先輩との隙間を埋めていく
紅白を通じて戦友を得た
総合司会を務めることが決まり、先輩の山川静夫さんにアドバイスをいただきました。そのときに言われたのが、普段通りに生活するのが大切だということです。「紅白に出るからといって、●●断ちをするなどはやめなさい」と言われました。山川さんは紅白で司会を務めたときに、靴を新調されたそうです。ただ、その靴が微妙にサイズが合っていなかったようで、どうしても気になってしまった。靴に気を取られて、マイクを持たずにステージに出てしまったそうなんですよ。
靴だけは履き慣れたものにしなさいと言っていただいたので、普段から仕事で使用している革靴を履いて紅白に出演しました。紅白での衣裳はタキシードだったので、本来であればエナメルの靴を履かなければいけないんですけどね。でも、そのおかげか総合司会を務めた6年、大きな失敗をせずに済みました。
紅白は、平和的な戦いだと思っています。戦うと言っても、紅組と白組で戦うのではなく、相手は自分なんです。プレッシャーに打ち勝つ戦いなんですよ。私は、総合司会を務めた6回のうち、1回目と2回目の記憶がありません。緊張とプレッシャーで、記憶が残らなかったんです。3回目からしっかりと覚えているのは、紅組の司会を後輩の久保純子さんが務めたからでしょう。緊張している後輩のためにも、私がしっかりしていなければいけませんからね。
指導者の立場にあると、あらためて自分を鼓舞することができました。後輩には頼りがいのある背中を見せなければいけないし、良いアドバイスができないといけない。もちろん、自分が失敗するわけにはいきません。それが部下を持つということですよね。
ただ、紅白という大舞台であっても、できて当たり前なんです。その当たり前を、失敗せず当たり前に遂行できたときに喜びを感じました。紅白に出場している方々は、歌手であれ司会者であれ全員“戦友”です。紅白は秒刻みでスケジュールが管理されているので、本番中はカメラに映っていなくても声を交わす余裕はほとんどありません。でも、すれ違いざまにお互い目で鼓舞し合うんです。
これは紅白に出場した人にしかわからない感覚かもしれません。ほかの出演者の方と目が会ったときに、お互いエールを伝え合っているのがわかるんです。すれ違ったときは「頑張りましょう!」、出番が終わった歌手の方と目が合ったときは「良かったですよ!」と目で伝えていました。
そういった戦友を得たことは、今でも大きな財産となっています。一緒に舞台に立った歌手の方々が、今でも共に戦い抜いた仲間として接してくれるんです。でも、私は今でもテレビで紅白を見られません。当時の緊張が蘇ってきてしまうんですよ(笑)。今は、ラジオで紅白を聴いています。
皆さんにぜひ試してみていただきたい紅白の視聴方法があります。テレビで紅白をつけて、音声は消す。そしてラジオで紅白を聴くんです。というのも、ラジオの紅白はアナウンサーが声ですべての情景をお伝えしなければいけません。その技術はすごいですよ。ぜひ今年の紅白は、ラジオ中継で聴いてみてください。