刀鍛冶の業と誇りを守り
築地と共に生きる包丁店
高度な技を習得するために必要なこと
城 若者の技術職離れが取り沙汰される昨今ですが、石川さんはどんなきっかけでこの仕事に就いたのですか。
石川 募集広告が出ていたのをたまたま目にして、他とは違う珍しい仕事であることに強い関心を抱きました。最初は何もできなかったのですが、修業をするうちに少しずつ技術も身に付いてきました。そして、この仕事を知れば知るほど、ものすごい奥深さを感じるようになってきて、今はこの仕事の虜になっていますね。
小川 広告を出した当時、先代は高齢でしたから、私は、「父もいつかは仕事ができなくなるかもしれない」 と思っていました。でも、先代の伝統技術や職人としての心意気、そして築地の歴史や文化を後世に伝えていく必要があると切実に感じたんです。それで、今まで求人など出したことはなかったのですが、若い方を募集してみたんです。
城 それで石川さんが選ばれたわけですか。歴史ある職人の世界に足を踏み入れてみて、厳しさや難しさも感じたでしょうね。
石川 そうですね。やはり、一朝一夕で身に付く仕事ではありませんから。鍛冶をしても研ぎをしても、親方の仕事と私の仕事には雲泥の差がありました。親方は手取り足取り教えてくれるようなことはありませんでしたが、端で見ているだけでも、その仕事ぶりは別格であることがひしひしと伝わってきたものです。
城 わかるな、それ。本当に良い指導者は多くを語らないものです。サッカーでも名監督、名コーチと言われる方は、必要なポイントだけ伝え、あとは選手に考えさせるんですよ。
石川 確かに親方は、「やってみな」 と言うだけでした。失敗しても何も言いません。だから頭をフル回転させ、「どうすればうまくいくのか」 を考えました。ただ、親方と私は違う人間ですから、全く同じ仕事をするのは難しい。そこで教えていただいたことをベースにして自分ならではの方法を考え、少しでも親方の腕に近づけるように、今も努力しています。
小川 先代は石川のことを 「筋がいい」 と褒めておりました。技術を吸収する速さはもちろんのこと、自分で工夫して学び取る前向きなところが気に入ったから、弟子にしたんだと思います。
城 陰では石川さんの能力を認めていたんですね。いい話だな。ぼくの主催するサッカースクールでも、教えたことだけを地道に練習する子もいれば、それをベースに自分なりのテクニックを磨く子もいます。基礎は大事ですが、ワンランク上を目指そうと思えば、自分なりの工夫が必要。そして、それに気付くかどうかで成長の度合いは全く異なるものです。
小川 特に当店は一丁ずつが手づくり。本鍛造と言って、一丁ずつ素材を炉で熱し、叩いて形をつくる昔ながらの製法を用いています。また、お客様の用途や年齢、好みや癖などによって重さや刃の長さを変えていますし、もちろん研ぎもお客様によって好みが様々。それらを会得していくには、一つずつ身体で覚えていくしかないんです。