怪談はないよりあったほうがいい
人生を楽しむための仕事の仕方
怪談家として広く知られている稲川淳二さん。テレビで稲川さんを見ると「夏が来たな」と感じる方も多いだろう。そんな稲川さんは、工業デザイナーとしても活躍している。これまでにデザイナーやタレント、ラジオパーソナリティーなどさまざまな仕事を経験してきた稲川さんに、仕事に対する価値観や怪談の楽しさについてうかがった。
さまざまな経験を経てラジオパーソナリティーに
私はもともとデザイナーとして就職して働いていました。その中で、芸能美術に興味を持ったんですね。それで、舞台関係の仕事ができないか探していました。そんなときに、ある劇団を紹介していただきまして。一度、美術担当として参加することになりました。でも、演出家の方とお話ししているうちに「稲川君、幕間に即興で芝居をしてみないか」と言われたんです。
幕間というのは、舞台が一段落して幕をおろしている間のこと。幕の内側ではセットの配置を変えたり、役者が入れ替わったりしています。普通ならばその間は観客の方に待ってもらっているのですが、そこで私が間をつなぐために芝居をすることになったんです。私は借金取りのような恰好をしたおじいさんの姿で出ていきました(笑)。観客の方々は大いに笑ってくれましたね。公演の間それを続けているうちに、いつしか芝居そのものにも参加するようになりました。勤めていたデザイン会社を退職する際には、「安心してやってこい。失敗しても骨は拾ってやるから」と言っていただき嬉しかったですね。
劇団の一員として活動する中で、舞台以外にもさまざまな仕事を経験しました。怪獣ショーの司会や、子ども番組の司会を務めたこともあります。そうした私の活動を見てくれていた友人に、あるとき結婚式の司会を頼まれまして。快く引き受けたところ、その場に日本放送に勤めている方がいたんです。帰り際に連絡先を教えてほしいと言われたときは、いろいろ自由に司会をさせてもらったので怒られるのかなと思いましたよ(笑)。
後日、「ニッポン放送に来てほしい」と連絡が来たときは驚きましたね。しかも、指定されたのは夜中の12時過ぎ。何があるのだろうと思って行ってみたら、「今日のオールナイトニッポンに出演してほしい」と言われたんです。もちろん台本もなければ、読むべきハガキもありません。そんな状況で何を喋ればいいのかと困惑したのですが、「先日の結婚式のときのように話してくれればいいから」とおっしゃるので、思い切って出演することにしました。そうして、オールナイトニッポンで水曜日の夜中3時から、いわゆる2部の時間帯を担当することになったんです。