B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

 
“怪優”とも称され、多面性を内面に秘めた演技で人気を集める佐野さん。癖のあるキャラクターを演じる際に、意識していることについてもうかがった。
 
 

演じる役の背景を考える

 
もともと怪獣映画や特撮が好きでしたからね。ラブストーリーにしても、ちょっとアブノーマルな話の展開が好き。音楽ではロックンロール、文学だと異端文学や幻想文学。どれも僕が少年時代には世の中で真っ当とされていなかったジャンルです。モラルに縛られず、人間が正直に素のまま、生き生きとしているものが好きなんですよ。だから、わざとそういう世界が垣間見えるように演じている部分はあります。
 
僕は映画やテレビドラマで悪役を演じることが多いですよね。歴史物でも、悪役とされている人を演じることのほうが多い。でも、その人物は本当に悪い人なんでしょうか。その時代に善であり正義とされていたことが、後の世から見れば正反対になってしまうこともあるのはみなさんもご承知の通りでしょう。
 
ならば、なぜその人が罪と呼ばれるようなことを犯してしまったのかを考えるようにしています。悪とされる敗者側の背景がわからなければ、それを裁く側の正義とやらも見えてこない。
 
そもそも、悪であるとか、異端であると決めているのは、現在正しいとされているモラルや律令です。でもそのモラルは、時代や国、状況によってコロコロと変わるもの。戦中や戦後のことを考えるとわかりやすいですよね。たとえ今は正しいとされていても、明日にはその常識が変わってしまうかもしれないんですよ。僕は子どもの頃から、そういったコロコロ変わる価値観に不信感を抱いていました。
 
多勢に無勢で考えることをやめ、批判を許さないような正しいと言われているものに常に寄り添い、己の身や家族、共同体を守ろうとする心根にはファシズムに通じるものがあるかもしれません。それは恐ろしい。どうしたらフラットに気持ちや状態、考えを分かち合えるのか。そのことを映画やドラマを観てくださっているみなさんと共有したいと思い、意識して悪役と云われる人物を演じるようにしています。
 
けれども、悪役とされている人が実は正しかったと主張することが目的なのではありません。ヒーローたちが悪者から被害者を助けるのは悪を目の前にすれば当然の行為でしょう。一方で悪とされる人物の背景を正義と称する人が理解できない、しようとしない事実があるのも事実。どちらかだけに偏ることに違和感を持っています。役柄について善人なのか、悪人なのかと考えると、本当のところどちらでもないんじゃないかと思いますよ。極端にどちらかだけに偏るのは、原理主義的な思考の停止に繋がる恐れがあります。表面上の物語を追うだけではなく、その背景をも体感することで初めて物語が立ち上がってくるのだと思います。
 
 
悪役というイメージがあることはマイナスにはならないのか聞くと、佐野さんは「僕も嫌われたいわけではないけど」と笑いながら考えを話してくれた。
 
 

観客と同じ時間を生きている

 
glay-s1top.jpg
俳優は、役を演じることでその人の人生を生きています。映画やドラマを観てくださっている方とも、その役の人物と同じ時間を、世界を共にしたい。感動して泣いたり、おもしろい場面で笑ったりすることは、演じている僕たちと同じ時間を生きているからこそ生まれてくるものだと思うんです。みなさんが作品を観て感じる楽しさや恐怖と、演じている僕らの楽しさと恐ろしさが同じになれば、善悪に縛られることなく、与えられた現実とは違う物語を共に生きる自由を得られるのだと思います。
 
演じる役柄は何でも良いんですよ。善人と言われている人を演じても、連続殺人鬼を演じても、俳優がしなきゃいけないことは同じです。「なぜその人はこういう風に生きているのか?」と辿り、その世界を現実と同じように生きてみせること。実際の現実では許されないこともありますから、そのことも含めてわざと演じてみせる。それが俳優の仕事だと思っています。
 
なので、演じる役柄について善悪で考えることはありませんね。悪役をやろうと思って演じることもない。善人であれ悪人であれ、なぜこういう生き方をするのかと考え、その人物の思考を辿る作業がとても楽しく、やりがいがあると感じています。そうして他人であるその役が、自分の中で腑に落ちたときの感覚が好きです。
 
そういった背景を考えないと、演じる際に表面的なところで成立させようとしてしまうので違和感があるんです。経験を重ねるごとに、違和感を持つことが多くなったかもしれません。その違和感を失わないようにすることで、実際の自分と役柄の人物との距離感が生まれ、その埋まらない部分について自己対話をすることができる。今後も、自分が何に違和感を持つのか見失わないようにしたいですね。