選手のメンタル面を重要視していると語る宮本さん。指導の中で、特に心がけているのは「居場所をつくってあげる」ことだと言う。
居場所があるから責任感が生まれる
コーチ業にはマネジメント能力が必要だと思っています。選手たちをマネジメントするうえで一番重要視しているのは、彼らに居場所をつくってあげること。組織の中で仕事を与えられることによって居場所ができ、居場所ができることによって責任が生まれると思うんですよ。
例えば、「お前は先発投手がヒットを打たれてピンチになったときに出番があるよ」「抑えられるのはお前しかいない」という仕事を与えます。すると、彼らにとってそれが居場所になるんです。そうして「みんなのために頑張ろう」という責任感が生まれる。そういう責任を持たせてあげるのも、我々コーチ陣の仕事です。
その中で気を付けているのは、言葉の言い回しです。僕のように昭和の時代に生まれ育った世代は、怒鳴られてなんぼの教育を受けてきました。「今に見てろよ!」という反骨精神がモチベーションだったかもしれません。しかし、平成の時代に生まれ育った選手にそういう指導をするわけにはいかないんです。大切なのは、“怒る”のではなく“叱る”こと。
“怒る”というのは、感情のままに怒鳴ることです。それに対し、“叱る”とはアドバイスだと思っています。感情的になるのではなく、良い部分を伸ばしてあげながらアドバイスする。今の時代はそういう指導法が必要になっているのでしょう。
「選手の良い部分を見つけるのが楽しい」と話す宮本さん。昭和と平成の指導に対するギャップはどのように埋めてきたのか聞くと、これまでの経験が生きていることがわかった。
小学校の課外授業での経験が生きた
以前、スポーツコメンテーターやタレントとして活動していたときに、何度か小学校の課外授業で生徒たちに野球を教えたことがあるんですよ。そのときに教師の方々や校長先生とお話ししまして。例えば、体罰の問題などについても話しましたね。その中でとても勉強になったのが、良いところを伸ばす必要があるということです。
僕らの時代は、苦手科目があると「もっと勉強しろ!」と怒られたものです。しかし、今の時代は「算数が得意なら、算数を伸ばそう」という個性を大切にした教育が主流だと実感しました。もう、僕たちが柔軟にそれに対応しないと、今の時代の子たちは育てられないとすら感じました。
そこで僕は、メンタルトレーナーのライセンスを取得したんです。その後、「葉山巨人軍」という少年少女野球チームを立ち上げ、総監督を務めることになったので、学んだ言葉の伝え方を実践してみることにしました。例えば、「お前バッティングは悪いけど、足が速いよな!」という言い方です。大切なのは、ポジティブな情報を後に言うこと。そうすると子どもたちは、それをモチベーションに頑張れるんです。
そういった経験のすべてが、今のコーチ業に生きていると感じますね。最初に原監督からのコーチの打診があった際、「21年のブランクがあるから」と迷いましたが、その21年の中での経験が大きな糧になっているんです。