「俳優は人に見られる仕事だから」「見られていたら、何かやりますよ」と笑って話してくれた柄本さん。俳優という仕事に対して、どのようなお考えを持っているのだろうか。
不自然であることを知ること
僕は役づくりということがよくわからないんですよ。台詞とは、あくまで別の人が書いた、別の人の言葉です。人が書いた台詞を言うのだから、不自然なことをしているんですよ。もちろん、台本を読んで「こういう感情なんだな」と理解してる部分もあります。でも、そもそも不自然なことをしているのだから、「もっと自然に」と言われる筋合いはないと思っているんですよ(笑)。
俳優というのは、台本に書かれていることを喋る仕事です。その言葉をちゃんと口に出せるようになれば良いんだと思いますよ。ただ、その前に必要なのが、不自然であることを知ること。人が書いたものを完璧に喋ることはできないという意識を持たないといけないと思いますね。そうして台詞と格闘していくのが俳優なのではないでしょうか。
僕がずっと役者を続けて来られたのは、運が良かったからだと思っています。どの仕事であっても、需要と供給が成り立っていなければいけません。僕がどれだけ「売りますよ」と言っても、買ってくれる人がいなければ仕事はできませんから。お仕事の話をいただけなければ、それで終わってしまいます。だからこうして、今でもお声がけいただけることは本当にありがたいことですし、運が良かったと思いますね。
ただ、劇団東京乾電池での芝居においては、需要と供給はあまり関係がないんです。「こういう芝居がやりたい」と感じたら、小さな劇場で上演することができます。そういった芝居が僕にとって一つの楽しみとなっているんです。良い意味で、“くだらないこと”がやりたいなと思っているんですよ。今後もそうした芝居のおもしろさを楽しみながら、仕事を続けていきたいですね。
(インタビュー・文 中野夢菜/写真 Nori/スタイリスト 矢野恵美子/ヘアメイク 武本萌)
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柄本明(えもと あきら)
1948年生まれ 東京都出身
1974年に自由劇場に参加し、俳優としての活動をスタート。1976年には劇団東京乾電池を結成し、座長を務める。映画『カンゾー先生』では主演を務め、第22回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。テレビドラマにも多数出演するなど活躍の幅を広め、2019年には旭日小綬章を受賞した。12月19日から東京芸術劇場プレイハウスにて上演される舞台『てにあまる』に出演するほか、演出も手がける。
舞台『てにあまる』
https://horipro-stage.jp/stage/teniamaru2020/
(取材:2020年11月)