インタビューの中で、「映画やドラマ、舞台はフィクションではない」と語ってくれた佐野さん。どういうことなのか、詳しくうかがった。

与えられた世界を生きる

現実と虚構は別物で、まったくのフィクションとして作品を楽しみたいという方もいらっしゃるでしょう。それは楽しみ方の一つとして良いと思います。ただ、僕はフィクションも現実もないと考えています。俳優はあくまで演技をしていますが、それでも現実にある自分の体で、現実を生きている体が動いている。役柄を与えられて初めて現実の中で創造される世界を生きることができる。俳優でなくとも、どんな仕事でも、与えられた世界を生きることに変わりはないのだと思います。経済社会も与えられたルールの中で生きるという意味では虚構でしょうしね。 現実の世界では、生まれるときに親を選べませんし、生まれる時代も選べませんよね。だから僕も、与えられた仕事を断ることはほぼないようにしています。どんな世界観のどんな役でも、その世界でどう生きるのかを考えるんです。 そのためには、役柄の背景を探ることが大切です。現実で言えば、捏造された国の正史ではない敗者の歴史。目に見えない世界を探り続けることが、仕事において最も大切な事なのだと思います。できれば、共演者の方やスタッフの方々など、一緒に仕事をする全員と、役や演じる世界について共に探れたら嬉しいですね。ただ、考えや生き方は人それぞれ違うもの。それぞれの違和感を突きつけ合わせて、フラットな目線を持って仕事を続けていきたいと思います。 （取材：2020年8月）