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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

 
 
報道番組で求められている口調をなかなか習得できなかったという宮本さん。どのようにその技術を手に入れたのかお聞きすると、「先輩方がニュースを読んでいるのをとにかく聞いて考えた」と話してくれた。
 

先輩との隙間を埋めていく

 
ニュースを読むのがうまいと言われている先輩方の様子をとにかく観察したんですよ。すると、「なんでこの一文、助詞のところで息継ぎをせずそのまま読むんだろう?」といった気付きが生まれてきました。それを自分でも実践していく中で、ある日突然「ああ、こういうことだったのか」と理解できたんです。
 
できないことがあれば、先輩と自分のどこが違うのかを探ること。そしてその隙間を埋めていくんです。1日、2日では習得できるものではないので、地道な作業が必要ですよ。ただ、芸能番組では先輩のように立ち振る舞えば良いというわけではありません。
 
例えば、私は2005年から2007年まで『NHKのど自慢』を担当していました。番組では毎回出場者が20組います。その方々に対して、ステージ上でインタビューをするんですよ。私の前任の先輩アナウンサーは、その質問内容と回答を前日に出場者の方とすべて打ち合わせしていました。でも、私はそのやり方ではなく、ステージ上で初めて回答してもらうようにしたんです。
 
打ち合わせやリハーサルを含めると、出場者の方は3回同じ質問に答えることになります。プロのタレントさんなどであれば、本番でも同じ熱量でコメントしてくださるでしょう。ただ、一般の方となるとそれはなかなか難しいと思っています。コメントにも、“鮮度”があるんですよ。私はその鮮度を保つために、打ち合わせの段階で「こういった質問をします」「回答は本番でお願いします」と伝えていたんです。
 
そうしたスタイルで進行していると、当然予期せぬハプニングもあります。『NHKのど自慢』は生放送ですから、秒単位でコントロールしなければいけません。タイムキーパーの役割はいないので、アナウンサーが自分で「今何秒おしているから、これだけ短縮させないといけないな」と把握する必要があるんです。そうしたときに起こるハプニングも楽しむようにしていましたね。
 
ただ、ハプニングを楽しめない番組もあります。その最たる例が『NHK紅白歌合戦』ですね。初めて紅白の総合司会に抜擢されたときは、喜びよりも先に「失敗したらどうしよう」という恐怖を覚えました。これまで名だたる先輩方が総合司会を務めてきて、普段なら絶対にしないミスをしているところも見てきました。NHKホールには、魔物が住んでいるんですよ。
 
 
NHKに入局してから22年の時を経て、目標であった『NHK紅白歌合戦』の総合司会に抜擢された宮本さん。総合司会を担うプレッシャーや、その中で得たやりがいなどをたっぷりと話していただいた。
 

紅白を通じて戦友を得た

 
総合司会を務めることが決まり、先輩の山川静夫さんにアドバイスをいただきました。そのときに言われたのが、普段通りに生活するのが大切だということです。「紅白に出るからといって、●●断ちをするなどはやめなさい」と言われました。山川さんは紅白で司会を務めたときに、靴を新調されたそうです。ただ、その靴が微妙にサイズが合っていなかったようで、どうしても気になってしまった。靴に気を取られて、マイクを持たずにステージに出てしまったそうなんですよ。
 
靴だけは履き慣れたものにしなさいと言っていただいたので、普段から仕事で使用している革靴を履いて紅白に出演しました。紅白での衣裳はタキシードだったので、本来であればエナメルの靴を履かなければいけないんですけどね。でも、そのおかげか総合司会を務めた6年、大きな失敗をせずに済みました。
 
紅白は、平和的な戦いだと思っています。戦うと言っても、紅組と白組で戦うのではなく、相手は自分なんです。プレッシャーに打ち勝つ戦いなんですよ。私は、総合司会を務めた6回のうち、1回目と2回目の記憶がありません。緊張とプレッシャーで、記憶が残らなかったんです。3回目からしっかりと覚えているのは、紅組の司会を後輩の久保純子さんが務めたからでしょう。緊張している後輩のためにも、私がしっかりしていなければいけませんからね。
 
指導者の立場にあると、あらためて自分を鼓舞することができました。後輩には頼りがいのある背中を見せなければいけないし、良いアドバイスができないといけない。もちろん、自分が失敗するわけにはいきません。それが部下を持つということですよね。
 
ただ、紅白という大舞台であっても、できて当たり前なんです。その当たり前を、失敗せず当たり前に遂行できたときに喜びを感じました。紅白に出場している方々は、歌手であれ司会者であれ全員“戦友”です。紅白は秒刻みでスケジュールが管理されているので、本番中はカメラに映っていなくても声を交わす余裕はほとんどありません。でも、すれ違いざまにお互い目で鼓舞し合うんです。
 
これは紅白に出場した人にしかわからない感覚かもしれません。ほかの出演者の方と目が会ったときに、お互いエールを伝え合っているのがわかるんです。すれ違ったときは「頑張りましょう!」、出番が終わった歌手の方と目が合ったときは「良かったですよ!」と目で伝えていました。
 
そういった戦友を得たことは、今でも大きな財産となっています。一緒に舞台に立った歌手の方々が、今でも共に戦い抜いた仲間として接してくれるんです。でも、私は今でもテレビで紅白を見られません。当時の緊張が蘇ってきてしまうんですよ(笑)。今は、ラジオで紅白を聴いています。
 
皆さんにぜひ試してみていただきたい紅白の視聴方法があります。テレビで紅白をつけて、音声は消す。そしてラジオで紅白を聴くんです。というのも、ラジオの紅白はアナウンサーが声ですべての情景をお伝えしなければいけません。その技術はすごいですよ。ぜひ今年の紅白は、ラジオ中継で聴いてみてください。