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廃業率の記述が落ちた

 
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花火 / PIXTA
政府は先月17日、アベノミクスの第三の矢「成長戦略」の2020年度版を閣議決定、首相官邸ホームページに公表した。その4日後の7月21日、日経新聞電子版は「「中小企業減」容認へ、成長戦略で転換 新陳代謝促す」と題する記事を掲載*1。2013年に「成長戦略」が始まって以来一貫して明記されてきた文言が今回削られたことを取り上げ、政府の姿勢を「中小企業数の維持を狙った従来目標を見直す」と解説した。
 
削除されたのは「成長戦略フォローアップ」資料109ページに掲載の、「7.地域のインフラ維持と中小企業・小規模事業者の生産性向上」の章頭、「KPIの主な進捗状況」の欄。これまでここには開業率と廃業率のバランスについて「開業率が廃業率を上回る状態にし、」との一節があったが、今年度版ではなくなっている。念のため2013年までの各年度版を確認したところ、確かに昨年までは同じ文言で明記されていた。それが落ちたのだから、「廃業率が開業率を上回ってもやむなし」との認識を政府が示したと解釈してもおかしくない。
 
いっぽうで、当の日経がタイトルにも入れた「新陳代謝」に照らすなら、「開業率が廃業率を上回る状態にし、」のままでも同じ意味になるはずだ。ただ、政策の意思は一言一句に表れる。今年政府を「やむなし」と認識させた要因を考えるとき、思い当たるのはやはりコロナである。
 
 

倒産の増大をソフトランディングさせるための

 
日経の記事はこのように続く。――「足元で倒産や廃業は増えている。東京商工リサーチによると、6月の企業倒産は前年同月比6%増の780件だった。新型コロナの感染拡大で飲食や観光関連を中心に経営環境は厳しい。20年の年間倒産件数は7年ぶりに1万件を超えるとの見通しも出ている。」
 
これを静的な予測とすれば、動的な予測の例としては、例えば一橋大学客員研究員の平峰芳樹氏(帝国データバンクデータソリューション企画部総合研究所主任)のレポートが挙げられる*2。同氏はこのレポートで、国民が経済活動を自粛することによる企業売上の減少を売上の“蒸発”と直感的に言い当てたうえで、GDPの減少額と倒産危険企業(売上原価が売上高を上回った企業)の数について、複数のシナリオで推計を試みている。下記、ごく一部を要約して引用する。
 
「企業の現預金のみ考慮した場合、50%の売上減少が1か月続くと1,799社の倒産危険企業が現れる。」
「同じく現預金のみの場合、50%の売上減少が3か月継続すると5千社以上に倒産の危険性が高まる。さらに5か月目には3万社、8か月目には11万社、11か月目には60万社と増えていく。」
「持続化給付金を考慮したとしても、50%の売上減少が3か月続くと倒産危険企業は4,798社まで膨れ上がる。持続化給付金によってリスクを先延ばしすると、倒産危険企業が3万社を超えるのは7か月目、11万社を超えるのは10か月目まで遅らせることができる。」
 
緊急事態宣言が出た当初、「自粛要請は感染拡大を止めるためではない。医療体制を整備する時間を稼ぐためだ」という専門家の解説に多くの国民がもやっとしたが、持続化給付金もある意味同じだろう。企業倒産の増大をソフトランディングさせるための施策なのだ。文言の削除に政策の意思を看取するなら、そう解さざるを得ない。
 
 

飽きと疲れと新陳代謝

 
以上、現下の事態を識者の解説で理解したうえで、以降はライターの分相応に、一般論で今後の変化を占ってみたい。
 
日経も書くとおり、先進諸外国に比べて日本の生産性が低いのは中小企業が多すぎるせいではないか、というのはつとに指摘されてきたところだ。そして、国が状況の是正に向けて舵を切った以上、趨勢はこれからそちらに向かうだろう。廃業や統廃合による再編が各業界で進む。「新陳代謝」である。
 
