地球ゴージャスの公演では作品の脚本・演出も手がける岸谷さん。『The Love Bugs』の製作発表会では、共演者から「岸谷さんの演出で、今までの自分にないものを引き出してもらえそう」という声が上がっていた。そうした期待をされるのは、岸谷さんに役者が持つ新たな可能性を見出す能力があるからではないだろうか。
今が辛くても、最後には楽しさしか残らない
それはどうなんでしょうね。もし、僕に他の役者さんたちの潜在的な能力を把握できる眼力があるのだとしたら、その目を培ってくれたのは、たくさんの人たちの出会いにあると思います。「センスがいい」っていう言葉がありますよね。僕は他人と良い出会いができることにもセンスが必要だと思います。そしてそのセンスは、3つの感から養われるというのが持論です。
まずは、新しく人と出会えた時に“感激”すること。そして付き合いが続いていく、その日々に“感動”すること。最後に、その人と出会えたことに“感謝”すること――。僕のセンスがいいかどうかはわからないけど、その3つの感を、意識はしなくても大事にしてきたのは確かです。
僕は1人で過ごすより、仲間と一緒にいるのが圧倒的に好き。だから、人との出会いは本当に大切にしています。ただ、仕事をするうえでは1人になる時間が必要ですし、避けて通ることはできません。脚本を書くのも、役づくりも1人でやる仕事です。この段階が一番辛くて苦しい。そこを乗り越えると、ようやく共演者と集まって稽古が始まります。でも、その土台をつくるための準備段階の仕事は、誰も助けてくれない孤独な戦いなんです。
もちろん、挫折や失敗は毎日のようにしていますよ。それこそ、たった1行のセリフをどうしてもモノにできない。単純なワンシーンがうまくいかない。と落ち込むことの繰り返しです。でも、仕事を辞めたいと思ったことはないですね。1つの作品をつくり上げていく過程は苦しいことばかりだけど、そこに向き合って一生懸命でいると、どこかに辛さをろ過するフィルターでもあるのか、後から振り返った時、作品をつくり上げたこと、役を演じきったことの、純粋な楽しさだけが思い出に残っているんです。
地球ゴージャスの作品は今回で14作目。各公演の大きなテーマは常に一貫していて、「人間はいかにして生きるのか。そして、いかに死ぬのかに尽きる」のだと言う。
その瞬間の生命力に触れるのが舞台
地球ゴージャスの舞台において、「いかに生きて、いかに死ぬのか」というテーマはどの作品にも必然的に内包されている要素です。公演では毎日同じ作品を披露していても、真に同じものは一つとしてありません。舞台ではその瞬間を生きている“今”が重要なんです。パフォーマンスがお客様に受け取られ、何がしかの反応を生む。そのキャッチボールを繰り返すことで劇場全体の空気にうねりが生じる――。
そうやって劇場内に醸成されたある種の熱を感じることで、お客様も含めたみんなが“この瞬間”、“この空間”に存在する生命力のようなものに触れる――。舞台というのはそういうものだから、地球ゴージャスの作品も常に、その根底に「人間の存在や生死」というものが隠れているはずです。
そんな僕らが今回描くのは、昆虫たちの世界で繰り広げられる「命」と「愛」の物語。なぜ昆虫を選んだのか。エンターテイメントとして、昆虫の動きを踊りで表現するのもおもしろいだろうし、いろいろな種類がいるから、それを現す衣装などの美術も目を引くものができると思った。好きな時に鳴き声をあげて踊れる存在だから、音楽もきっと素敵な曲ができるはず。そうやっていろいろな娯楽性を詰め込めると思ったんです。