こんにちは。ツアープロコーチの内藤雄士です。
当コラムもついに最終回。この半年間、ツアープロコーチの視点、考え方などを説明してきましたが、いかがでしたでしょうか。今回はコーチの視点だけではなく、ビジネスマンの一人としても、日頃思うことをまとめてみました。
見守ることで若者は成長する
皆さまよくご存じの石川遼プロ。彼が鮮烈なデビューを飾ったのは2007年のことでした。初出場した国内男子ツアーに15歳245日という世界最年少記録で優勝し、「ハニカミ王子」として一躍人気者になりました。翌年1月にプロに転向し、高校生プロゴルファーとしてデビューすると、同じ年の11月には早くも、プロとしても初優勝を飾ります。世界に通用する逸材の出現に、僕の心も躍りました。
彼の勝利の陰には“キーマン”がいました。ツアーに帯同した父親の石川勝美さんです。信頼できる肉親がそばにいるという安心感が石川プロのメンタルに良い作用を及ぼし、彼一流の「攻めの姿勢」につながったのは、想像に難くありません。
僕はジュニアレッスンで、親御さんたちに積極的な付き添いを奨励しています。試合はもちろん練習でも、お母さんの「がんばれ!」という声援は最高の発奮材料になるからです。事実、子どもたちは声援を受けると、より高いパフォーマンスを発揮します。
これは子どもに限った話ではありません。社会人だって、尊敬できる上司、信頼できる仲間が近くにいてくれるだけで、平常心を保って良いパフォーマンスを発揮できるのではないでしょうか。
僕はツアープロコーチであるとともに、ゴルフスクールの経営者でもあります。スクールには当然インストラクターがたくさんいます。僕はスクールを束ねる立場として、若手インストラクターには特に積極的に声をかけるようにしています。彼らの才能を伸ばすため、ちょっとした心配りを欠かしません。これは僕、内藤雄士の、大事な役割だと思っています。
商談では確かな証拠の提示を
ツアープロコーチになって約20年。テレビ解説やゴルフ雑誌へのコラム執筆など、仕事の領域が広がるにつれて、才能ある方々と交わる機会が増えてきました。
日本経済を牽引する経営者の方々にも非常に触発されました。この10数年で、有名無名を問わず何人もの方々をレッスンしたり、時には一緒にコースへ出てラウンドしたり、コーチをさせていただいたりしてきました。そこでうかがったお話はどれも中身が濃く、勉強になることばかりでした。中でも特に影響を受けた教えの1つが、「エビデンス(証拠)を明確に提示する」ということです。
上場企業の経営者様ともなると皆さん多忙ですし、ゴルフを楽しむ時間は限られています。そういった皆さんをレッスンするにあたっては、即効性のある解決法が求められます。つまり、「スイング矯正に、なぜこの方法が良いのか」を、わかりやすく、端的に伝えなければ、すぐに不満げな表情をされてしまいます。このあたりは皆さん実に正直というか、素直です(笑)。
これって、実際のビジネス現場でも見られる光景ですよね? 例えば見積書を提示して、「なぜ、この額になるの?」と尋ねられるケース。答えが曖昧だと、たちまち相手は怪訝な表情になり、契約を破棄されることだってあるでしょう。逆に、理に適った説明をしたら、商談はとんとん拍子に進むのではないでしょうか。
前回のコラムで「データ活用の重要性」について書きました。それをこの場で再度申し上げましょう。「自分の意見や提案を納得してもらうには、数値やデータで根拠を明確に示すべきです。伝え方がシンプルになり、相手も理解しやすいから」。――おっと、もちろん、「入念な前準備」は絶対条件ですよ。
「スイングオタク」は最高の賛辞
クラブを握って早40年。ゴルフへの情熱はまったく衰えません。むしろ、ますます盛んです。どうしてなのか・・・自分でも考えます。そして毎回、「ツアープロコーチという生業に自信があるからだ」と思い至ります。
僕は学生時代に単身渡米し、2年間の武者修業で、ゴルフ先進国のコーチングスキルを身に付けました。帰国後は仲間たちの期待にこたえ、現地で吸収したスイング理論の全てを伝えてきました。出し惜しみはゼロだったはず。すると仲間たちは、僕のことを評してこう言いました。
「内藤は、日本一のスイングオタク」。
競馬の武豊ジョッキー、将棋棋士の羽生善治名人、アニメーターの宮崎駿監督・・・。トップランナーの多くは「**オタク」と呼ばれるそうです。かつてはマニアをやや蔑んでいう言葉でしたが、“クールジャパン”や“ジャパニメーション”といった用語が海外でも知られるようになった今は、「特定の道を極めた者」という意味で敬意をこめていう言葉になったんだとか・・・。だとすれば、僕としては光栄至極(笑)。ゴルフに関わってきて本当に良かったし、天職だと感じています。
ひるがえって、ビジネスの世界。僕が知るかぎり、有能な経営者は例外なく「仕事オタク」です。どんな時もビジネスの目標に向けて走り続けていらっしゃいます。結局、仕事を好きになることがビジネスを成功させる前提条件なんでしょうね。
そこで最終回は、読者の皆さんに、僕なりのエールを送ります。
「一番深い理由に立ち返りましょう!」
好きなビジネスなのに行き詰まった、好きでやっている仕事のはずなのに疑問を感じた・・・etc。そんな時は、なぜ自分がそれを始めたか、今まで打ち込んで続けてこられたかを思い出すんです。僕の場合、ずっとコーチの仕事を続けてこられたのは、ゴルフが大好きだからでした。なんといっても、「スイングオタク」って呼ばれるぐらいですからね(笑)。皆さんも、すぐには思い出せなくても大丈夫。「なぜだかわからないが、やっぱりこの仕事が好きだ!」という気持ちさえブレなければ、なぜ好きかの理由を探しなおすプロセスも、「また愉し」です。
<連載了>
内藤雄士の 「コーチは愉し」
vol.6(最終回) 仕事に打ち込む全ての人へ
著者プロフィール
内藤雄士 Yuji Naito
ゴルフツアープロコーチ
経 歴
1969年9月生まれ。日本大学ゴルフ部在籍中にアメリカにゴルフ留学し、最新ゴルフ理論を学ぶ。帰国後、ゴルフ練習場ハイランドセンターにラーニングゴルフクラブ(LGC)を設立し、レッスン活動を開始。1998年、ツアープロコーチとしての活動を始め、2001年には、マスターズ、全米オープン、全米プロのメジャー大会の舞台を日本人初のツアープロコーチという立場で経験。丸山茂樹プロのPGAツアー3勝をはじめ、契約プロゴルファーの多数のツアー優勝をサポートした。主なレッスン著書のうち、500円シリーズ (学研)はシリーズ合計130万部を超え、今も売れ続けるベストセラー。現在は、ツアープロコーチとしての活動やジュニアゴルファーの育成に力を入れる傍ら、ゴルフ専門チャンネル「ゴルフネットワーク」にて「あすゴル」にレギュラー出演し、PGA TOURの解説を担当している。また中日スポーツ・東京中日スポーツにて毎週木曜日「内藤雄士の必ず上達するこれが最新スイング」を連載中。
オフィシャルホームページ
http://www.naitoyuji.com
http;//www.golf-highland.co.jp (ハイランドセンター)
(2015.4.8)