そうすると、話をわかりやすくするためあえて乱暴な表現をすれば、辞めざるを得ない経営者はそのまま辞めるとして、「辞めたい経営者」も出てくるのではないか。日経の記事に「中小・零細企業は新型コロナによる環境変化に対応する投資余力がなく、自主廃業を選びやすい」とあるが、この「投資余力」は「やる気余力」の意味だとも思えるのだ。
 
なにもそういう人たちを責めたいのではなく、なんとなく「もういいかな」とか「そろそろ疲れたし」とか思っている、思っていた経営者(とその家族)は、少なくないのではないか。マクロの経済成長がない社会では、よほど使命に燃えた経営者でない限り、存続させること自体に経営のおもしろさを見出せるタイプでなければ飽きや疲れは必ず来る。それを制度側に寄せて制度疲労と呼ぼうが何と呼ぼうが、これらはすでに各業界、各局面で様々な閉塞感となって表れていたと思う。経済成長が止まってから一世代(2020-1992≒30年)。日本経済はちょうどそういうタイミングかもしれないのだ。
 
ただ、経営者はそれでよくても――特に自社所有の土地建物がある創業経営者はそれでよくても――雇用されている従業員にはとばっちりだ。その意味で、2020年の「成長戦略」がもし仮に廃業や解散を等閑視するとしても、労働者の失業は等閑視してはいけない。コロナ禍に乗じた一部の便乗廃業、便乗解散による失業の増大に対しては尚更である。
 
 

なぜ政府の経済政策が重要なのか

 
平峰氏が言う「売上蒸発」の影響はコロナが収束した後も続くだろう。特にBtoCの分野はそうだと思う。「ないならないで特に不満なく過ごせた」という消費者のあいだで「ウォンツ蒸発」が起きるからだ。
 
第一、使えるお金が減っている。そして「ウォンツ蒸発」はタイムラグをおいてサプライサイドにも「ニーズ蒸発」となって現れる。そうなるとBtoBを含む経済全体のダメージは「蒸発」では済まないだろう。
 
だから筆者が政府に――成長戦略に――期待するとしたら、労働者にはとにかく雇用が確保される政策を進めてほしい。それも倒産企業を延命させて確保するのではなく、労働者教育とあわせた労働市場の活性化・柔軟化を目指すべきだ。
 
なお、ここでいう柔軟化は「同一労働同一賃金」「新卒一括採用からの雇用慣習の脱却」「解雇法制の見直し」「エンプロイアビリティ保障の考え方と仕組みを定着させる」などからなる、労働市場の在り方そのものの柔軟化のことである。非正規雇用を拡大することではない*3
 
また、ニーズの「蒸発」については、場合によっては公共事業(公共調達)で蒸発ぶんを下支えすべきかもしれない。公共事業と聞くと我々はつい公共工事(土木建設)を連想するが、実は公共事業における「公共工事等」の割合は金額ベースで4割未満。「物品役務等」のほうがよほど多い4。給付金事業のゴタゴタのせいで今後逆風が強まる懸念はあるが、サービスデザイン推進協議会(サ推協)と電通のような変なエコシステムを排せるなら、検討の余地はあるだろう。
 
いずれにせよ今年は特に政府の経済政策の役割が重要だ。「成長戦略」に注目である。
 
 
 
*1 「「中小企業減」容認へ、成長戦略で転換 新陳代謝促す」(日本経済新聞 2020/7/21)
*2 「新型コロナウイルス感染症による売上蒸発環境下における経済的リスクの評価」(帝国データバンク)
*3 これについては過去の拙稿も参照してほしい。「続・働き方改革でいかに働くか」(B-plus 18年11月)
*4 平成30年度 契約金額及び件数に関する統計(財務省)
 
(ライター 筒井秀礼)
(2020.8.5)
 

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