、さとりに続く停滞した世代からの、右肩上がりだった先行世代への呪詛なのかどうか。いずれにせよ、『筋トレが~』も言うように、筋肉量を増やしてテストステロンを増やして前向きになったやつが強いということは、年始に際し意識しておくと良さそうだ。
 
 
*出典 「産業活動分析 平成26年10~12月期(年間回顧):シニア層の健康志向の高まり、そして地域別人口に影響されているフィットネスクラブ ~初めての経済センサス-活動調査結果も踏まえて~」
 
(ライター 筒井秀礼)
 
(2018.1.10)
 

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