現役時代と変わらぬ姿勢で仕事に取り組む
ポジティブ変換で気持ちを切り替える
現役時代には大変なことがたくさんありましたけど、そこはポジティブシンキングで乗り越えてこられたかなと思っていますし、現在も、その思考法を役立てています。現役時代にネガティブになりがちだったのは、ケガをしたときです。練習ができなくなってしまうと、ライバルと差がついてしまうから不安で、どうしようと焦ってしまうのに、走ることはできない。
現役時代は365日、いつも走っていたんです。日曜日でも必ず2時間くらいは走ると決めていて、休みなく延々と走り続けていました。でも、ケガをしてしまったらそれができない。そのときに、「神様が今は休め」と言っているんだと思うようにしたんです。そうやって気持ちを切り替えることで、「今は走れないけど、別の部分を鍛える時間なんだ」と前向きに捉えて、いつもよりも多めに腹筋をするなど、弱い部分を補える時間だと考えるようにしたんですね。
そうやってマイナスなことを前向きなことに変換する。これを私は“ポジティブ変換”と呼んでいて、これができるようになると、逆境にあっても後々その時間があったからこそ今があるんだと、後につながるチャンスだと思えるようになるんです。何かマイナスに感じることがあったときに、少し視野を広げて自分自身を客観視して、マイナスのことをポジティブに変換してみる。今の仕事でもこの、ポジティブ変換は大いに活用しています。
これができるようになったのにはきっかけがありました。それは1998年にタイのバンコクで行われたアジア競技大会のときです。場所がバンコクということもあって、競技の日は、気温が30度、湿度は90%以上になるだろうと言われていて、メディアの方からもその点についていろいろと聞かれて、不安になっていました。
でも、あるときに思ったんです。「当日の天候や気温なんてどうなるか誰にもわからない」というように。自分の力ではどうにもならないことを考えて不安になって、ネガティブな時間を過ごすよりも、腹筋を50回多くやったほうが力になるわけですよ。前向きな気持ちで時間の過ごし方を変えていくだけで、不安を乗り越える力になるんです。結果として、その大会では2時間21分47秒のアジア最高記録で金メダルを獲得できました。