部下を育てるには「独立をそそのかせ!」
吉越流マネジメント術が支持される理由
「任せる」の正誤を見極める
いつの時代でも、年配者が若年層に向かって 「最近の若い者は」 と揶揄する声は絶えない。昨今では、政府の教育指針にまで論を向け、「彼らはゆとり(教育)世代だから」 などと、人種が違うかのごとく見る人も少なくない。だが、その悩みに吉越氏は 「待った」 をかける。「コーチングやOJTよりももっと大事なことがある」 という。
まず部下を持つ人に言いたいこと。それは 「ぜひ部下に仕事を任せなさい」 ということです。自分でやったほうが早い。自分でやったほうが正確・・・・・・ それでは何のための組織なのかわかったものではありません。
その弊害となっているのが 「ホウレンソウ」 という言葉です。これは言わずもがな、報告・連絡・相談の略ですね。報告・連絡までは情報共有として必要性はわかりますが、最後の 「相談」 これが問題なんです。何をもって相談というのか?
よくありがちなのがこうです。「現在このような状態にあります。(上司に)どうしましょうか?」。日本語の文法としては相談の体になっていますが、ビジネスのプロセスとして、この相談は、その部下が担当する上で建設的な意味を持ちえません。私ならばこう言ってほしいと思います。「現在このような状態にあります。私たちがとるべき方法はこういう理由でこのような手段だと思います。(上司に)やってもいいでしょうか?」 と。「どうしましょう?」 は相談ではないのです。しかし、今の日本のビジネスシーンでは、当たり前の姿だととらえられている。これでは部下に判断力や決断力はつかないでしょうし、責任感だって持たせられない。先ほど例に挙げた、カードマシンになっているのです。
ビジネスで成功を収めるためには、自分の力で判断し、物事を見極めていく能力が不可欠です。それは、誰かにアドバイスを与えてもらうことこそあれど、本質的に 「教えてもらう」 ものではない。
余談ですが、こんな例があります。私がビジネス講習会の講師として呼ばれたあるセミナーでは、参加者が全員現役の社長でした。そこで私は聞いてみたのです。
「上司に仕事を教えてきてもらって社長になった人、手を挙げてください」。
誰も手を挙げない。それはそうです。仕事というのは、教えてもらうものではないわけですから。自分で学ぶもの。そのセミナーに参加した社長たちは、いずれもこの話に共感していただいていました。
これは、社長でなくても同じです。部長なら課長に、課長なら係長に、そして役職のない社員でも同様。上司が彼らに立場や権限を与えなくては、人は育たないのです。
マネジメントの最重要要素は「関与」
だが、立場や権限を与えることに不安がないといえば嘘になるだろう。人に任せてもし失敗でもされたら、上役である自分の責任問題になりかねない。だが吉越氏はその懸念を笑い飛ばす。立場や権限を与えるということは、完全に手放すことではないというのだ。そのキーワードとなるのが「関与」だという。
部下に任せて判断させることも重要だが、「任せる」 というのは自分がその案件を放り出してしまうことではないんですよ。「任せる」 ということは、一定の判断を部下にさせ、自分は彼らを取り巻く状況を 「管理する」 という役割に収まることなのです。
そこで大事なのが 「デッドライン」。例えば、月曜に提出しなければいけないプレゼンテーション案があるとしましょう。よくない例を先に出すと、「月曜までにきちんとやれ」 と指令を出し、月曜に仕上がったものを見て、「これは私が期待していたものと違う」 と難癖をつけることです。難癖で収まればまだしも、「聞いていなかった」「私はちゃんと指示していた」 と責任転嫁するようなことがあれば最悪です。その時点で、上役は上役としての管理力がないことを露呈しているだけなのですから。
では、どうすればいいか? 月曜までに仕上げるならば、その合間にいくつかのチェックタイミングを設け、上役は自分の目で確認しなければいけません。つまり、最適な答えが導かれるよう、進行状況や部下のメンタルなどを管理していくことなのです。そのチェックタイミングが 「デッドライン」 なのですね。
「管理」 は言いかえると 「関与」 とも言えます。ひとつの例で言えば、海外の企業のCEOは、この 「関与」 の仕方において、日本企業とはまったく異なる考え方を持っています。海外のCEOはとにかく忙しい。ですが、どんな些細なことにも必ず何かしらで関与することが多いのです。チーフ・エグゼクティブ・オフィサーのエグゼクティブは執行するという意味。物事を遂行していく立場なのですから、現場に近いところにいなくては見るべきものも見えなくなってしまいます。現場と同じような情報を持ち、まずは任せる。任せるけれども関与する。フラットな組織にしてできるだけ現場に近い場所に自分を置き、守備範囲を広くする。これはシンプルでいて、正しいマネジメント哲学なのです。